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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

旅に出た

異母姉は転生者で家族を捨てて出ていった

作者: 伊藤@

※虫の表現があります、苦手な方はブラウザ閉じて下さい


「サラちゃん出ていったんだって?」

「ユリアさんの薬草園ごと持っていったんだってさ」

「山の神の血筋だけあるよねぇ」

「本当、何代か前にも山の神の力を持つのがいたし直系だけあるわよね」







 異母姉が出ていった。


 異母姉は、出ていく時に私やママとパパを別々の魔素紙に閉じ込めていった。

 異母姉がこんなスキルを持ってたなんて全然知らなかった。

 狭くて真っ暗な場所に閉じ込められて、小さな四角い窓から外が見える。

 最初は皆大声あげてあいつを罵ってたけど、ママのドレッサーから異母姉の母親の宝石が出てきたらパパが静かになった。

 私とママは気にしないで騒いでいたけど、私の部屋にきてクローゼットから異母姉の服や大量の装飾品が出てきたらママが静かになった。

 玄関に貼り付けられても私だけは最後まであいつを罵って大声をあげてたら、リックがびっくりした顔をして駆けつけてくれた。


「え?なにこれどうなってるんだ?!」

「リック!助けて」

「え?おじさんにおばさんとクレッシュちゃん?!」


 リックはいきなり私の魔素紙を画ビョウから無理やり剥がそうとすると、突然私の両手が千切れそうになり血が溢れた。


「止めて!!この馬鹿!丁寧にしてよ!血が出たじゃない」

「ば、馬鹿?!」

「いいから、人呼んできてよ!役立たず!」


 異母姉の馬鹿な幼馴染みは、怒鳴られて真っ青になりながら人を呼びに走って行った。 

 私の両手の傷は、この空間だと無効化されて治せない。

 くそっリックの馬鹿が。




 やっとリックが人を呼んで戻ってきたら、村長のじい様と魔術に詳しい薬師のばばあに近所の野次馬が大勢いた。

 ババアがお神酒かなんか知らないけど、めっちゃ臭い酒をバシャッバシャッ掛けると紙が溶けて結界がなくなって外に出られた。


「くっさ!痛っ!早く手治さないと!ヒール!ヒール!ヒール!」


 やっと血が止まったけど手首も痛いし、全身じくじくと臭い酒のせいで痛んできた、私だけ喚いてたけど、パパは俯いてて、ママは真っ青になっている。


「さ、何があったか知らんが、その娘には窃盗の疑いがあるで連れていくぞ」

「せ、窃盗!?」


 パパが真っ青になって私を見る。

 ママは真っ赤になって私を怒鳴る。


「クレッシュあんた!もうやらないって約束したじゃないか!」

「だって!ママ!あの人が持ってたって似合わないじゃない」

「クレッシュ!いい加減にしなさい!あんたのせいで街に居られなくなってここにきたのに!」

「うるさいよ!貧乏なのが悪いんじゃん!」

「取りあえず連れていくぞ」

「いやだ!ママ!ママ助けてよ」

「ガーナド、悪いが家探しさせてもらうわ」

「やめてくれ!俺の家に入らないでくれ!」

「ガーナドの家じゃないだろ、ここは代々ユリアさんが継いでいる家だろ、あれ?サラちゃんはどうした?」

「あいつなら出ていったわよ!」


 大勢の視線がパパとママに突き刺さる。


「魔封じの首輪持ってきておくれ」

 

