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第8話 足元の池のモレーナ


 夜の地上というのは基本的に静かである。


 この都市の広大な地下排水路の方は、人の出入りが少なくなるだけで夜間も危険生物たちは活動している。それでもごく一部の区画が人間の所為(せい)で賑やかになることは稀にあり、どうやら今日はそんな日であるらしい。


「そこの! お前だ。地下の様子はどうなっている? 対象は見つかったのか」


「ヒェ! モレーナ隊長!? まだ先行した隊は戻って来ません。まだ発見は出来ていないと思われます」


「チッ、遅いわね……交代させろ。連続で潜ったままでは危ない。対象以外との交戦は極力避けても限界がある」


「その鰓広(エラヒロ)赤斑(アカマダラ)王角(オウツノ)毒蛇(ドクヘビ)ですが、狩人の増員も頼んだ方が良いのでは無いでしょうか?」


「何を情けないことを言っているの!? これ以上の増員は不要! 急いで今(もぐ)っている隊員と交代してきなさい!」


「ハイィィィ!」


 金髪に青い目のキリッとした、若くて比較的に美人の女性騎士に叱責され、部下であるらしい若い騎士は駆け出して行った。


 実は今日の私は、区画を管理している地上の役所までコッソリと出てきている。

 見つからないかヒヤヒヤしたが、地下に降りる縦穴では人の出入りが稀で、さらに地上では設営された『対策本部』以外は夜の闇にドップリと沈んでいた。ここは、住宅街に近い役所なのだが夜間照明の灯りはあまり届いていない。


 地下の危険生物は不思議なことに滅多に地上に出てこない。さらには地上では場所も広く射線が通る上、何故か動きも悪くなり容易に倒されて処理されてしまうらしい。


 そんな理由もあって、縦穴には見張りがいないために思いきって出てきたのだ。外気の影響を受けない私は例外ということなのだろうか?


 影にしか見えない場合は、人型からほど遠ければまず注目されない。先程から私は縦穴に被さる屋根の一部と同化して平たくなり『鰓広(エラヒロ)何とか何とか毒蛇(ドクヘビ)対策本部』の様子を観察中なのである。

 それにしても誰が名前を付けたのだろうか。長過ぎるので改変を要求したい。


 その『ヘビ対策本部』で陣頭指揮を取っておられるのは、この都市にあって美女の呼び声も高い女性騎士である『足元の池のモレーナ』さんであった。


 今日も多分であるが、あの短いスカートの下は何も履いてないか、もしくは下着の役割をしない下着が頑張っているはずである。彼女の両親は確か、この都市で要職に就いているはずで彼女は末娘だったはずだ。

 この都市の特殊事情があるとしても、この職業は女性として捨てねばならない何かが莫大に過ぎると思うのは、私が過去の世界に生きた男だからだろうか? それとも田舎者だった所為なのだろうか?


 モレーナさんは、最早パンチラすら完全に放棄してこの仕事一筋の女性であるのだ。余談だが、結婚の申し込み件数と相手の地位が年々上昇傾向にあるともっぱらの噂である。これも謎だ。


 今回の事件は、少数の狩人では討伐不可能な大型のモンスターが出現し、無視できない被害もあって、早急(さっきゅう)にこれを何とかしなければならないということらしい。つまり今回は大規模討伐作戦であるために騎士団が出向いて来ているというわけなのだ。









 地下は太陽と天候の影響を受けない。いつでも同じ環境が維持されている。

 それでも例外的な存在は居て、それらは夕方から夜間の活動時間内でないと発見が難しい。そんな相手の場合には、討伐作戦は夜間に行われることになる。


「各班の交代が完了しました。今のところ被害は軽傷者のみです。鰓広(エラヒロ)赤斑(アカマダラ)王角(オウツノ)毒蛇(ドクヘビ)は発見出来ませんでした」


「お疲れ様でした。次は私が直接降ります。本部の指揮はあなたにお願いするわ」


「ハッ、かしこまりました」


 どうやら人員を入れ替えながら、複数班で周辺から捜査の輪を縮める方法を取っているようである。


 モレーナさんはこうして見ると普通の騎士さんにしか見えない。


 最近になって知ったのだが、この都市には『下半身には絶対に何か履くこと』という法律がちゃんとある。


 モレーナさんの格好はそれに対する妥協の産物であるらしい。ミニスカノーパンはギリギリで合法なのである。もしくは、下着は()いているが無視できない穴が空いている場合でも、スカートがあれば良いということなのだろう。


 そうすると殺人鬼ハンポロ氏のあの姿は、合理性はあっても法律的には駄目なわけである。あれが反骨精神の所為(せい)なのか、または解放感を求めての姿なのかは永遠の謎になってしまった。


 そんなことを考えていたら、とうとう我らがモレーナさんの出番が来たようだ。早く穴の中に戻らないとな。


 正直に言うと、今回の私はモレーナさん達を影ながら援護しようとこうして張込みをしていたのである。

 前世の私は、(おも)に父にこき使われていて楽しみも少なかった。それで恋愛官能小説を読むことが多かったのだ。

 ヒロインは割と勇ましい感じの女性が多かったから、私はこの手の女性については憧れを持っていた。そんな女性(ひと)が蛇に殺されでもしたら大いなる損失である。


 イヤ、全然正直じゃなかったな。一度は間近で衝撃のシーンを拝みたいんです! 今の生活に潤いが無いしさ! 

 私は、モレーナ隊長が思いっきり出しちゃうシーンを一度は拝んで見たいのだ。


 今回はジャイナさんでは無いというのは大きい。









 只今(ただいま)の私は天井に貼り付いて、ズルズルと這いながらモレーナさんの部隊を追跡中である。一つの班は10人前後のようだ。


 現在の私は2.5アーム(≒m)くらいの大きさだ。万が一に何か出さないといけないことを考えて、今回はこの大きさをキープしている。

 と言っても出せるのは『布・強酸・神経毒・土ブロック』だけであるから、例の『何とか何とかヘビ』に対してどう使えるかは正直不明である。


 膂力と素早さについてだけなら、ここに来た当初よりは大分増加していることは分かっている。何を消化してもこれらは絶対に上がるのだ。

 一応『ハサミ』というのもあったな……カニが滅多に出ないので、あれはあまり上がってないが無いよりマシだろう。


 肉切包丁と防水コートとマスク、包帯になるだろうという布まで背負い袋に入れてきた。布は分割して幅を30ドーメン(≒㎝)にしたのだ。


 ところで下の彼女達は気がついてないようだが、前方50アーム(≒m)くらいの場所に何か居るな。


 ここには確かに物影は少ない。普通に隠れるなら分岐路の曲がり角か天井ということになるが、もう一ヶ所だけそこそこに広い隠れ場所がある。水路の中だ。汚い水も流れているが蛇なら耐えられるのだろう。


 私は出来るだけ素早く、音を立てないように彼女達より前に出るように天井を進んだ。


 後方にはモレーナさんたちが入る為に、下から見えにくい角度になる位置まで移動しなければな。


 位置取りが完了した私は、当たりを付けた水面に向かって持っている肉切包丁を思いっきり投げ込んだ。


 よっし! お待ちかねの衝撃シーンはこの後スグだ!









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