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第10話 お嬢様は魔女になりたい①

注):今回はモレーナさんに焦点をあてた三人称視点のお話になります。


 





 モレーナが()()を願うようになったのは、10歳の誕生日を迎えてからのことだった。


「私はお嫁になんか行きません。私ね、お父様のお嫁さんになるの!」


 モレーナの父親である『モレボー卿 ボラギノーレ・ジノアート』の顔は、たちどころにヤニ下がった。


 モレーナも貴族の一員と呼べる地位にいるのだ。10歳と言えばそろそろ許嫁を決めても良い年頃である。

 しかしながら、父親が切り出した縁談に彼が溺愛する娘が切り返したのは「行きたくない」という答えだったのだ。


 娘が家を出ていくのを黙って見送る自信が喪失しそうなモレボー卿であったが、彼は断腸の想いで無邪気な娘に言い聞かせる気力を何とか絞り出すと、それを声に変えて吐き出した。


「それは無理だよ、モレーナ。私には既に妻が居るんだ。モレーナは頭が良い子だから分かると思うけど、お母様のことだよ……」


「まあ、すごくうっかりしていました。でも私の方が若いですから、後妻でも構わないわ!」


 モレボー卿は職務に忠実な御人ではあったが、同時に娘達にだけはトコトン甘かった。もちろん今もそうである。


 モレーナの2つ目の返事は、彼女の母親であるズレーナを大いに怒らせる結果になったが、モレボー卿のなけなしの気力を粉砕するには充分だった。


 彼は顔を覆って泣き出してしまったのだ。


「モレーナは私と居るって! 神よ!」


 とか言いながら父であるボラギノーレは内心ホッとしてしまった。彼だって本当は娘を嫁にやりたくなかったのだ。


 こうしてモレーナは1年という時間を稼ぐことに成功する。








「お嬢様。大変申し上げにくいのですが……その……お(つら)いかもしれませんが少しは旦那(ダンナ)様のお話だけでも最後まで聞いて差し上げたらいかがでしょうか? 私はこんなですから上手く言えないんですけど……」


 モレーナ嬢の専属メイドであるフリーネ(当時12歳)は、そう言って下を向いて押し黙ってしまう。


「まあ……気を使わせてしまってご免なさいね、フリーネ。私が態度をハッキリさせるべきなのだわ。でも……私は(あきら)めたくないの」


 当然ながら、父親に対するモレーナ嬢(10歳)の言葉は全てがデタラメの言い逃れでしかなかった。


「諦めるって何をでございますか?」


「自由よ。お姉さまだけズルいわ。私には魔法の才能は無いかもしれない。それでも私だって魔女になれるはずだわ!」


 モレーナの姉であるエルディは、魔法の才能があったおかげで学院に通うことになったのである。現在12歳のエルディは、帝国法により22歳までの間については、相続に関する実家の拘束力が及ばない立場になるのだ。


「その、私のお嬢様。どうやって魔女になるのですか?」


 フリーネ(12歳)は不安そうにしている。


「よくぞ聞いてくれたわ。これを今から実践するのよ!」


 ドドーンという感じで、モレーナ嬢(10歳)はフリーネ(12歳)の目の前に一冊の本を付き出して見せた。


 表紙に『暗黒♡魔女入門(初級)』と書いてある本を高々と(かが)げ、モレーナ嬢は鼻息も荒く完璧なドヤ顔をしてみせる。


「これにはね、才能が無くても誰でも魔女になれるって、そう書いてあるの」


 怪しげなタイトルに、フリーネの胸中に暗雲のような不安がモクモクと垂れ込めてくるのであるが、彼女はその不安を上手く言葉に出来なかった。フリーネはこの時のことを今でも後悔している。








 この本の著者は最初の『才能無き魔女』である『ロスィーン・ユー・カイ』であると書いてあるが正確なところは今でも不明だ。


 魔女ロスィーンは、国土を人の住めぬ大地に変えるほどの秘法を手に入れたが結局使うことは無かった。男運は滅法無かったが、資産家であった彼女は「私が損するだけじゃないの!」と言って、この秘法を封印したとされている。


 古代と言っても超の付く昔の話ではあるが、モレーナ嬢は歴史ロマン的な話に非常に弱かった。


「まずはこれからよ。『神に捧げられし畜獣の臓物を(むさぼ)るべし』!」


 モレーナ嬢の語尾の強い言葉は部屋中に響いた。


 こうして、誰が100回見ても無謀なモレーナ嬢の挑戦は始まったのである。


 彼女は近隣の都市でも比較的に有名で安全と言われる『モツ煮込み屋』に日参しひたすらにチャンスを待つことにした。稀に神殿から下賜(かし)される牛の内臓を狙ったのである。

 その間、モツ煮込み大好き少女として、お忍びでやって来た元重臣クラスのご隠居達と友誼(ゆうぎ)を結んだりするのだがここでは詳細を省くことにしたい。 


 神殿牛のハツやらミノを食べて、全員が大いに盛り上がった。

 ご隠居連は、嫌な顔一つしないで愚痴を聞いてくれるこの少女を気に入っていたし、モレーナ嬢は彼女の境遇に関する悩みを聞いてくれる老境(ろうきょう)の男達が割と好きだった。


 モットモーディカイ帝国において「皇帝が最も気を遣う女性は誰か?」と問えば表の答えは皇后様ということになる。


 だが先帝陛下が存命中の裏の答えは、先帝陛下や引退した元重臣たちの友人であるモレーナ嬢であった。

 彼らは引退後に、西方地域にやって来てそこでノンビリと余生を過ごしていたのだ。そこはたまたまではあるが帝国西方のモレボー領であった。


 モレーナ嬢はもちろん知らないことである。







 『暗黒♡魔女入門(初級)』における1つ目の課題をクリアしたモレーナ嬢は、続いて2個目の課題に着手することにした。


「次はこれよ。『10組の縁談を破談に追い込むべし』!」


 主の不気味な宣言に「もうやめましょう」とは言い出せぬフリーネ(12歳)であった。フリーネはこの時が止める最後のチャンスだったのではないかと後悔している。


 ここでも詳細は省くが、彼女は初等部在学中、最終的に67組のカップルを破談に追い込んでいる。


 その上で、破談になった対象者全員を含む77組の新しいカップルを誕生させた。他人の縁を取り持ってはいけませんとは『暗黒♡魔女入門(初級)』にも書いていなかったのである。


 性格的な相性に問題が無く、さらには家柄的にも全く問題が無かったので、結果的にこの件については感謝状以外の反応は一切無かった。


 モットモーディカイ帝国において「帝国で最もお節介な女性は誰か?」と問われれば、ブッチギリで先代の皇后陛下があがる。


 ただし先代の皇后陛下から「我が弟子」とモレーナ嬢が呼ばれていたのは秘密になっている。


 モレーナ嬢はもちろん知らないことである。







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