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第16話 ナカダゴール何でもやる会


 ここで数日間(ネバ)ってようやく出会った『ナカダゴール何でもやる会』の皆さんは、装備からして清掃業務に来ましたという風には見えなかった。


 連中は全員が、東方系の黒眼黒髪や西方系の茶色い髪と目の者であった。全員が如何(いか)にもなヤクザ者という面構(つらがま)えで、荒事(あらごと)に慣れていますと顔に大きい文字で書いてある。


「アレは何か殺しに来ましたって感じだな〔ゴボゴボ〕」


 彼らは10人くらいは居た。全員が上半身と手足に革鎧〔一部金属〕を着て、手には槍や長い斧槍に背丈ほどの長剣などを持っている。


 特に気になるのは下半身で、脚には防具を着けているが腰は下着のみという(いさぎよ)さだ。

 これはつまり危険な生物を相手にし、下から盛大に()れてしまうことを想定しているということに他ならない。


 そして彼らは先程から床を丹念に確かめ、ランタンの灯りまで出して何かを探しているようである。あの辺は私が機械兵士と戦った辺りだな。


「本当に何も無いのか?」


「ヘイ、何にも見つかりません。屑鉄みたいなゴミは落ちてますがね。兄貴、これはもうどっか行っちまったんじゃねえですか?」


「かもしれねえ。しかしアレはヤバかった」


「どっちが勝ったんですかね? オレは鎧の化け物の方が強そうに見えましたけど」


「とにかくこうやってても(らち)が明かねえ。引き上げるぞ」


 どうやら探索はせずに帰るつもりらしい。そもそも彼らは狩人ではない。ここまで確認に来ただけでも立派だが、通常業務の方はサボってるなこれは……私が人間なら通報案件であるが、今は死体目当てで来ているのでロクでもないのは似たりよったりだ。


 そして彼らが探しに来たのは、私と機械兵士の両方であるらしい。先程の戦いを見られたな。


「痛ぇ、なんだこりゃ!?」


 床に落ちたモロモロの金属の破片を触っていた構成員の一人が、左手を押さえて(うめ)いている。残留している溶解毒に触れたな。アレはどれくらいで分解するのかは不明だが、もう少しきちんと掃除をしておくべきだった。


「オイ、そこの床に触れるな! 毒かもしれんぞ!」


「手を見せてみろ。何でか血が出てるし、こいつで洗え」


 毒は指と手の平を少し溶かしたようだ。構成員の男は、水筒の水で手を洗い包帯を巻いている。

 変化は出し抜けだった。先程の怪我をした男が泡を吹いて倒れ、床の上で痙攣(けいれん)を始めたのである。


 あの毒は物凄く効くことは分かった。


 ここは動こう。連中は滅多に降りてこない。業務はサボるし、厄介な揉め事が起きて死体が出来るまで、これ以上は待ってもいられない。







 決断したならば、そこからは出来るだけ早く動かなければ。私はそれでも、出来る限り静かに暗い分岐路から出て彼らに接近した。


「ああ、失礼する。私はそこで戦ってた者なんだが……そこの彼を置いていってもらえないだろうか。呼吸が相当に細くなっているから彼はもう手遅れだと思うのだが〔ゴボゴボ〕」


 ここに生まれ落ちてから人間と話をするのは実はこれが初めてなのだ。私は緊張していたが、意外ときちんと話すことは出来たと思う。


 欲を言えば、もう少し明るい感じの声が良かった。今の声は深みはあったが、深過ぎるというか重い感じで、しかも更に地下の方から聞こえて来るような雰囲気を持っていた。 


 一斉にこっちを見て固まった10人前後の男たちの下半身から「ブシュシュッ」という音がしたのは数瞬の後のことだった。すごい勢いだな! 


 10人分の池はすぐに清掃が必要なレベルだが、彼らがそれをやってくれそうにないのは残念で仕方がない。

 あと下着のフィット感が凄いので、どこで売ってるパンツなのか後で教えてもらいたい。私の布を買ってくれるかもしれん。


「キヒャエヤァァァァ!」


 床で倒れている男以外は、奇声をあげ武器を抜いて殺到してきた。

 

 ここは不思議な力を与える地下で、そして彼らは狩人でなくとも荒事に慣れた男たちなのだ。生存本能の後押しによる瞬発力は凄まじいものがあった。


 私は身体の一部を伸ばすと、それを横に振り抜いて彼らを凪払(なぎはら)った。彼らの目は血走っていたが、彼らの興奮が抜けるまでは何度もそれを繰り返す。私は信心深いのでさすがにこの状況で殺しにいくのは不味い。


 やがて興奮が収まってきたと思われるところで再度声をかけた。


「もう一度言う。そこの彼を置いていってもらえないだろうか〔ゴボゴボ〕」


 彼らの顔は涙と鼻水でグチャグチャになっていた。


 狩人の場合はこうなる前に、ほとんどのケースで対象を始末しているし、冷静さが戻ったなら今度は狙って叩き殺しに来ただろう。


 彼らの場合は再度の恐怖に襲われているように見えた。


「な、何なんだお前? お前何なんだ……」


「私か? ああ、名乗らずに済まんな。私はクーネルという者だ。ところで返事の方はどうなのだろうか? 彼はもう呼吸していないように見えるんだが〔ゴボゴボ〕」


 運悪く毒の被害でぶっ倒れている男を指して、もう一度辛抱強く『兄貴』と呼ばれていた男性と交渉を行った。


 おそらく新種の毒だけに解毒剤などは無いだろうし、神官のお世話に慣れそうな金額はこの男に使用されることは無いのではないだろうか? いや、意外とお金はある組織なのかもしれないし、その可能性はあるのか?


「それではこうしよう。彼を医者か神官に見せてみて、駄目だったらここに放り込んでもらうというのはどうであろうか? それなら余計な騒ぎにもならないし、君らだって面倒に巻き込まれずに済むであろう?」


 私としては、前世での東方におけるヤクザな連中の人間観を理解した上で聞いた。


 こちらとしても非常に不本意なのだが、亡くなってしまった者については助けようがない。倒れている男の死因は偶然のもので、しかも連中は無実の者とはかけ離れた破落戸(ゴロツキ)である。

 

 彼らの表情は完全に消えていたし、身体はフラフラしていたが、彼ら一同はガクガクと(うなず)くと武器を拾い、倒れている男を担ぎ上げて縦穴の上に姿を消した。私もちょっと手伝った。


 私は騒動の後を見てため息をついた。これは良くない出会いだったな。ここは一旦は住処(アジト)へ戻ることにした方が良いだろう。


 私は水路の水を使って『男達の作った池』を洗い流すと、その日は住処(アジト)へと引き上げた〔ここにはちゃんと側溝があるのだ〕。


 普段の行いが良かった為なのかもしれないが、私は帰り道で目的の『遺体』を偶然に拾うことが出来た。

 どういった人物なのかはほとんど分からない。服装からして修繕担当者の様だ。体格はかなり良いし顔つきは穏やかで険が無い。ここまで逃げてきて低体温症で亡くなった様に見えた。

 腹部と背中の半分が凍りついているのだ。怪しい。



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