【勇者射出】
「誠さん、四分後に追いつきます! 準備してください!」
ニアが二台のノートパソコンを操作しながら言った。
「準備って何すればいいの!?」
「アインス博士が用意してくれた、スーパーカタパルトでスタンバイしていてください!」
「スーパーカタパルト?」
「それです!」
ニアが指をさす方を見てみると、何だか見たことがある器具があった。陸上の短距離走で、選手がスタートダッシュのときに足をかける、あの器具に似ている。
「これって、こう使うの?」
僕はスーパーカタパルトの上でクラウチングスタートのポーズを取った。
「はい。そのまま待っていてください」
「おい、博士から何か連絡はあったか? フィオナは無事なのか?」
痺れを切らしたのか、今度はセレッソが質問すると、ニアは高速で手を動かしながら答えてくれた。
「やはり、連絡はないみたいです。姫様はかなり危険な状態かと」
「それで、どうやって助ける? 高速鉄道に乗り移れるのか?」
「今から説明します。誠さんもそのままの状態で聞いていてください。後、これをブレイブシフトにつなげておいてください」
ニアのパソコンから伸びるコードを、ブレイブシフトの側面になる小さな差込口につなげる。すると、ニアは今まで以上に素早い手つきでパソコンを操作し始めた。もう指の数が倍あるんじゃないか、と思うほどのスピードだ。
「高速鉄道に追い付いたら、スーパーカタパルトで誠さんを射出。姫様がいる車両に撃ち込みます」
射出?
撃ち込む?
僕を走っている新幹線に突っ込ませるってこと?
「ただ、姫様のいる車両は王族専用。簡単に窓を突き破ることはできません」
「それで俺の出番か」
ずっと黙っていた魔弾使いのお兄さんが顔を上げた。
「はい。窓に二発ほど魔弾を撃ち込んでください。護符で守られていたとしても、窓の耐久力は落ちます。そこに、ブレイブアーマーをまとった誠さんをスーパーカタパルトで撃ち込めば、窓を突き破って車両内に到達できる計算です」
やっぱり、僕も弾丸みたいに飛ばされるんだ!
「でも、まだ一回も変身できていないけれど……」
「それは成功させてください……としか言えません」
ま、マジかーーー!
でも、そうだよね!
これって「できない」で済まされる状況じゃないよね!
「ただ、私が自作中のプラーナ制御のサポートプログラムを今、誠さんのブレイブシフトにインストールしています。気休め程度かもしれませんが、誠さんのブレイブチェンジを補助するはずです」
「い、今やってるの? それ、今まで試したことある?」
「ありません。ぶっつけ本番です!」
それって……失敗する確率の方が高いのでは?
ニアが小さく息を吐いた。
「よし、スーパーカタパルトの調整も終わりました。後は座標を設定するだけ」
さっきから、ニアは二台のパソコンを操作しているけど、スーパーカタパルトを調整しながら、プラーナ制御のサポートプログラムを作っているってことか。す、すげぇ……。
「おい、高速列車が見えてきたぞ!」
セレッソが地上の方を指さす。
僕の位置からも移動する新幹線が見えた。ニアがパソコンに目を向けたまま言う。
「もう少しでトンネルに入ります。その前には突入しなければ」
「だったら、そろそろ変身しておきたいんだけど!」
「トンネルへ入る前に突入するとしたら、二分後に射出しなければなりません。ブレイブシフトの調整はその一秒前に終わります」
「い、一秒!?」
「大丈夫です。予定よりコンマ五秒は早く完成させてみせます」
それ、ぜんぜん余裕にならないから!
「って言うか、本当に大丈夫? 高速鉄道の側面にぶち当たって死んじゃったりしない?」
「それは私に任せてください。三回は計算し直してチェックしてから射出します。それに、万が一外れたとしても、ブレイブアーマーを装備していれば、死にはしません。たぶん」
た、たぶん?
「だそうだ、誠。後はお前次第だ。絶対にブレイブチェンジを成功させて、フィオナを助けろよ」
セレッソが僕の肩を叩く。
いつものことだが、気軽に言ってくれるじゃないか……。
待てよ。
これ、変身できなかったら確実に死ぬやつじゃん。
ヘリコプターから飛び出すだけで怖いのに、死と隣り合わせなんて、今までとやばさのレベルが段違いじゃないか。
祈る気持ちで、ブレイブシフトにプラーナを流し込んでみたが、何の反応もなかった。
「残り一分。ここから集中するので、先に言っておきます。誠さん、姫様をお願いしますね!」
ニアの指がさらに速く動き出す。気付けば、並行して走る高速鉄道の姿があった。マジで怖いんだけど……。
「おい、新人勇者」
魔弾のお兄さんがスナイパーライフルを構えながら声をかけてきた。
「お前は何のためにここにきた? 誰のためだ? ここにくるまで、誰に助けられた? それをよく考えろ」
「わ、分かりました」
集中しろ。
何のためにここにきて、誰のために戦う?
そして、僕を支えてくれた人たちのためにも、絶対に負けられない。セレッソと初めて出会ったあの日のこと。ハナちゃんや三枝木さんが僕に向けてくれた笑顔。勇者たちのために、出発直前まで準備を怠らなかったフィオナの姿が思い浮かんだ。
そして、ブライアの顔が。
……負けられるか。
あんな野郎に負けない。
あんな野郎にフィオナを殺させるかよ!
「プラーナセンサーによって姫様らしき人物の位置を確認。誠さんの射出まで十秒!」
ニアの言葉に、セレッソが僕を見た。
「誠、頼んだぞ!」
「七、六、五」
僕のすぐ後ろで「プシュンッ」と空気が抜けるような音が二回。たぶん、魔弾使いのお兄さんがスナイパーライフルを撃ったんだ。
「四、三、二」
ニアが僕の腕にあるブレイブシフトとつながっているコードを抜き取った。
「一、射出!」
ガシャン!という音と同時に、僕は左手でブレイブシフトを掴む。スーパーカタパルトに押し出される感覚はほんの一瞬。落下、というよりは、とてつもない力で引っ張られているみたいだった。その力によって視界が歪み、感じたことのない加速と空気抵抗を全身に受ける。
だけど、今の僕はびびってなんかいない。
やってやる!
それだけだ!
「変身!」
そして、僕の体が光に包まれた。同時に、一瞬だけ何か膜のようなものを突き破るような感覚があり、加速と空気抵抗が消失した。
ドンッ、という衝撃を両足で受け止め、
顔を上げると、広々とした車両の風景が。
「プロトタイプアーマー……? もしかして――」
その呟きはフィオナのもの。
そして、僕の視線の先にはブライアの姿が。僕はやつに言い放つ。
「お前を追ってきたぞ、ブライア。フィオナは絶対に殺させないからな!」
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