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阿吽

 人は、息を止め続けることは出来ない。


 息を止め続ける事ができたとき、それを人は〝死〟と呼ぶ。




 (あまね)と刀四郎は、神の尖兵に対して息つく暇も与えぬほどの、魔法と斬撃を与え続けていた。


「これは……嵌められたかな」


 しかし、刀四郎は珍しく、渋面をつくりながら呟いた。


 神の尖兵からの光線の一斉射撃後の隙を突き、懐に飛び込んだ刀四郎だったが、それ以降はそこから離れることが出来ないでいた。


 自身の斬撃は確かに相手に届いている上に、神の尖兵の身体にはしっかりと無数の刀傷が刻まれている。しかし、刀四郎の腕に手応えと呼べるものはなかった。


 その上、刀四郎は急速に魔力を消費していた。


 彼の振るう二振りの大太刀は、神の尖兵を斬り付ける度に刃毀れ、それを自身の魔力を使用することで刀を修理する〝鍛治〟のスキルを常時発動することにより、今の状況を維持していたのだった。


 相手が〝神の眷属〟でなければ、彼の斬撃は敵の魔力を吸収し、刃毀れしたとしても自動的に〝再生〟する機能を、刀四郎は二振りの大太刀に付与しているが、現在それは機能していなかった。


 現状の状態を続ければ、僅か数分の内に魔力が枯渇することは、火を見るより明らかであり、打破するための行動を起こさぬ限り、首にかかる死神の大鎌の幻視は現実のものとなるだろう。


 だからこそ、彼は選択する。


 この最高の刻を、さらに楽しく過ごすために。



(とう)め、私が合わせることを前提に動こうしているな」


 (あまね)は絶え間なく、焔が灯る羽根の矢を神の尖兵に対して降らせ続けながら、溜め息混じりに呟いた。


 周の瞳が映す刀四郎の未来視は、間違いなく首が胴に永遠の別れを告げる様子だった。


 (あまね)が、何もしなければ数秒後に訪れる確率が極めて高い未来。


 神の尖兵の未来は視えずとも、刀四郎の未来は視る事ができる。それを言わずとも利用しようとする刀四郎の思惑に、(あまね)は僅かに微笑みながらも乗ることにした。


「〝赤く 紅く 朱く 紅蓮よ 煉獄よ その猛き焔を刃と成りて 闇を照らし 影を断て〟」


 (あまね)の詠唱ともに、燃える翼から舞い降りていた無数の羽根が、突き出した(あまね)の右手に集まりだし、それは次第に刀というより、古代の剣という形に近い形状へと姿を変えてゆく。


「流石、視えてる御仁の協力プレイは、異常な程のタイミングの合わせ方だねっと!」


 刀四郎は、刃毀れ(・・・)している二振りの大太刀を同時に、神の尖兵へと叩きつけるように斬り付けた。


 結果として、盛大に二振りの大太刀は、ものの見事に根元から綺麗な音を奏でながら折れたのだった。


 当然それは、刀四郎にとって〝死〟を意味する行動である。


 即座に神の尖兵の顔が、刀を振り抜いた状態の刀四郎へと向くと、両腕で掴みにかかろうとする。


「それは、誘いの隙というものだ、神の使いよ」


 刀四郎に向かって掴み掛かろうとした神の尖兵の両腕は、次の瞬間甲板にめり込んでいた。そして、刀四郎と神の尖兵の間には、剣を振り下ろした姿勢の(あまね)がいた。


 甲板に降り立った(あまね)が、背後にいる刀四郎を護る形となっていた。しかし、先程とことなり、神の尖兵の相手を(あまね)のみで対応しており、神の尖兵も身を固めるのみでなく(あまね)を殺そうと攻めの姿勢をとった。


 (あまね)ごと背後に守られている刀四郎と貫くつもりなのか、神の尖兵は右の拳を鏃の様な形状へ変化させると、(あまね)にむかって突き出した。そして、それを開戦の合図と言わんばかりに、激しい金属音に似た轟音が連続で鳴り響く。


 折れた大太刀を鞘に納め、居合いの構えに変わっている刀四郎ごと貫かんと言わんばかりの攻撃ばかりを見せる神の尖兵に対し、(あまね)はその紅に染まる剣によって、それを防ぐ。



 そして、十もそれを繰り返すと、先に根を上げたのは、(あまね)の剣であった。


「十束に似せた剣でさえ、二十も打ち合えぬのか。これを数百と耐えた刀四郎は、流石と言ったところか」


 自身の魔力を用いて刀身を強化及び再生を行なっていると言えど、ただ打ち合うだけでなく捌く事で、刀身への負担を減らしていた刀四郎の技術に、素直に感嘆する(あまね)だったが、眉間に皺を寄せていた。


「しかし私は、使われるのが嫌いなのだよ」


 そう、呟くと次の神の尖兵よりの一撃は、剣で止めることなく避けた。


「あっぶねぇ!? おいコラ爺い! 急に避けるなよ!」


 ただでさえ既に至る所が裂けていた刀四郎の羽織が、神の尖兵の一撃に巻き込まれ、刀四郎は完全に上半身が露わになっていた。


 しかし、居合の構えはそのままであった。


 しかし次の瞬間、刀四郎の肌が、赤黒い色へと一瞬で変化していた。


「〝鬼々来々(ききらいらい)〟」


 そして刀四郎の言葉とともに、神の尖兵は動きを止めた。


 否、身動きを止められた。


 丸太のような太く強靭な両腕を、それを上回る程の筋肉の化身の様な悪鬼が、掴み抑えていた。


「〝鬼姫舞々(ききまいまい)〟」


 姫姿の美しい鬼が音もなく現れ、神の尖兵の周りを舞う。


 ここが死地であることも忘れるほどに、美しく舞う鬼の姫君に、神の尖兵ですらも、その視線を彼女から切ることが出来ない。


「〝火乃本一(ひのもといち)〟」


 刀四郎が居合の構えをとり手にしていた刀は、既に消えており、鞘に戻していたもう一方の刀も消えていた。


 代わりに彼の手は、柄まで青白く光る大太刀が握られており、その青白く光る炎は、その刀から体全体へと広がりを見せていた。


 青白い炎が刀四郎の全てを包み込むまで、時間にして数秒。致命的な隙と言えるが、目の前の神の尖兵は、彼に手を出すことはなかった。


 完全に、鬼姫の舞に魅入られるように、意識を釘付けにされていたからだった。


 だからこそ、次の一撃は〝必中〟となりうるのだった。


「〝死鳥之別(さようなら)〟」


 鬼姫、悪鬼、神の尖兵、全てを両断する蒼き炎を纏う一閃が、刀四郎から放たれる。


 そして、一閃に両断された鬼姫と悪鬼は、霞の如く消えて行き、そこには身体が二つへと別れを告げた神の尖兵の白き巨躯だけが、甲板の上に音を立てて転がったのだった。


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