【敵は常勝将軍】
司令室は大騒ぎだった。部屋の中心に馬部さんとフィオナ、それからセレッソの姿が。
「おい、誠。こっちだ」
ハナちゃんが少し離れたところで手招きしていた。
「ご、ごめん。遅れちゃって」
「それより、アッシアの兵が来るぞ。見ろ」
司令室にはいたるところにモニターが設置されいたが、正面のそれは特別に大きい。そんな大きなモニターに、大きい船が三隻も映し出されていた。ちょうど、港に到着したところらしい。
おそらくは、カザモ基地から放たれた魔法が船を攻撃しているようだが、向こうもバリアを張っているらしく、それは届いていなかった。
「アッシア兵が上陸します!」
オペレーターさんらしき人の声。すると、モニターには船から降りる人々が映し出された。黒いプロテクタに全身を包み、統制が取れた動きで船から港へ移動していく。あれが、アッシアの兵士たちか……。
「迎撃!」
馬部さんの指示と同時に、港で待ち構えていたオクトの戦士たちが動き出す。戦争、というのだから、銃を撃ち合うかと思いきや、そうではなく、剣や槍、杖らしいものを武器にしている人がほとんどだ。そこは、剣と魔法のファンタジー世界らしい。
「なんでみんな銃を使わないの?」
小さい声でハナちゃんに聞いてみる。
「銃だって? そんなの、護符があるからに決まっているだろ」
護符って……アトラ隕石の呪いを防ぐ、お守りみたいなものじゃないのか?
「護符は悪意を持って飛んでくるものを無効化するんだよ。どうしても遠距離から攻撃したいなら、魔法を使うしかない。魔力による攻撃でしか、護符の力を突破できないからな」
なるほど、この世界の戦争は、護符ありきなのか。
「あ、でも……魔弾とかいうのがあったよね? あれは何なの?」
「その名の通りだよ。魔力を弾丸に込めて撃つ。魔力による攻撃だから、護符の力だって突破できるんだ」
「じゃあ、魔弾使いをたくさん集めれば、戦いは有利なんじゃない?」
「お前、本当にびっくりするくらい常識を知らないときあるよな」
ハナちゃんはそう言って呆れた顔を見せるが、もう慣れているらしく、すぐに説明してくれた。
「魔弾使いみたいに、プラーナを魔力に変換して、物体に注入できる才能は稀だ。一国に百人いたら多い方だろう。
それに、魔弾は通常の弾丸に比べて弾速が落ちるから、お前ほどの反射神経がなくても避けることだってできる。
そもそも、護符の力に当たれば、魔弾は一瞬制止するから、訓練した人間なら誰でも避けられるんだよ。だから、魔弾はあくまで足止めや不意打ちの手段にしかならない」
「じゃあ、魔弾をマシンガンみたいに連射したら?」
「マシンガン? まぁ、連射も無理だ。魔力を弾丸の中に封じた状態を維持できる時間は一分程度。だけど、魔力を注入するまで時間はかかる。
だから、魔弾使いは連続して銃を撃つことはできないんだ。できても、せいぜい三発……有能なやつなら五発って程度じゃないか?」
ハナちゃんの話を聞く限り、この世界は銃で戦うことはかなり珍しいケースみたいだ。だとしたら、この戦いは弾丸の雨の中を搔い潜りながら戦う、なんてことはなさそうだな。
「敵の所属、判明!」
突然、オペレーターさんが、動揺した声で叫んだ。
「敵はセルゲイ・アルバロノドフの旗を掲げています!」
モニターに旗が映し出されると、司令室がざわついた。有名な人物なのだろうか。
「セルゲイ・アルバロノドフ。かつてアニアルークの常勝将軍と言われた男だな」
突然、真横に解説者が現れた。
「せ、セレッソ。いつの間に」
セレッソは翡翠色の髪をかきあげ、得意げに言った。
「お前が知らない言葉を耳して、バカ面をまき散らしているようだから、解説にきてやったんだぞ」
「もはや、その無駄に人を傷つける言い方は気にしねぇよ。正直、助かるぜ。で、そのセルゲイなんちゃらってのは、何者なんだ?」
「二十年前、アッシアは隣国のアニアルークに攻め入った、アニアルーク侵攻の話は、宗次から聞いているな?」
僕は頷く。
オクトとアッシアの戦争の始まりについては、三枝木さんから説明してもらった。
「その際、アニアルークはアッシアの圧倒的な戦力を前に敗北を続けた。アッシアの兵力はもちろんだが、当時から強化兵は脅威的。小国のアニアルークが太刀打ちできないことは当然のことだ。
しかし、唯一勝ち続けた部隊があった。それを率いていた男が、セルゲイ・アルバロノドフ。アッシアがどんなに強力だったとしても、アニアルークがどんなに不利な状況だったとしても、セルゲイ・アルバロノドフは勝ち続けた。
ゆえにやつは常勝将軍と言われ、当時のアニアルークにとって英雄だったのさ」
「常勝……? そんなに強い人がいたのに、アニアルークはアッシアに負けたのか?」
「どんなに強い人間がいても、所詮は人間だ。魔王を前にして、戦う意思を持続できるわけではない」
な、なんだよそれ……。
「っていうか、なんでそんな人がアッシアの兵を率いてオクトに攻めてきているんだ?」
「魔王の軍門に下った。それだけのことだろう」
よく分からないけれど、百戦錬磨の将軍が今回の敵ってことか。初戦にしてはハードルが高すぎるじゃないか、と不安を覚える僕だったが、横に立つハナちゃんはそうでもないらしい。
「まさか、アニアルークの英雄が相手になるなんてな」
不安どころか、獰猛な笑顔は歓喜のそれに近い。これから、 セルゲイ・アルバロノドフと戦いに行くのでは、と思うくらい、殺気立っている。
「セルゲイ・アルバロノドフ、港に上陸しました!」
アナウンスと同時に、一人の男がモニターに映し出される。
といっても、その姿は全身を白い鎧に包み、顔も面で覆われていたことから、表情をうかがい知ることはできなかった。
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