第26話 経理しませんか
「お話はだいたい分かりました。ツライオさんはここでのお仕事はどうされますか?」
意外なことに私の話はすんなり通ってしまった。もうちょっと身の上について聞かれるかと思ったのだが、ナミーモリー女史は仕事は決まったか聞いてきた。
彼女はこう言うと悪いのだが、良くも悪くもあげるべき特徴の全く無い女性だった。
酷くはないが美女でもない。可愛らしいが何処がと聞かれると困る。西方系の肩までの茶髪と茶色瞳だがクセも何も無い。身長は160ドーメン(≒㎝)くらいで、女性としては普通ではないだろうか。
服装は無地の白いシャツに茶色の長い巻きスカートで、その上から染めない毛織物(いわゆるベージュ色)の上着を着ていた。これも仕事着としては普通であろう。
「まだ、決めておりませんが……他には聞かれないのですか?〔ゴボゴボ〕」
一応、念のために聞いてみた。
「あ、はい。ツライオさんは魔法で危険生物を倒したと聞きました。ジャイナさん達はそういうウソは言いません。持ち帰られた鶏冠は誰が見ても本物です。それにそのコートと手袋ですが……金属ではないですか? 凄い加工技術です。魔法使いでないと作るのは無理です」
ナミーモリー女史(年齢不詳)はハッキリとそう言ってきた。何という観察眼だ。
カチャカチャと無粋な音も立てないコートは、色合いも濃い灰色で編み目も密な為に金属だとは分かるまい。今回はそれをすぐに見抜かれた。
「それに背負い袋は大型危険生物の革で出来てますね。街道にも出る大型ヘビだなんて、相手に出来るのは軍か魔法使いだけです。素材は民間に出回りませんから、使えるのは貴族とそれを倒した者のみと聞いたことがあります」
私は街道の危険生物の扱いについては知らなかった。西方では説明の通りなのだろう。そう言えば東方では全部を他領に輸出していたんだった。
これしか使える物が無いし、丈夫で便利なので本当に気が回っていなかった。相手もまさかこの地下産のヘビだとは思うまい。
「そうなのですか。背負い袋は普通に値が張る物だとばかり思っていましてな。確かに官吏の方から感謝はされたような……。コートと手袋は自作なのです〔ゴボゴボ〕」
ここは適当に言っておくことにした。
「やっぱり。ただ……うちはこういう所なので、出来ましたら経理関係のお仕事を手伝っていただきたいんです! 人手がどうしても足りなくて。それに危険生物対策にたまに参加していただけると助かります!」
どうやら都市設備管理機構で働いてほしいと言われているようだ。狩人の資格とかもらえたりするのであろうか。
「それは狩人の資格を得ることは出来るのですか? 地下の生物を駆除したり売ったりですとか。身分証明の様な何かをいただけるということでしょうか?〔ゴボゴボ〕」
ナミーモリーさんに早速聞いてみる。身分証明はありがたい。取引をする上で強い味方だ。カネがあれば何でも解決する立場にランクアップだ!
「もちろんです。普段は経理担当の仕事を手伝ってもらって、たまに地下に降りていただくこともあるかもしれません。副業は合法的な内容で、こちらと拘束時間が被らなければ自由に行っていただけます。地下へ降りる許可証と管理機構の職員資格が付きます」
何という厚待遇。こっちは今日までどうやって生きていこうか迷っていたのだ。労働して収入も得られる上に、この都市での身分証明にもなるから布の売り先を探せる。
「是非ともお願いします。出来れば住居か泊まれる場所も紹介してほしいのです〔ゴボゴボ〕」
私はナミーモリーさんに引き受ける旨を伝えた。
仕事は明日から。貸せる住居はすぐには無理なので宿屋を紹介された。2週間は宿屋暮らしのようだが、こちらは地下に寝泊まりも出来るしカネもあるから問題ない。
カネはあることを伝えると安心された。ナミーモリーさんは良い人のようである。
必要な書類に記入もして、明日からここで仕事をする契約を交わす。同じものを2枚書いて1枚は私が持っておく。
「『清風と草原亭』っていう宿屋です。これは地図ですから。明日からよろしくお願いします。朝の4刻(朝8時)の鐘までにここに来てください」
先進的な都市というのはやはり違うのだなとその日は染々思った。
ちなみに残念ながらジャイナさんたちは帰った後のようだ。気がつけば陽もすっかり沈んでいた。
役所を出ると大通りである。地図には宿屋以外に目印になりそうな店が書いてある。
――薬屋があるな。ちょっと寄っていきたい――そう思った私は、宿屋の前にまずは『薬と道具 シヴィンの店』という所に寄っていくことにした。
重量を重金属製の骨に預けながらも、間接が外れないようにしながらユッタリと歩く。こうすると足音は出にくいし、靴底に貼った素材が良い仕事をまだしてくれている。これは革みたいな素材だが、もっと何か良い物があれば取り替えてみよう。
ついでにオムツ先生が持っていた『傷薬:即効性』ってヤツをもうちょっと手に入れたいし、他の魔法薬がもしあればそれも買って色々と飲んでみようと思っていた。
歩くことしばし。私の目の前に、大きな看板の良く整頓されていそうな店が見えてくる。汚い店の方が良い物があると言うが、あれは真っ赤なウソであって、何処に何があるのか分からない店はロクなものではない。
しっかりした経営に清潔な店内。ついでに所々が輝いている品物があるが、あれは能力が無い者には見えない魔力の光というヤツではないだろうか。
表の大きな看板には【モッペンユーテクレーヘン魔法学院直営店舗 薬と道具 シヴィンの店】と書いてあった。手堅すぎて涙が出そうになる。ここなら良い物が置いてあるに違いない。
早速、店に入ってみるとカウンターに人は居ないが、向かって右側は奥まで薬品棚で、左側の方には棚の上に様々な道具類が置いてあった。
扉を開けて店内に入った瞬間、扉から『見えない何か』が放出されたようだが仕掛けがあるようだ。特に異変は無かったので商品を見てみることにする。
まずは道具類の方からだ。この辺の変わった品物は、私の変装をより完全にしてくれそうに見えたのである。
注目したのは2つの眼球の様に見える置物と、口の中から切り出してきたかの様に見える『入れ歯』だった。
ツライオ〔クーネル〕の所持金
金貨:62枚 大銀貨:0枚 銀貨:37枚 大銀貨:0枚 大銅貨・銅貨:省略
銅貨1枚=1デネイ
銀貨1枚=100デネイ
金貨1枚=10000デネイ
大がつく硬貨は10枚分の価値。
一般兵士の給与は月額が金貨2枚。これで4人家族が普通に暮らせる方です。
オムツ先生と狩人から奪ったカネの凄いこと。ハック&スラッシュはダメ絶対。そして大金を持ち歩かないこと。給料の良い人と家族の居ない人達だったんでしょうね……。




