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【王女様による解説】

「調べてみたけど、あの田中千冬ってやつ」


フィオナの部屋に戻ってから、

彼女は猛スピードでパソコンを操作していたが、どうやら千冬について調べていたらしい。


「エータイスクールのランカー二位だったみたい。たぶん、暫定勇者になる直前でお兄様がスカウトしたんでしょうね」


「どうして、暫定勇者になる前なんだ?」


質問はセレッソ。


「そんなの、勇者になって欲しくないからに決まっているじゃない。ランキング戦を見て、勇者の素質がある人間をスカウトしてしまえば、私のところに来るはずだった優秀な人材を自分が確保できる。お兄様にとっては一石二鳥ってわけ」


「効率がいいかもしれないが、セコイやり方だな」


「お兄様らしいと言えば、そうなんだけどね。それにしても、貴方思ったより強かったじゃない」


フィオナが僕を見る。


「ギリギリだったけど、何とかね。あいつ、かなり強かったよ」


「そう。じゃあ、安心しないこと。運が悪いと勇者と執行官は戦うことになるから、次やることになっても、しっかり勝ちなさいよ」


「え、仲間じゃないの?」


「基本は仲間よ。だけど、私とお兄様の目的は必ずしも一致しないの。だから、一つのものを取り合って、執行官と戦うこともあり得るから」


「……そもそも執行官ってなんなの?」


僕の質問に、フィオナは溜め息を吐く。


「そんなことも知らないの? セレッソ、貴方こいつに何を教えてたのよ」


「仕方ないだろう。誠はそんな知識よりも、戦い方を学ぶのに精一杯だったんだから」


なんだろう。今日はセレッソが僕のフォローをしてくれる。あいつ、本当はいいやつなのか?


「じゃあ、一回だけ説明してあげるからよく聞きなさい」


とフィオナが執行官について話してくれた。




「執行官というのは、禁断術封印機関のスタッフ。その実行部隊よ。禁断術封印機関って言うのは、今の世界にとって行き過ぎた技術と判断されたものは、実力行使で封印するという極端な組織ね。


もともとは、女神戦争の時代に使われていた超兵器を封印するための組織だったんだけど、ここ百年でお偉いさんにとって不都合なものを封印する役割が強くなっているの。


例えば、錬金術師が古代の文明を応用して作った兵器だったり、魔法使いが復元した古代魔法だったり、


この世界にとって過ぎた力、もしくは不都合な力と判断されたものを封印するためなら、大量虐殺も辞さない恐ろしい集団よ」


「判断って、誰が判断するんだ?」


「それは国際連合委員会、ということになっているわ。


要はアキレムをはじめとする、この世界の国々が加盟する国際的な組織ね。だから、国際連合委員会の決定はこの世界の総意ってことになるのだけど、実態はアキレムの意志が大きく反映する。この世界で、もっとも大きく強い国だから。


もちろん、禁断術が発見される度に国際連合委員会が集まって会議を行うなんてことはできないから、その支部の代表が判断する、ってことになるの」


「じゃあ、禁断術封印機関のオクト支部みたいなものがあるってこと?」


「その通り。そして、その代表がお兄様。


お兄様が行き過ぎた力だと判断したら、禁断術封印機関を動かせる。それに、この国にはアトラ隕石があるから、それを理由にしてしまえば、他の国よりも簡単に禁断術封印機関を動かせるのよ。


もし、セレッソが女神だってバレたら、私は禁断術を申告せず私用で使ったとして、たぶん処刑ね。もちろん、封印対象であるセレッソもどうなることやら」


「ま、今は女神としての力はないから、認定される確率は限りなくゼロに近いけどな」


「でも、セレッソってこの国の女神なんだろ? それを処刑しちゃうのか?」


「お兄様が自分の力として使えると判断したら、助かるかもしれないけれど、セレッソの性格では無理でしょうね。自分に扱えない力は、他の人間の手に渡る前に処分したい。そういう人が、そういう組織を動かせる、という状況よ」


「なるほど……見た目通り、超怖い人ってことなんだな」


「そうそう。まぁ、私たちって昔から命を狙われ続けているから。攻撃的な性格になるのは仕方ないのだけれどね。やられる前にやってやる、ってわけ」


会話が途切れたところで、フィオナのデスクの上にある電話がなった。


「もしもし? ……分かった、伝えておきます」


短い会話で電話を切ると、フィオナが再び僕を見た。


「アインス博士から。ブレイブシフト、調整も終わっているから取りに来てほしいって」


「え、じゃあ、これで僕も……?」


「そういうことね。やっと魔王を倒す人間を準備できた。何とか間に合ったわね、セレッソ」


二人は目を合わせ、わずかに微笑んだ。


「何度も諦めかけたが、ようやくだな。と言っても、スタートラインに立たせただけだが」




「誠さん! 私、嬉しいです!」


地下の研究所、

アインス博士の部屋へ行くと、興奮したニアが僕の手を取った。


「ブレイブアーマーをただの兵器ではなく、アートとしての価値を理解してくれる人に使ってもらえるなんて! しかも、私の最初の作品。もう誠さんの命を守れると思うだけで感激ー!」


「ありがとう、ありがとう! 絶対、魔王を倒して帰るからね」


しかし、手を取り合う僕とニアだったが、横で聞いていたアインス博士が笑い出した。


「アホなことは考えないで、魔王に遭遇したら逃げろ。あんなもん、新型ブレイブアーマーを装備したところで、どうにかできるもんじゃない」


博士は言葉を切って、

何かを思い出すように天を仰いだ。そして、弱々しい声で呟くように言うのだった。


「お前さんは戦うことより、生きて帰ることだけ考えろ。その方がまっとうだ」


「でも、ここにいる皆は魔王を倒すために日々がんばっているのでは?」


アインス博士は小さく笑った後、少し暗めなトーンで言うのだった。


「絶対に魔王を倒せると思っているのは、姫様くらいだよ」




やっと落ち着いて、スマホを見るとハナちゃんから四十件も着信が。


「ごめん、ハナちゃん! 何とかブレイブシフトをゲットしたよ!」


「本当か? 良かったな、誠」


合流するとハナちゃんが笑顔で迎えてくれた。何だか知らない人に囲まれて戦ったから、とんでもない安心感だ。


「誠、このサイト知っているか?」


ハナちゃんが得意気にスマホを見せてきた。


「初めて見るよ。なにこれ?」


「国が運営するサイトで、勇者に登録された人間は、すぐさまここに名前が載るんだ。ほら、私の名前もあるだろ」


確かに、そこには綿谷華と書かれていた。


「じゃあ、僕の名前も……?」


「ブレイブシフトを授かったんだから、そのはずだ」


そういって、ハナちゃんが僕の名前を検索してくれたのだけれど……。


「おかしいな。まだ反映されていないのか?」


「ハナちゃん、もういいよ。……何となく、原因は分かっているから」


「お前……大丈夫か? 顔、疲れているぞ」


うん、そうなんだ。

僕、疲れているんだよ。


でも、ちゃんと勇者として登録されていることが重要なんだ!


そうじゃないと、ハナちゃんに約束守ってもらえないんだから!


まったく、あのお姫様……

何回僕に文句を言わせたら気が済むんだ!

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