【余り物でもいいので】
「ついてきなさい」
と言われて、僕はオクト城の地下へ向かった。
地下はガラス張りのオフィスのような場スペースになっていて、白衣を着た大人たちが右往左往していた。雰囲気的には、オフィスと言うよりは研究所なのかも。
「ここは……?」
僕の質問にフィオナが答える。
「オクト城の地下は、国家錬金術師と魔法使いの研究施設になっているの。ブレイブアーマーや護符の開発、アトラ隕石の解析、古代魔法の復元なんかも、ここで行われているわ。もちろん、ここで働いている錬金術師や魔法使いはエリート中のエリート。そうでなければ、城の地下で働くなんてできないことよ」
「はぁ……」
よく分からないけれど、
最先端技術と超優秀な研究者が集まる研究所ってことなんだろうな。
「で、今から会う人物は、その中でもトップのトップ。ジンジャー・アインス博士よ。兵器開発に関して、ジンジャー博士の右にでるものはいない。まさにオクトの頭脳ってところね」
アインス博士。
さっきも、その名前を聞いたかも。
研究室の奥へ奥へと進んだところにある、分厚そうなドアの前にフィオナが立つ。そして、こちらに振り返ると、顎で何やらジェスチャーを送ってきた。
……扉を開けろ、って意味か。
重々しい扉を何とかスライドさせ、扉を開ける。
「な、なんじゃこりゃ」
そこは、床一面にガラクタが広がり、オイルの匂いが充満していた。そして、その奥にある小さなテーブルに向き合い、工具らしいものを手に火花を散らしている背中が。
その姿はどう見ても華奢な女の子だ。国の頭脳とか言われちゃう人が、まさか……?
「あれ?」
その女の子が振り返った。
やっぱり、僕より少し年上くらいの女の子だ。明るい金髪と白い肌は煤汚れなのか、所々黒くなっているが、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「姫様! どうしたんですか? こんなところに」
女の子は目を覆っていたゴーグルを取って、立ち上がろうとする。
「座ったままで大丈夫。何なら、手を動かしてもいいから。何を作っているの?」
「これですか? プラーナコントロールをもっと容易に行うためのプログラムです。まだ試作段階もいいところですが、ブレイブアーマーに搭載できれば、勇者たちはさらに強くなりますよ! でも、予算がなぁ……」
「そう。次の戦いでブレイブアーマーが評価されれば、予算の相談もできると思う。だから、諦めないで研究をお願いね」
「はい、ありがとうございます!」
振り返ったフィオナが僕に説明する。
「この子は、ニア。アインス博士の唯一の弟子。もしかしたら、この子が作る最初のブレイブアーマーを貴方が装着することになるかもしれないわよ」
なんだなんだ?
フィオナの空気が少し違う。
王女様らしい……
というか、理想の上司って感じかも知れない。
っていうか、この子がアインス博士じゃないのか。まぁ、当然か。
「あ、この方は勇者様ですか! ニアです。どうもです!」
ニアが僕の方を見て頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします」
挨拶をしていると、部屋の中に誰かが入ってきた。
「おひょー? フィオナ姫どうしたん? ワシに会いに来てくれんか? うれひいわー!」
そう言って、フィオナの方へ駆けてくる小柄な老人。あれは……
絶対に変態博士だ!
フィオナはどこからかゴム手袋を取り出し、左手だけにはめる。そして、その手で飛びかかってきそうな博士の頭頂部を抑え込み、突進を止めた。
「お久しぶりです、アインス博士」
や、やっぱりこの人がアインス博士か。天才と変態は紙一重っていうけれど、
この人はまさにそのタイプなんだろうな。
博士はフィオナから離れると、顔に「スケベです」と描かれたような表情を浮かべた。
「おひさ~。暗闇の中で硬い機械いじりばっかりしている老人のために、柔らかい女体を触らせにきたわけじゃないんか?」
「違います。余ったブレイブシフトはありませんか? もちろん、模造品ではなくブレイブアーマーを装着できるものです」
「余ったブレイブシフト? 今回、勇者に任命される三百人分はすべて納品したが?」
「一人、増員です。どうしても、戦場に送り込まなければならない勇者……じゃなかった。暫定暫定勇者がいます」
「暫定暫定? なんじゃそりゃ」
もうやめてくれ。
その暫定暫定イジリ……。
「彼がそれです。どうです? 素質ありそうでしょ?」
「……うーん。分からん」
興味なさそうだな、おい。
「で、あるのですか? ブレイブシフト」
「勇者様に装着してもらえるようなレベルのものは、ないなぁ」
「では、ポンコツレベルならあるのですか? 装着者もポンコツレベルなので問題ないと言えば問題ありませんが」
「誰がポンコツだ」
とツッコミを入れるが、正直強く否定できないんだよな……。
「この前、試作品だとか言って、余計に一つ作っていませんでしたか?」
フィオナの指摘に、アインス博士は低く唸る。
「ニアが練習用に作ったプロトタイプのコピー品のことかなぁ。今回納品した新型に比べると、性能はがっくり落ちるよ?」
「構いません。形だけ装備させて、勇者として戦場に出られれば」
「でもなぁ~。こんな未完成品を納品したとは思われたくないなぁ」
「わ、私もです! ブレイブモードが使えないブレイブアーマーを作ったって知られたら、恥ずかしくて研究所内を歩けません……!」
ニアが割って入る。
本当に恥ずかしいらしく、顔が真っ赤だ。
「なんとかなりませんか? ほら、ポンコツ。貴方もお願いしなさい」
「ポンコツポンコツ言うな。普通に傷付く」
アインス博士とニアの視線が僕の方へ。な、何をどんな風にお願いすればいいんだろう。
「あの、その……ブレイブアーマーなんですけど」
考えた末、思ったことをそのまま言うことにした。
「めちゃくちゃカッコイイです!」
博士とニアは、ぽかんと口を開く。が、僕は止まらなかった。
「あの白くて滑らかなボディの洗練されたデザイン。まさに国を救う勇者にぴったりなデザインです。変身するときも装着者が光に包まれるっていう機能! あれも最高です! ピンチのとき光輝いて変身、からの逆転という流れが想像できます。そして、何よりも光り輝く複眼ですよ! あれは暗闇の中で戦ったら凄い映えるんでしょうね!」
室内が沈黙に包まれた。まず最初に聞こえたのはフィオナ姫の呟き。何こいつ気持ち悪い、だった。これは博士たちもドン引きだろうか……と思ったが――。
「そうじゃろう!」
博士の目が光る。
「お前、なかなか見る目があるじゃないか! 白いブレイブアーマーということは、皇の息子用に作ったものを見たか。ふふん、色は白だけじゃないぞ。装着者の個性に合った色を用意している。ちなみに、あの光り輝く変身、どうしても実現したくて、ワシが徹夜で考えたんだぞ!」
「私も分かります!」
続けてニアも目を輝かせながら近寄ってきた。
「あの複眼、本当にカッコイイですよね! ブレイブモードを使うともっと激しく光るんですよ。そう、まるで命が燃える、その輝きを表すように!」
「さすが我が弟子! あれは命が燃える様をイメージして作ったんだわ!」
その後、三十分はブレイブアーマーのかっこいいところを語り合い、フィオナに怒られるのだった。
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