【プラーナってなに?】
「実はフィオナ姫から個人的なお願い、と連絡があってな」
研究室に戻ったアインス博士が説明してくれた。
「誠が捕らえられた部屋を監視して、記録もしてほしいと。あと、何者かが誠を襲うかもしれないから、誰にも悟られないよう対策しておいてくれ、とも言ってたな。だから、鉄格子も護符と同じ効果があるものに入れ替えておいたんだ。結構、大変だったんだぞ。感謝せい」
「あ、ありがとう。博士」
「それから、この緑色の髪のお嬢ちゃんから何か要望があった場合は、姫のお願いだと思って聞いてやってほしい、とも言われている」
とアインス博士はセレッソに視線をやってから、再び僕の方を見た。
「本来、ワシらはギルちゃんの部下だから、姫の命令は聞けんのだが。まぁ、友人として頼みごとを聞いてやった、という感じか。どっちにしても、姫には感謝せぇよ」
「もちろんです」
僕は二度頷いた。
そうか、フィオナが……。
「僕のこと、信じてくれたんだな」
思わず呟くと、
何やらニヤついてこちらを見ているセレッソに気付いた。
「いや、分かっているよ? 僕のことを信じてくれたって言うより、お前が説得してくれたんだろ?」
「そうでもないさ。あいつが言い出したんだ。部下の言葉を信用できないやつは、上に立つものとして失格だ、って」
ま、マジかよ。
僕が思っている以上に、あいつは理想の上司なんじゃないか?
「とは言え、だ」
セレッソは言う。
「フィオナはブライアが裏切り者だ、と納得したわけでもない。今も半信半疑のまま、傍にいるはずだ。誠、悪いがお前を休ませる時間はない。この意味、分かるか?」
僕は頷く。
同時に、ブライアのやつがフィオナに見せた笑顔、僕に見せた笑顔が、交互に頭に浮かんだ。
そして、燃え上がる怒りの心。いや、ここはあえて言わせてもらおう。燃えているのは怒りじゃない。
正義の心だ!
「では、フィオナを追いかけるぞ」
「おう!」
立ち上がる僕だったが、それを眺めていたニアが言いにくそうな顔をして口を開いた。
「あの……フィオナ様たちは、もう高速鉄道でウオークオート駅を出発していますよ?」
「……誠、どうする? 何か良い案を考えろ」
「それ、僕に言うか? 何も知らない僕に」
ニアまで泣きそうな顔をしている。
「高速鉄道に追いつける車なんて世界中探しても存在しませんよ。王族専用のプライベートジェットを使えたとして先回りしても、その前にフィオナ様が危険な目に合っていたら……」
盛り上がっていただけあって、盛り下がりもとんでもない勢いだった。研究室内が静まり返る……
が、アインス博士が溜め息を吐いた。
「仕方ないの。王族の危機となりゃ、とっておきを出しても、表向きのお咎めはないだろう。ついてこい」
アインス博士に従って、全員で移動する。何か最新の乗り物でもあるのだろうか。地下の研究所を出て、オクト城の外に出る。さらに、数分徒歩で移動すると、
工場らしい施設にたどりついた。
「移動する高速鉄道に追いつける乗り物は、これしかないだろう」
そう言って、アインス博士が見せてくれたのは……。
「ヘリコプターだ!」
興奮する僕に、アインス博士が「ちゃうちゃう」と言って笑った。
「ヘリコプターなんかじゃ高速鉄道には追いつかんよ。これは、ワシが片手間で作っている、超高速の螺旋翼機。超ヘリコプターだ!」
「超、ヘリコプター!」
「見ろ。あそこにジェットエンジンがくっついているだろ? どーんっと言ってびゅーん、って飛べば高速鉄道にだって追いつくから、後は飛び移れば良い」
「いやいや、そんなことしたら死んじゃうでしょ」
走っている新幹線に飛び乗るってことだろ?
絶対無理だって。
しかし、アインス博士は呆れたように言うのだった。
「アホ、何のための勇者だ。プロトタイプとは言え、ブレイブアーマーならそれくらい可能よ」
「な、なるほど!」
「分かったら早く乗り込め。姫を頼んだぞ」
まさか異世界にきて、ヘリコプターに乗り込めるなんて、思いもしなかった。だけど、感慨に耽っている場合ではない。
待っていろ、フィオナ。
すぐに助けに行ってやるから!
