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第33話 お嬢様はときめく②

注):今回はモレーナさんに焦点をあてた三人称視点のお話になります。







「壁に妙な修繕の跡があるのは分かった。ここを見て他に分かることは無いか?」


 モレーナは改めて学院の鑑識担当者に聞いた。発掘に来たらしいウォムツゥたちは何処を掘ったのか穴も無い。


「妙な修繕跡ってだけで今は分かりませんね。この西側の足元のレンガと、南側の壁の真ん中にある大きい修繕跡のレンガは同じ物です。1個持って帰って調べてみますよ」


 鑑識担当者の一人がモレーナにそう返した。


「そう言えば見つかった防具ですがね。アリの噛み跡みたいなものが沢山(たくさん)ついてました。アリの群れに殺られたんだと思いますが、何処で巣にぶち当たったのやら。一応は何処(どこ)かを掘ったんでしょうね」


 鑑識担当者の補足(ほそく)を聞いてモレーナはハッと気がついた。


――やはり連中は何処かを掘ったはずだ。であるのに穴が無い。誰かが埋めたのだ……――モレーナがよく見れば、西側の壁の下の方の補修跡は横方向に相当に長い。


 見つかった防具にはアリに噛まれた様な跡があったとのことだ。彼らは穴を掘ってアリに出くわして、その群れに襲われて全滅したのではないかと思われる。

 モレーナが不可解に感じたのは、誰かがその跡も含めてレンガで埋めたことだった。


 その者が、都合の悪いことを隠したかったのは間違いない。そしてそれを隠すことに成功していた。


「なあ、モレーナ隊長。一度こっちの大きい方の修繕跡なんだが、掘って何か出てこないか探してみようか」


 第6の隊長がそんな事を言い出した。


「私は反対です。死体が出てこずに浄水設備に問題が生じても責任が取れません。埋め直すのにもカネがかかります」


 モレーナは敢えて消極的なことを言った。もし例のクーネルの仕業なのであれば、彼の足を引っ張る様な真似をやりたくなかったのだ。

 クーネルは、モレーナの夢を(かな)えてくれるかもしれないのである。


「君がそう言うのは珍しいな。確かにここに死体を埋めるのは意味が無い。まとめて水路に捨てておいても喰われて消えるしな。そのまま置いておいてもいいはずだ。血の跡も無い。学院にも聞いてみよう。先生の遺品が出てこないのは気になる」


 第6の隊長は、学院に責任を取ってもらい何とかしようと遠回しに言ってきた。教師の所持していた品には価値があるはずだからだ。


「ところで捜索(そうさく)の方はどうなんでしょう? 各兵営から50人ずつ400人も降ろしたはずです」


 モレーナは第6部隊長の話には答えず話題を変えた。


「めぼしい成果は無いだろうな。そこまでやれば今日中に終わるさ。怪我で縦穴を登れないなら動かないだろうし、登れるなら帰ってきていないとおかしいからな」


 結局のところ、事件の現場ではないかと思われる場所については何も分からなかった。

 違和感を感じたモレーナは、ここについては掘り返すべきではないと思い、自身として知らぬ存ぜぬで通そうと考えて何も言わなかった。








 翌日の昼を過ぎてしばらく後のこと、モレーナはソフティを伴って兵営に近い北西部の役所の前に来ていた。今日は新しく都市にやって来た『流しの魔法使い』の面接も行わないといけないのだ。


 その人物はかなり強力な術を使い『青濡岩肌(あおぬれいわはだ)虹色鶏冠(にじいろとさか)大王ガエル』を一撃で殺したとのことだった。

 普通なら考えられないことである。通常は騎士と複数の魔法使いで挑む様な相手なのだ。


 事前に聞いたところでは、魔法の才能が成人してから開花したので、それに関する正規の教育は受けておらず、今までは東方で傭兵の様なことをして暮らしていたらしい。


 その代わり財務管理の教育を受けており、役所で経理の仕事をしてもらうことになったそうだ。


 人柄(ひとがら)温厚(おんこう)の部類に入るそうだし、しかも昔からの知り合いであるジャイナの危機を救ってくれた恩人でもあって、モレーナはせめて一言お礼を言っておきたかった。


〔意外なことに狩人のジャイナは貴族である。ゴーダ家の長女であり、ジャイナ・ゴーダとしてモレーナ嬢とは幼馴染みの関係にあるのだ。ジャイナ嬢は父親とケンカして半殺しの目にあわせ、この都市にやって来て狩人をやっているのであった〕


 モレーナはジャイナと女同士、2人とも実家と仲が悪かったものだからやはり気が合うのだ。


 役所の扉を(くぐ)ると、そこには酒を飲んでいるジャイナたちが居た。まだ昼間である。狩人が20人くらいと、暇になった修繕担当者たちであろう。


「お、モレーナじゃないか! こっちは暇だからさ、昨日から飲んでるのさ。昨日はツライオさんの髪が生えた祝いだったんだけどね。いつになったら地下の仕事が出来るんだい!? 本当はクーネルなんか居ねえんだろ?」


 そう言えばツライオという男は、眉毛も生えていないと聞いていたが、どうやら髪の毛などは生やすことに成功したようである。








「ジャイナ、私はそのツライオ殿の面接に来たのだ。もしもの時に手を貸してもらえるようだし、友人を助けてくれた恩人に礼も言いたいからな」


 ジャイナたちは相当に酒が入っていたが、モレーナがそう言うのを聞いて受付カウンターに声をかけた。


「ツライオさん! モレーナがアンタに会いたいってさ。モレーナ、ツライオさんはスゲえ声だけど驚くなよ。東方で喉に怪我したんだ。時間が経っちまうと魔法薬でも治んないからな」


 しばらくすると、茶色い服を着たやたらと大きい男が奥から出てきた。身長は2アーム(≒m)はあるだろう。東方者に特有の黒い目と髪をしているが、陽に焼けて目は細く全体的に(いか)つい感じの人物だった。

 全く魔法使いには見えないが、発動体であろう逆側に湾曲(わんきょく)したナイフが腰に下がっている。


「私がツライオです。モレーナ隊長……今日は何か御用で?〔ゴボゴボ〕」


 モレーナはその声を聞いた瞬間にキュッとなった。恥ずかしい思いがしたが体の下の方がそうなったのである。


――何て声をしているのかしら。まるで人間じゃないみたいだわ。人の振りをしているみたいな声……――モレーナは内心で令嬢に戻ってしまった。


「あ、ああ。その……ツライオ殿。今日は貴方(あなた)の面接に来たのです。人物を把握しておくのも騎士団の仕事なのです」


「なるほど、では質問にお答えしましょう。面白い話はないですが〔ゴボゴボ〕」


 モレーナと連れのソフティは、こうして新人職員であるツライオの面接を始めた。








背景色々


ジャイナさんの実家:帝国西方のボエー領

〔父〕ボエー卿 ターケッシ・ゴーダ


モレーナさんの実家:帝国西方のモレボー領

〔父〕モレボー卿 ボラギノーレ・ジノアート


ツライオの前世の実家:東方のアースヤリーマ領

〔父〕アースヤリーマ卿 シラネーオ・メンドクセーナ

〔兄〕シンドイオ・メンドクセーナ


※アースヤリーマ領はバンドヴォシュー地方の一部。東方ヴォーカル山脈の手前になります。

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