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第36話 週末の連休がある


 役所で面接を受け、ついでによく分からん学生が騒ぎを起こしてから3日が経過した。


 私はと言えば、無難かつ真面目に書類仕事に精を出し、この役所の戦力として早くも認められるところまで来たと思う。


 前世の故郷に比べればここは随分(ずいぶん)と良心的な勤め先であり、1週間(7日間)のうち2日間はちゃんと職員の為の休日というものがあるのだ。


 ただしであるが、持ち回りで週末のカウンター業務だけは行わなければならず、仕事にもっと慣れて来れば私も週末の勤務をしないとならないだろう。

 役所のカウンターだけは、毎日開けておかないと非常時に即応出来ない為に、地下に関する業務だけは交代で稼働しているのだ。


 人間の出入りの管理と、報酬の支払いと買い取りだけはやって、週の頭になったら書類にまとめるなんてことを役所ではやっていた。


 とにかく、今のところ新人である私は週末の休みが普通にもらえた。


 そして今日は、モレーナさんが先日のお礼も()ねて、書店などを紹介してくれるとのことなのである。


「代わり()えしないがこれしか無いしな。別に(あか)で汚れたりしないのは()(がた)い。モレーナさんは、この辺のことを気にされないと良いがな。今日は何冊か気に入る本があれば良いが〔ゴボゴボ〕」


 女性が案内してくれるというし、服装は一応気になるものの、今ある物で何とかするしかないのでいつもの格好だ。


 私としては何十冊と買えるカネはある。だが置場所が無いし、大量に恋愛官能小説を(そろ)えるのは、家を借りるか買うかしてからにしようと思っている。

 ちなみにモレーナさんの目の前で買うわけにも行かないので、目星をつけておいて後日に改めて買いに行く予定だ。


 私はベッドに強盗用ダミーとして置いてある金属製の骨を体内に取り込み、マスクやいつもの服を身につけて鏡で確認し、おかしなところが無いかどうか入念に見直してから階下に降りた。


 時刻は5(ザイト)(午前10時)よりも前である。店が開くのはその半(ザイト)後(約1時間後)になるため、モレーナさんとの待ち合わせは5刻半(午前11時)に役所のカウンターでとなっていた。


「ツライオ、また遅くまで寝てたな。まだ朝食は出せるがどうする?」


 清風と草原亭の1階では、ここの主人である『ニコレット』が声をかけてきた。もうすっかり顔馴染みだ。


「止めておくよ。最近太り始めたんだ。今日はこれから、モレーナ隊長に店を紹介してもらう予定だしな〔ゴボゴボ〕」


 私の身体は、人の食事でも食うと少しずつ大きくなるし、働いたり動くだけでは中々縮まないことが分かった。何という効率の良い身体だろうか。


 つまり何かの物質を出したり、何かを作成しないとドンドン太るというわけだ。

 休暇は2日あるし、この辺のことはその間に何とかしようと考えている。


「約束の時間に少し早いがもう行ってくるよ。向こうでやらないといけないことがあってな〔ゴボゴボ〕」


 ニコレットにそう告げて、早くはあるが役所に出かけることにした。出来ればコッソリ地下に降りてやりたいことがあるのだ。


「おお、気を付けてな。モレーナ隊長がそんなことをしてくれるとは珍しい。何かあったら話を聞かせてくれよ!」


 宿屋の主人であるニコレットはそんなことを言ってきた。彼には申し訳ないのだが、こちらはスライム状の人外であるし、妙齢の美女と色気のあるような話にだけはならないだろう。








「おはよう。これ、売って(もら)っても良いかな?〔ゴボゴボ〕」


 おそらく、まだ4刻半(午前9時)より前といったところだ。

 役所では、回収してある古着を全部売って貰うことになっていた。

 血や排泄物(はいせつぶつ)で汚れ、色々な危険生物の所為(せい)でビリビリになって使えなくなった服である。こういった服でも使い道があるらしく、ゴミ同然に捨てられるということはないようだ。


 通常は業者が買い取りに来てくれるのであるが、今日に限っては思い付きがあって、これらの古着を私が買うことにしたのである。

 

「ウォワァっ! びっくりした。ツライオさん、おはようございます。急に声をかけないで下さい。こっちの台帳に記入して下さい。おカネはこちらで受け取りますから」


 週末の担当者である女性は、声をかけられて驚いていたが手続きはしてくれた。


 このそれなりに分量のあるボロ布は、縦横2アーム(≒m)はあるカゴ一杯に入っていて、引き取るのに50デネイ(大銅貨5枚)は払わねばならない。布は相変わらず高いのだ。


 これらは、もちろん生きている人間が置いていった物である。地下で死んだ狩人の服は持って帰ってこれなかった。遺留品は出来るだけ存在しないと怪しまれるからだ。


 今回は正規の手続きで入手したこれを使い、私の作る繊維(せんい)と混ぜて新しい織物に出来ないか試してみるつもりだった。


 これらを草で()んだ袋に入れて、私はコッソリと地下の住処(アジト)へ戻ることにした。








 まだ修繕担当者が地下に降りるより前の時間である。

 私は人気のない中庭に何となくを装って向かい、そのまま見とがめられずに縦穴から地下に降りる事が出来た。


 住処の内部もそのままであった。ここは本当に目立たないようだ。


「さて、アリ達に(もら)った『青い石』が織物染めに使えないかどうかと、このボロ布の再生が出来るかどうかからだな〔ゴボゴボ〕」


 まずは服を脱いで全身の骨を吐き出し、一旦は住処をソッと出て水を吸い上げてくる。

 私の身体は水を濾過(ろか)出来るらしく、吸い込んでキレイにした水の一部はナベにあけて、暖炉に火を入れてお湯を()かす。


 続いてボロ布をモリモリと取り込んでいく。ついでに『青い石』を取り込んで、いつものサイズの織物が出来るように念じてみた。


 身体の下の方からは、またしてもジャジャジャジャジャーという感じで織物が出てきた。幅120ドーメン(≒㎝)の長さは10アーム(≒m)だ。


 非常に色鮮やかな深い青で、服を作るのに具合が良さそうである。これは買ってきておいた長い棒に()いておく。


 今までの布とは肌触りが違い、少し厚みがあるのだが寒い季節はこっちの方が良いかもしれない。家畜の毛などが元々入っているのだろう。


 青い石を使って織物は染められることは分かったし、廃品の布を作り直すことが意外と有効であることも判明した。


 今週食べた分は減って、身体のサイズも元に戻ったが、念の為にもう少し減らしておこうかと思う。


 折角、女性に案内してもらう日なので、今着ている上下と同じ形の青い服を作ることにした。清潔感というのは出るだろう。


 それから金属繊維のコートも色が変えられるかやってみよう。


 色々と試せる週末が割と楽しい。










ツライオ〔クーネル〕の所持金

金貨:55枚 大銀貨:8枚 銀貨:7枚 大銅貨:8枚 




交易都市モッペンユーテクレーへンはモットモーディカイ帝国の西方貴族が共同統治している。


それでも代表者といえる者はおり


ワロタラ辺境伯 モーネロ・フフ

ユータヤロガ辺境伯 ムリヤ・ロー・アーカンデ


の両名の発言権が特に強い。2人とも領地が西方国境に接しており、侵攻があれば即応しなければならない為に、それなりの財力と軍事力を有する。

 モッペンユーテクレーへンの騎士団と収入はもちろん彼らの領地とは関係ない。

 西方には皇帝直属の帝国正規軍もまた別に存在する。

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