プロローグ
「目覚めよ、未来を切り開く蒼き運命の輝き! ブルーディスティニー!!!!!!!!」
キイイイイイイン!!!!!!
「喰らえ! 一つも残さず屠り去る。ミーティアルスラスト!!!!!」
「ああ!? 配下の魔物たちが一瞬で全滅した!?」
アルフレイルは剣を魔王に向けて振るった。
ジョキイイイイン!!!!!
「なに!? ぐわあああああああああ!!!!!!!!」
「さらに、スーパーエンジェルフェニックス!!!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
「熱ちちちち」
「とどめだ! 天空蒼覇斬!!!!!!!!」
ズバァ!!!
ザシュッ!!!!
ドシュッ!!!!!
チュドオオオオオオオオオオンンン!!!!!!!!
「ぎょへえええええええええ!!!!!!!」
アルフレイルの圧倒的な強さに魔王は成す術なく滅殺された。
「ふん……、他愛のない」
魔王を倒したアルフレイルは囚われていたイヴリンを救い出した。
「大丈夫か、イヴリン」ニコッ。
「アルフレイル……ぽっ」
そうして二人は……。
◇◆◇
「勘弁してくれよ、マジで……死にたい」
波賀錬次……友人たちからは通称『ハガレン』の愛称でよく呼ばれる。
ルックスは平凡、これといった特徴はなく、得意なことはそれなりにあり、苦手なこともそれなりにある。
見事な凡人である。
現在十九歳、彼女いない歴=年齢、フリーター、真剣に職を探そうという気はまだないらしい。
実家に寄生し、バイトで入る小金でだらだら遊んでそして寝る。
そこそこに楽しく、されど退屈でなんか駄目な毎日を彼はダラダラと送っていた。
ニートでは無い! 働いているから飯は美味いぜ! 将来? なんとかなんじゃね? でも時々不安になる。
――――そんな時はパ~っと遊ぶのさ! ……そして自分をごまかし現実から目を背けるのさ。
そんな人間試験ランクD判定な錬次はただいま少し汚れが目立つ古びた原稿用紙と睨めっこしていた。
苦虫を噛み潰したような表情――、という表現がぴったりと当て嵌まる表情である。
それは在りし日――――。
高校の現代文の授業、小説を書く課題だった。
渋々書き始めたら、ものすごく力が入った。
主人公の設定とかものすごく頑張った。
提出した原稿用紙を返してもらったときの国語教師の表情が、笑顔が、なんか生温かった。当時の錬次はその生温かい笑顔を「よくこんな素晴らしい小説を書き上げたな」という意味か、と非常に好意的な方向に解釈した。
だが今の自分なら、正しくあの時の国語教師の笑顔の意味がわかる。
「うっわああああ、痛いなぁ……」
我痛恨なり! とでも言うべき痛々しいリアクションでゆっくりと床に崩れ落ちる錬次。
今日の自分は運が悪かった。気まぐれに散らかってきた(ハガレンの意識では、とうにそういうレベルを超越している)部屋の掃除をしようとか思わなければ、そうして異世界と化しつつある机の中を、いじくりまわさなければ――――。
とうに忘れていた、かつての青春の衝動の現れであるこの原稿用紙とも出会うことはなかったろうに。
「なぜだか丁寧にイラスト付きです……」
小説の課題なのに。最後の頁には素人にしては中々上手い主人公の絵と、その横には色々と主人公の設定が満載。今思えば小説本編よりもこのイラストを書く時間と主人公の設定を考える時間が図抜けて多かった気が。
そんなモノを丁寧に書く暇があるのならこのお粗末窮まりない本編をもう少しどうにかしろよ、と当時の自分に言ってやりたい。目をつむれば珍しく熱心に机に向かってたあの日の自分の姿が甦りそうで――泣けてくる。
その恥ずかしい原稿用紙を握り締め、部屋の床を転がりながらしばし悶えていたら、なぜだか急に眠くなった。
――――はれ?
薄れ逝く意識のなか錬次はなんだか不思議な暖かさが全身を包むような、不思議な感触を感じた。……ような気がした。