安納小説
さつまいも。それは、一瞬で口と胃袋と脳を幸せにしてくれる食べ物。黄金色の身体に、赤紫の洋服を纏い、老若男女を誘惑する。彼女が銀の鎧に隠れていても、私たちは覗いて、覗くだけでは満足できず、鎧を引き剥がし、外に連れ出す。彼女は抵抗もせず、声も上げず、まるで自分がそうなる運命だということを分かっているかのように、すんなりと私たちの口に収まる。口腔に彼女がくるまれてしまうと,観念したかのように見えた彼女は一変、その熟練した愛撫で粘膜を楽しませる。歯がその身体に当たると、一瞬肌が弛むが、すぐにほろりと崩れてしまう。そのうちに、自制心を失った彼女は、頬の裏側をざらついた肌で執拗に刺激し、次なる快楽への期待をそそる。ついに舌が彼女を捕らえると、ねっとりした感触がじわじわと伝わってきて、彼女をもっと味わいたい気になる。耐えきれず噛む速度を早めると、呼応するかのように、歯にまして強く吸い付く彼女が愛しく感じられる。噛むほどに、甘美な味のかけらたちが、なまめかしい清流となって、鼻腔に、脳に、押し寄せる。とうとう散り散りなり果てた彼女は、唾液と混ざり合い、蜜液と化し、喉を流れていく。別れを惜しむようにして、ゆっくり、ゆっくり、食道へと。胃にどろりと流れ着いても、彼女の存在感は消えることはない。自らを主張するように、わざと音を立てて呼吸する。ああ、彼女の甘い誘いに勝てる日は、いつまでたっても来ないのだろう。