【黙って見ているわけには】
「作戦は一点突破で敵の頭を叩く。勇者が最も得意とする方法。それしかありません」
アルバロノドフが去ってから、フィオナはすぐに提案した。馬部さんも迷う様子なく頷く。
「私も賛成です。敵の強化兵の数は?」
馬部さんの質問にオペレーターさんが応える。
「補足できただけで、三百体を超えています」
それを聞いたフィオナが溜め息を付く。
「かなりの数を投入してきましたね。馬部、アルバロノドフを討つために必要な勇者の数はどれだけだと思いますか?」
馬部さんは何も映っていないモニターを見つめながら目を細めた。
「確実に倒すとしたら、七人……八人でしょうか。最初からブレイブモードを使って畳みかけることが前提ですが」
「八人がアルバロノドフの前に立つため、他の勇者たちが全力で道を作る。一人でも多くの強化兵の足を止めてもらわなければ」
「しかし、強化兵の数が三百を超えるとなると、それも厳しいかもしれませんね」
眉を寄せる馬部さんに、フィオナは短く答える。
「では、アルバロノドフを叩く勇者は五人にしましょう。ただし、精鋭中の精鋭を選びます」
五人で行ける、という確信があるように見えるけれど……あれだけ強いアルバロノドフだ。大丈夫なのだろうか。
馬部さんが反対しないところを見ると、妥当な数というか、それ以上の戦力は割けない、ということかもしれない。
っていうか、その五人に僕が選ばれたらどうしよう。あんなのと戦ったら、無事では済まないぞ……?
「候補は既に決まっています」
フィオナの落ち着いた声に、僕の肩が震えた。
二分後、司令室に集められたのは、四人の勇者たちだった。しかも、そのうちの二人は知った顔。
一人は皇颯斗。
僕が通うアミレーンスクール出身の勇者で、両親は前の戦争の英雄。つまりはエリートで、ハナちゃんの弟でもある。
もう一人は、狭田慶次。
任命式の朝、皇に絡んでいた金髪坊主の男だ。後の二人は知らないが、たぶん名の知れた勇者なのだろう。
でも、一人足りないぞ……?
やっぱり、僕が選ばれるのか?
「四名ですか。もう一人は、どうするのですか?」
馬部さんの指摘に反応したのは、狭田だった。
「俺一人で十分だってことやろ。でっかい槍を持っているくらいじゃ、俺はびびらんぜ」
狭田の発言を無視して、フィオナがこちらを向いた。
や、やっぱり……僕なのか!!
「綿谷華。お願いできますか?」
え?
僕じゃなくて、横にいるハナちゃんを見ていたのか!
「ちょっと待って!」
僕は手を挙げる。
「は、ハナちゃんが行くなら、僕が行きます」
そうだ。ハナちゃんをあんな危ないやつと戦わせるわけにはいかないだろう。めちゃくちゃ怖いけど……僕が行かないと!
「ダメです。絶対にダメ」
「え?」
しかし、フィオナに一蹴されてしまった。
「な、なんでなんで!? 僕だって正式な勇者なんだから、参加してもいいじゃないか」
「ダメ。貴方はこの五人に比べたら、実績があまりに薄い。ただ、死にに行かせるようなものでしょ」
た、ただ死ぬだけ……?
その瞬間、アルバロノドフの一刺しで崩れた勇者の姿が脳裏によぎる。吐き気がこみ上げてくるが、ここで情けない姿を見せるわけにはいかない。フィオナが再びハナちゃんの方を見る。
「綿谷華。もう一度言います。お願いできますか?」
ハナちゃんが一歩前に出た。
「もちろんです。必ずアルバロノドフを討ってみせます」
「期待しています」
ま、マジかよ……。
いや、ダメだって。絶対にダメ!
「お願いします。僕も一緒に! 一人増えたって問題ないでしょ!」
再び前に出る僕だったが、フィオナは眉一つ動かすことはない。
「貴方には私の護衛を命じます。敵もどんな策を用意しているのか分かりません。万が一のとき、貴方と馬部が私を守りなさい」
な、なんだよ。
重要な役割みたいに言っているけど、頼りにならないから大人しくしてろ、ってことじゃないか。
「誠」
ハナちゃんが小声で僕に言う。
「私に任せておけ。それとも、私はそんなに頼りないか?」
「そ、そんなことはないけれど……」
「私のかっこいいところ、見せてやるよ」
は、ハナちゃん……。
ハナちゃんがかっこいいことは十分知っているから。
「無理しないで、帰ってきてね」
「当たり前だ」
僕たちの会話が途切れるのを待っていたみたいに、フィオナがこのタイミングで指示を出した。
「では、五人は後方で待機。戦闘再開の後、アルバロノドフの姿を補足したら、こちらから指示を出します」
五人が返事して、司令室を出て行く。
もう行っちゃうのか?
あんな危険な敵のところに、ハナちゃんが!
何でもいい。僕にできることはないのか。ハナちゃんが無事に帰ってくるために……何かを!
「す、皇」
僕は思わず、皇を引き止めていた。皇は視線だけをこちらに向ける。
「ハナちゃんのこと、頼む」
皇は視線を正面に戻すと、呟くように言うのだった。
「華先輩は、君に心配されるほど弱くない。それに、僕がいれば強化兵なんて脅威にならない」
「違うだろ」
狭田が割り込んでくる。
「俺がいるから、強化兵も脅威にならんのや。お前の力じゃない」
「君たち」
なんだか騒ぎになりそうな僕たちを見て、馬部さんが止めに入る。
「これから始まるのは、スクールのランキング戦じゃない。命がけの戦いだ。今まで以上に、一分一秒を大切にしなさい」
馬部さんは、穏やかな今までの雰囲気とは違い、殺気立っているように見えた。僕たちが反抗するものなら、容赦ない制裁がありそうな……。
「す、すんません」
狭田も同じように感じたのか、大人しく司令室を出ていった。
そして、アルバロノドフが指定した十分という時間は、瞬く間に過ぎてしまうのだった。
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