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第2話 ご近所さん


 私は気を取り直して、今の生活に何とか適応することにした。


 匂いは()げるし、目だって本当のところはどこに付いてるか不明だが見える。何とかなるったら何とかなるのだ。ネトネトの柔らかい体なのに割と素早く動ける様になったしな!


 それでも用心深くあるに越したことはない。


 今の私は良い光沢の布が作れる以外は、丈夫で多少素早い体と「チュー」って鳴くことしか出来ないから。

 取り込んだ対象は消化出来るようだが、酸を飛ばす様な真似ですら出来ないから、この地下での私はまだ弱者に属する者なのだ。


 ちなみに私の現在の大きさだが、およそ縦横1.5アーム(≒m)くらいの大きさであるらしい。

 ここら辺は比較対象が、掃除に来たオッサンの身長と歩幅なので確実ではない。しかし大きく外れてもいないと思うのだ。


 私が生まれ落ちたのは、オッサンの独り言が分かるから今までと同じ世界なのであろう。3回目も同じ世界で全く違う身分の者として生きることになったようだ。








 ここはぼんやりとした灯りが等間隔で並ぶ大きな通路と、まるっきり暗闇でしかない分岐路が並ぶ場所だ。人間には危険で不衛生な場所でしかない。

 曲がりくねった通路が無いのが唯一の救いであると言っても良い。右か左に真っ直ぐ折れる通路があるだけだ。斜めの通路も全く無い。


 そして危険で不衛生であろうとも、掃除や修繕に来るオッサンたちが居る。


 たまに洒落抜きでヤバい生物がいて、そんな存在を始末するために人が降りて来ることだってある。

 10人並みの容姿ながら、割とキリッとした女騎士とか、比較的にキリッとした女戦士などだ。女性率高いな! キリッばっかりで正直驚いた。男性も降りて来るのだが、4人以上のパーティでは絶対に女性が1~2人は混ざっているのが不思議だ。


 掃除や修繕にはオッサンか若い男しか来ないあたり謎の配合比である〔オッサンが圧倒的に多い〕。

 

 田舎だと絶対にこうはならない。狩りとか盗賊相手は男の仕事で、跳ねっ返りのお嬢ちゃんですらあっという間にオッカサンになってしまうのが田舎なのだ。そして亭主をアゴで使う。


 村を出ない限り、勇者や戦士や師匠に付いていかない限り、村の女性というのは例外無くそうなってしまうモノなのである。


 であるから、初めて見た都会の女性というのは新鮮だった。そこら辺の男なら素手で殺せそうな剣呑な雰囲気をしていた〔この上にあるのが普通の都会であると仮定してだが〕。


 とにかく女性には『(えん)』がありそうだ。とにかく目立ったヤバいことをすれば、彼女たちは即座にやって来て私を構ってくれるだろう。主に剣とか松明(たいまつ)とか火炎瓶(かえんびん)で……クソッ、これなら炎でも死なない体にしてもらうんだった。ってそうじゃない! 


 仮にそれ以外の方法でかまってもらえたとして、このウニョウニョの身体でどうやって相手をするというのだろう。普通の暮らしも出来ないのに、その先を想像することの何と(むな)しいことか。


 だが神とて非情ではない。何か方法があるはずだ。最近では罪の無いオッサンを消化するべきかどうか悩んでいるが、そんなことで活路を見いだせないか絶賛考え中である〔言葉が話せる様になったりしないか気になったのだ〕。


 こうして天井の暗がりに貼り付いて、色々と考えてはいるのだが今後について一向に(らち)が明かない。

 ちなみに私は音は拾えるし鼻もいい。まれに悪臭がしても(ひる)まない。視覚は普通にあるし、暗いところでは反響定位と温度差まで見えるらしく全く困らない〔体温が周囲より高いと赤く見える。逆の場合は青く見える〕。


 それはそれで良いのだが、まずは家と言うか拠点(アジト)を見つけるか作るかしないといけない。理由はもちろんちゃんとあって、出した布の保管場所は必要だし〔今後たくさん出すとしてだが〕、安心して休息がとれる場所が必要なのだ。ここには『ご近所さん』とでも言うべき厄介な連中が結構存在するようなのである……。








 ここにはオッサンの心の平穏を乱し、ほとんどの場合は切り刻んだり丸飲みにしたりする連中が時折(ときおり)行ったり来たりしている。


 数日前には体高3アーム(≒m)はあろうかという(カニ)が分岐路の奥から突然現れ、4人組の男女に始末されていた。

 通路は高さが7アーム以上はあって幅も10アーム(≒m)はあるので、これくらいのやつなら生存可能なのだ。水路の幅と深さも4アーム以上はある。


 そいつは結局のところ、斧で眉間を叩き割られた挙げ句に槍で突きまくられて死んだのであるが、とにかく壮絶な戦いだった。


「キャァァァァァ!」 


「クソッ、こいつか! 下がれ、全員散れ」


「何だい。蟹かい?」


 というセリフに続いての「ドカッ」とか「ガイン」という音の後で勝敗は決したらしい。


 下半身だけ何故か黒い下着という女性は、股間からちょっとだけ何か()れてたし、男性に至ってはズボンの前が染みになっていたが何とか倒したようだ。全員がかなりビビったのだろう。


 彼らの名誉の為に言うと、こんな身分でなければ私でもチビりそうな蟹だった。

 女性の服装については深く突っ込まない方向で行きたい。きつそうな顔であるが、割と頻繁にチビってそうである。


 ここの連中は、全員がよく漏らすらしいのだが不思議でしょうがない。


 ここの清掃担当者は、床の上にブチ()けられた尿の掃除をすることもあるのだ。それも、比較的に綺麗な水が流れる水路が近くにある場合だけで、汚水しか流れていない場所では別の存在がこれらを掃除する。


 後日であるが、彼女の名前が「尿漏れのジャイナ」さんであると知って納得した。

 尻のくい込みと顔がキツ目の女性だが、やっぱり不意打ちでは漏れちゃうらしい。

 大の男でも地下では漏れるということなので、二つ名があるだけでも街では有能とのことだった。


 盛大に悲鳴を上げ下からは漏らすが、それ以上は取り乱さずにキッチリと相手には武器を叩き込み止めを刺す。

 精神的にはそっちの方が良いという謎の説もあって、この地下の特殊性と合わせて妙な話であるなと思う。


 蟹については、両目と両方のハサミを持っていかれたが他が残っていたので、遠慮無く私が消化することにした。

 結果はと言えば押したり引いたりする力が上がった。(かた)さが上がるとかは全く無かった。


 可食部がとにかく多くて、体の大きさがすごいことになってしまった。これは体内で布を作って吐き出さないと元の大きさに戻れそうにない。







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