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第3話 アリと住処


 こうして、私の文字通りのスローライフは幕を開けた。


 何しろ移動出来るのはこの地下らしき空間だけである。移動はニュルンニュルン方式で意外と速くは出来ルンだが、まったりした様子が半端無い。


 しかし前向きに考えよう。私は初めて、自分のためだけに時間と能力を使うことを許されたのだ。と言うか自分でどうにかしないと死ぬな。


 取りあえずは住処(アジト)をどうするか考えねば。蟹を食って大量に布を吐き出したし。


 カニを消化したおかげか『ハサミ』を生やして何か切ることが出来るようになっていた。力だけが増えたと思ったのは私の勘違(かんちが)いだったのだ。


 私は廃棄物の中でも比較的マシな木材の両端を切り、さらに削って棒状にしてそこに最初の布を巻いた。その上からは次に出した布を巻いて分岐路の一番奥に隠した。

 木製の棒は洗って乾かすこともやったし、保管方法はしばらくこれで行こうと思う。


 分岐路の行き止まりでは、石が外れる場所が1ヵ所あったので、そこをさらに掘り抜いて幅が120ドーメン(≒㎝)はある布のロールをし舞い込んだ。布が汚れそうだが仕方がない。可能な限り砂は吸着して掻き出すと、そこは石で出来た細長い保管庫の様になってくれた。

 早急(さっきゅう)に布を包むための何かも必用だ。


 住居もこんな感じで、人間が上から降りてくる入り口の近くが良いな。


 私は冒険物語を読むたびに、ボスの部屋は迷宮の入り口の真上か真下にするべきだと思っていた。そこなら見つかり(にく)いし、誰かの接近にすぐに気が付くことが出来るからだ。


 修繕(しゅうぜん)のオッサンは毎回、上に開いている丸い穴〔直径約3アーム(≒m)〕から下りてくる。この縦坑(たてこう)には備え付けのハシゴ状の足場があって、これを降りてくるのだ。


 上には適当な格子(こうし)状の金属製フタに加えて屋根付きの設備があることは確認した〔フタは半円形のデカいやつで、蝶番(ちょうつがい)で上に開くようだ〕。

 一応、夜であろう時間だったが街並みは見れなかった。そこは役所の様な2階建ての建物の中庭で、壁に囲まれた空間だった。おそらくだが係員が決まっていて、定期的にここから降りてくるのだ。

 そうなると、割と規模の大きな都市らしい。降りてくる連中の服装や武器から考えると、前回私が死んでからそれほど年数は経過してないと判断出来そうである。


 相変わらず布は高いに違いない。私はそれを考えて布職人になりたかったのだ。


 なりたかったのだが、その望みは今のところ(かな)いそうになかった。私は生産者と言うより、製造機械そのものと言っても良い。


 神よ……何ゆえに想像の斜め上を行かれるのか。


 自分でも何で後生大事に布を保管しているのか理解に苦しむ。どうやって売り、金はどうやって使うというのか。


 問題は山積(さんせき)しているが(なげ)いている場合では無い。危険な地域に生きている自覚はあるので、住処(アジト)の方から何とかしなくてはならないのだ。









 とにかく布を隠した場所の近く、つまりは清掃と修繕係員が降りてくる縦穴の近くにある、灯りの無い分岐路に私は住居をかまえることに決めた。


 理由は単純に安全の為だ。ここは人間の動きがよく分かるし、彼らは決まった時間にしか降りてこない。

 そしてここは不法投棄も少なく、修繕の必要も清掃の必要もほとんど無いから、分岐路に不意に誰かがやってくる事がほとんど無い。


 オマケとして時間把握に役立ってくれるであろうこと請け合いの立地でもあるのだ。


 で、お(あつら)え向きにかなりモロモロになっている壁まであって、私はそこから掘り進めてみることにした。適当な穴が無ければ掘れば良いのだ!


 と私は呑気(のんき)にそう思っていた。


 口があれば思わず「ンフンフーン♪」とか鼻歌でも出ていたに違いない。私は高さが2アーム(≒m)に達していそうな、そのモロモロの壁を掘り始めた。


 今やっと気がついたのだが、修繕担当者は真面目に仕事をしていない。

 真面目に仕事をしていれば、こんなモロモロの壁がそのままになっているわけが無いのだ。


 一応は石積の感じは出ているが、明らかに崩れかかっているし、誰でも灯りを向ければ絶対に気がつきそうなものだ。


 どうしてここが放置されていたのかについては、私はしばらく掘り進めてから気がつく羽目になった。


「ん? ア、アリ~!!!」


 と私は叫んだつもりであるが、実際に出たのは「チュー」と「ギチギチー」というのの中間くらいの高音と、ブブブブという低い振動だけだった〔多分ネズミとカニの混ざったヤツ〕。 


 急に手応えが軽くなるや、向こうにあるらしい空洞から出てきたのは一匹の全長が30ドーメン(≒㎝)はあろうかというアリの大群だ。50ドーメン(≒㎝)くらいのアゴと体格が立派なヤツもいる!


 何が修繕が必要無いっぽいだ! 一方的な顔見知りである15人ほどのオッサンたちに恨みの念を抱きつつ、私はアリたちの群れに飲み込まれた。









 連中は絶対に、ここがアリに侵食されていることに気がついていやがったに違いない。

 アリに(たか)られればオッサンたちは骨も残らないからな。


 しかし私は神の被造物であるスライムもどきである。

 アリたちもよくよく考えると神の被造物なのであったな。若干であるが「人間を殺しにかかってるな~」と思わなくも無い。

 例え自然界のバランスが崩れようと、魔王が発生しようとも神は勇者を送り込んだりはしない。そういう鋼の御心(メンタル)を持つ御方なのだ。


 地上の聖職者たちに言って聞かせてやりたいが、神は途中の強引な軌道修正は絶対に行われない。失敗したら最初からやり直す。そんなことを呆れるほどに繰り返されているといつかに聞いた覚えがある。


 この世界についてちょっと不安になったが、今はそれどころじゃ無いな。

 私はただいまアリを大量に消化中だ。群がれば食い尽くせると思ったら大間違いだ。

 私は自分に群がる最前列のアリを半分だけめり込ませると、そのままそいつらを消化しながら盾にすることにしたのだ。隙間が出来るまで後ろの奴らは噛みつくことも出来ないから、ウロウロと消化されつつある仲間の上を歩くだけである。


 全身をアリに(たか)られながらどれだけの時間が経過しただろう……気がつけば私の縦横は5アーム(≒m)にもなっていて、アリどもは私に攻撃を加えつつ1アーム(≒m)もありそうな女王を担いで巣から脱出を計っている最中だった。


 アリめ! だが今回は見逃そう。体が大きくなりすぎてしまったし、私の目的はこの先を掘って拡張することだからな。


「な、何だ? こいつらは……アリ! 来るなぁぁぁぁ!」


 しまったと思ったが仕方がない。一方的な顔見知りのオッサンが一人、分岐路から(あふ)れたアリに飲まれた。あれごと消化したら私はオッサンを食べたことになるのだろうか? 何やら後味の悪いことになりそうであるな。









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