 薬師のババアが誰かに指示していた、急いで持ってこられた魔封じの首輪をいきなりママにつけた。


「やめて!何するの!」

「あんた魅了持ちだろ?」

「!?」

「聖水掛かって魅了の印が浮き出てるさね」


 ママは咄嗟に額を両手で隠すと、ババアがニヤリと笑った。


「村長連れてけ」



 ママは私の窃盗癖で街から逃げる為に、魅了でパパを垂らしこみこの集落へきたのがばれて追い出された。

 パパとは、私が生まれる前からの付き合いだったみたいだけど、私の本当の父親じゃないってママが言ってた。

 だから異母姉とは全く血の繋がらない他人だった。


 私は窃盗の余罪が多すぎて、ママから離されて砂漠の王国に労働者として送られた。


 砂漠の王国は『目には目を』っていうルールがあるんだって。私が下女として働かされる場所は砂漠の荘厳な王宮だった。

 入って直ぐに人の物を盗ったら無茶苦茶殴られて丸坊主にされた。


 次やったら大人の盗人のように手を切り落とすぞと言われた。多分、近い内に両手無くなるんじゃないかな。

 だって、こんなところで生きていても仕方ないもん。





□□□□




「随分毛色の変わったのが紛れてるな」

「恐れながら、殿下が気にかける者ではございません」


 丸坊主の娘がけだるそうに雑用をしている。随分と嫌われているようで傍に誰もいない。


「面白そうだなぁ、よし連れてこい」

「殿下!」

「死ぬのが、遅いか早いかの違いだろう?」

「畏まりました、手配致します」



 ドヤドヤと洗濯場に兵士が数人入ってきた。


「お前こい!」

「ちょっと引っ張らないでよ!やだ、何もしてないってば」


 兵士がいきなりきて、首を掴まれ引きずられた。

 殴られた時を思い出して体が震える。

 そりゃ怖いよ、死んでもいいなんて思いながら、死ぬのは怖い、怖すぎる、殴られるのかな、回復魔法使えるとはいえ、殴られる瞬間は痛い。


「さっさと歩け!」


 蹴られた、ムカつく。

 連れてかれた場所には、浅黒い肌に黒目黒髪のやたら顔のいい男が優雅にふんぞり返っていた。

 何こいつ、腹立つ、こいつのせいで蹴られたんだ。


「まだ、自分の状況がわかっていないのか、面白い。お前名前は?」

「…クレッシュ」

「変な名前だな、今日からお前はガナだ」


 ガナの方がよっぽど変だ。


「感謝の言葉を述べよ!殿下自らの命名だぞ!」


 殿下?もしかしてこいつ王子な訳?

 黙っていたら、傍にいた兵士が頭を掴んで床に平伏させられた。


「痛い!痛い!離してよ!嬉しくもないよ!そんな変な名前!」


 次の瞬間、体が吹っ飛んだ。

 ろっ骨が軋む、あまりの痛さで咄嗟に回復魔法を掛けてしまった。


「ほう、聖なる使い手か」


 殿下は面白い玩具を見つけたような顔をしていた。

 ヤバイ、こいつの前で回復したのは失敗だった気がする。


「服を用意してやれ、明日から連れてゆく」

「畏まりました」

「もうよい、下がれ」


 そのまま連れ出され自分の部屋に押し込められた。

 泥棒とは一緒に居たくないと、同室だった女は部屋を移り今は一人部屋だ。

 

 子供の頃から特別だと言われて育った。

 殴られた事も無かったし、思い通りにならなかったら泣きわめき、それでも駄目ならママに言えばなんとかなったのに。

 なんなのこの状況、全部サラのせいだ、許せない。



「これを着るんだよ、着替えたら殿下の部屋へ行きな」


 朝早く叩き起こされた、眠そうにしてると年配の女が白いローブを手渡してきた。


「なによこれ」


 女は溜息をつくと強い口調で私に言う。


「殿下があんたに用があるんだとさ、こんな泥棒女のなにがいいのやら」


 ブツブツと文句を言ってさっさと行ってしまった。

 仕方無く着替えると渋々部屋へ向かう。


「遅い」

「え、これでも早くきたんだけど」


 あの男がパチッと指を鳴らすと、突然私の全身に黒光りする虫が湧き這い回る。

 カサカサカサカサカサカサカサ。


「キャアアアアア!!やだ!何これとって!やめて!」


 叫びながら、払い落とそうと必死になっていると、男が部屋の外にまで響くほど笑いこけている。

 側近や兵士は殿下を敬うことをしない私を怒り冷たい目で見ている。

 誰か助けてよ!気持ち悪い。


「踊れ踊れ!あほうの踊りだ、最高だなお前は!」


 あははははは!あーはっはっは!

 男はひとしきり笑うと表情を消した。

 私はずっと虫を落とすために踊り狂っている。


「やめて!あんたなのこれ?やめてよ!」

「あんた?」


 パチンッ。

 虫が増えた。


「ごめんなさい!殿下?殿下、殿下殿下!やめて!」

「やめて?」


 パチンッ。

 更に増え、全身ビッシリと虫が這い回る。

 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。


「嫌アアアアアア!申し訳ありません!殿下!申し訳ありませんでした!」


 パチンと指が鳴ると虫が消えた。

 床に崩れ落ちる、白いローブに虫の足がプランと引っ掛かっていた。

 今のは現実だった、耳に残る虫の這い回るあの音。

 吐き気が込み上げる。


「幻想と思うか?」

「お、思いません!思いません!許して下さい」

「まあ、俺に逆らってもいいぞ、あれに耐えられるならな」


 泣いて震えながら土下座する。


「ふむ、もういいか。よしいくぞ、ガナ」


 護衛兵士が両側から腕を持ち上げ、引きずられるように部屋を後にした。


 連れてこられたのは、魔物に襲われた村だった。


 手がちぎれかけている男、子供を庇い背中を喰われた女、虫の息で殺してくれと懇願する老婆、魔物の毒で顔が溶けてしまった子供。

 傷ついた村人だらけ、村には呻き声や魔物への恨みに満ちている、みな虚ろな表情をして絶望していた。

 なにこれ、なんなの、魔物ってこんな残酷なの?