超ヘリコプターは確かにとんでもないスピードで空を飛んだ。とんでもない技術のヘリコプターに乗り込んだこともそうだが、空から見下ろす異世界の景色も僕を興奮させた。
「誠さん! ブレイブアーマー、調整しておきました」
後ろからニアが声をかけてきた。
「誠さんの変身、という言葉に反応します。その他も問題ありませんでした。でも……」
彼女は直前まで、僕のブレイブアーマーを調整すると言って、一緒に超ヘリコプターに乗り込んでくれたのだ。ブレイブシフトをノートパソコンにつなげ、カタカタと操作していたのだが、何か問題を発見したのだろうか。
「誠さんが使用したときのブレイブアーマーのデータを確認したところ、ブレイブシフトにプラーナが送り込まれた記録がありませんでした。ブレイブチェンジの際、プラーナは送り込みましたか?」
「ぷ、プラーナを送り込む? 何それ?」
「まさかとは思っていたけど……勇者なのに何で知らないんですかぁーーー!」
「ご、ごめん」
勇者にとって常識なのか??
「それ、どうやってやるの?」
「私は勇者じゃないから知りませんよ!」
「セレッソ、プラーナを送り込む方法、知っているか?」
「……昔、宗次が何か言ってたな。でも、忘れた」
み、三枝木さんに教えてもらえたら良かったのに……!
基本を何も覚えず、付け焼き刃ばかりでやってきたから、こんなことになるんだよな、もう!
「俺は勇者ではないが……」
突然、会話に入ってきたのは、アインス博士が「役に立つから一緒に連れて行け」と言った魔弾使いの戦士だった。
「魔弾使いは弾丸に魔力を流し込むことで、護符の守りを突き破るほどの銃撃を可能としている。ブレイブチェンジと原理は一緒だと思うが、役に立てるだろうか?」
「ほ、本当ですか? お願いします、教えてください!」
そんなことも知らないのに大丈夫か、という魔弾使いのお兄さんの顔。だが、彼は渋ることなく、レクチャーしてくれた。
「まずは、体に流れるプラーナを感じるんだ」
「な、流れるプラーナを?」
僕は目を閉じてイメージする。
プラーナ。
感じろ、プラーナを。
……プラーナって、なんだ?
「わ、分かりません」
「そ、そうか」
魔弾使いの戦士は一度黙ってしまったが、なかなか協力的な人で、再びアドバイスをくれた。
「勇者なら中等部までに学ぶことだとは思うが、プラーナは心や感情と連動しているものだ。だから、心の中にある気持ちを練り上げるようにイメージする、というのが分かりやすいかもしれない。
例えば、使命感や怒りといった感情を抱き、それを水の流れだったり、吹き出す炎だったり、
そういうイメージに変えて、右手に移動させてみるのはどうだ」
「な、なるほど」
「誠さん。ブレイブシフトに触れながら試してみてください。ブレイブシフトはプラーナが流れ込むと、わずかに発光します!」
「やってみるよ!」
何度かブレイブチェンジを試すが、一度も成功はしなかった。そんな僕の様子を眺めながら、ニアが呟く。
「そうだ、あれを試すチャンスかも……」
それから、ニアは黙り込んでパソコンを操作し続けた。
その後、三十分ほど経過したが、
一度もプラーナコントロールは成功していない。このままだとフィオナを助けられないじゃないか、と焦りを抱いた頃、
ニアが小さく悲鳴を上げた。
「誠さん、大変です。アインス博士から、さっきまで姫様と通信していたのに突然途絶えたと連絡が……」
セレッソがニアが操作するパソコンを覗き込む。
「あと何分で追いつく?」
「こちらの計算では、五分と十二秒です」
ってことは……
それまでにブレイブチェンジを成功させないと、ってことか。
ちくしょう、今までも練習する時間が足りないって思ってたけれど……
今回はいくら何でもギリギリ過ぎるだろ!
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