 初めて見る光景に体が震える。


「村人に回復魔法を掛けてゆけ」

「…か、畏まりました」


 殿下と精鋭の兵士達が、まだ近くにいる魔物を討伐しに行った。

 残りの兵士が村人の救護にあたる。

 飛び交う指示と血の匂い。


 こんな大勢を回復するの?私が?一人で?

 こんな大勢一人で回復したら、魔力が尽きて死んでしまう。

 ジワジワと絶望が心に広がってゆく。

 私の魔力が尽きるか、回復魔法をかけて生き残れるか、どっち道やるしかないんだ。


 至近距離で見る肉の組織、骨、黒く固まった血、目玉はどこにいったの?頭を押さえて!村人のうめき声、鉄錆と死の匂い。


 やっと最後の一人に回復魔法をかけると私はその場に崩れ落ちた。




 目が覚めると野営テントの中だった。

 既に夜、体がギシギシする魔力枯渇なんて初めてだ。

 空腹で目が回る、木箱に食事が置かれていた。

 パンとクズ肉が入った野菜のスープ。

 こんな食事でも、用意してもらって嬉しかった。


 体から血や死臭をまとわせながら食べながら泣いた。


 ここは地獄だよ!ママ助けてよ!何なのここ!誰か助けて。






 朝になると年配の兵士が食事を持ってきた。


「これ食べたら、殿下のとこに行きな」


 昨日も一昨日も今日も村にいる。

 数日を掛けて回復魔法をして何とか村人にも笑顔が戻ってきた。それでも亡くなる人もいて村人から責められた。

 体にずっしりと疲労が乗っている。

 疲れがとれず、目の下の隈は酷い。

 殿下達も粗方魔物を討伐したらしく、今日は村で作業をしている。

 私も今日は回復しなくて良いと言われ、壊れた家の片付けや掃除をしていた。


「聖女様これを」

「え?」


 声をかけられたのは見覚えのある女だ、子供を背負った女から渡されたのは小さな飴。

 たしか、女は比較的軽症だったが、子供は顔が溶けていた。

 今は回復魔法で元に戻り可愛い顔で笑っている。


「娘を回復して頂いてありがとうございます、お礼にもなりませんが甘い物を食べると疲れに良いと聞きましたので」

「あ、ありがとう」


 どうぞと言われると、その場で食べるしかなかった。

 飴は飴だ、砂糖に水飴とオレンジの味がする。

 口の中であっという間に溶けてしまった。

 でも、村には砂糖も水飴もオレンジも貴重な物だ。


 小さな飴ひとつぶん。

 

 初めて他人から盗らずに物をもらった。

 なぜ、こんなに涙が出るのだろう。

 胸が痛くて堪らない。




 □□□□


 ガナと呼ばれるのにも馴れて、丸坊主だった髪もショートカットまで伸びた。外で作業する事が多いから真っ白だった肌も日に焼けている。


「ムスタファ、今日は何処にいくの?」

「西の村だ、砂嵐が起きた」

「わかった、すぐ準備する」

「早くしろよ」

「うん」


 私の両手は切られてない、これから先も切られる予定はない。

 

 あの飴を貰ったからといって、自分の性格がそんなすぐに良くなるわけもないけど、昔の自分の行いを恥ずかしい事だと認識出来るようになった。


 殿下は礼節がわかればそれで良いと言い、しまいには碎けた物言いをしろとかムスタファと呼べとか言われた。


 ただ、虫はトラウマになってしまい、あれを見るとパニックを起こす。そんな時は殿下が落ち着くまで抱き締めてくれる。





 まわりから聖女ガナと呼ばれ、金の髪が腰まで伸びた頃、ムスタファの部屋に呼ばれた。

 改まってどうしたんだ思ってると、ムスタファが毛足の長い絨毯に寝そべりながら言い出した。


「俺は昔、かなりの阿呆だった。皆に迷惑を掛けてふんぞり返って開き直り他人が悪いと喚いていた阿呆だ」


「ここは過酷だ、自然が俺を怒り叩きのめし、民が俺を慈しみ癒してくれて、やっと阿呆になったくらいだ、お前もそうだろう」


「そのくらいの阿呆同士が丁度良いのだ」


 丁度良いからなんなんだ。

 こっちはとっくの昔に惚れてましたけど?

 新しくやり直す為に名前をくれた事も、皆が認めてくれるまで待っていてくれた事も全部知ってるし。

 

「ムスタファって趣味が悪いよね。こんな性格の悪い女が良いなんて」

「仕方ないだろう?気がついたら惚れてたんだから」


 色気のない愛の告白が、私達らしくて笑えた。






 サラ、あんたが家族を捨てて出ていった事で、こんなふうに私も人生も何もかも変わったけど。


 悪いけど、私幸せになるから!


 一生懸命生きて生きて生き抜いて、色んな人助けまくって皆から凄い聖女様って慕われる人になってやるわ。


 それが私なりのあんたへの償いだと思うから。

 もう会うことも無いけど元気でいてよね。





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