今はまだその手を取れない
私、新島 光は昨年から新島 光と名乗る人と暮らしている。
「ヒカリー、今日の夕飯はー?」
「ハンバーグ。そろそろ出来るからコウも手伝って。」
同姓同名の彼女は差別化を測るためにコウと呼んでいる。
コウは私とほとんど同じ身なりをしている。
あえて違う点をあげるとしたら年齢が10歳ぐらい上ということだろうか。
お皿によそった夕飯をコウに渡し準備が整った席につく。
コウはワイングラスにワインを注いでいる。
「コウ、またお酒?」
ご飯前までもずっと酒を飲んでいたコウを見てため息をつく。
「まあまあ、今日はいいじゃないの。今日でヒカリとワタシが出会って1年でしょ?」
「そうだっけ?」
「ひどーい。忘れちゃったの?あの頃はヒカリも暗くてろくに話をしてくれなかったから会話できるだけでワタシは感慨深いよ。」
そう言いワイングラスを傾け一気に飲み干し空になったグラスにワインを再び注ぐ。
「めんどくさい彼女か。1年前のことなんて覚えてないなー」
いただきます、と言い食べ始めるコウの後に続き食べ始める。
「んー!美味しい~中にチーズも入ってるよ~」
コウの反応を見ながらハンバーグを食べ改心の出来に思わず笑みがこぼれる。
「そういえば、コウはいつまでここに居座るの?」
「え?1年も一緒に住んで今さら?このままずっと一緒に暮らして行くつもりだったんだけど…」
「そうか~」
「興味なさそ~」
正直、ずっといてくれるなら嬉しい。
でもきっとコウもいつか…
「まあワタシが来たときにも言ったけどワタシは私のことが好きなんだよ。だからヒカリと一緒に住むっていうのはそれだけで幸せなんだよ。」
この人はなんて温かい表情をするのだろう。それほど本気なんだろう。
「私は今でも私が嫌いだよ。あの日、私を終えようとした時にコウが来て成り行きで生きてるだけ。きっと私はコウとは違う人生を歩んで来た。今までの人生で自分を好きになれることなど1度もなかった。あなたから好意を向けて貰えるような私じゃないんだよ。」
「ワタシは私が…どんな人生を歩んできた私でも好きだよ。だからまずはあなたが違う人生をヒカリにとっては別人にあたるかも知れないワタシを好きになって貰いたい。そうしたら少しは自分のことを好きになれるんじゃないかな?ワタシは私でもあるんだし!」
懐かしいこの言葉。あの時も今と同じように手を差し出してくれた。
1年前はこの手を取ることは出来なかったけど…今なら…
パチン、手を弾く音にコウはキョトンとしている。
「そういえば食器の洗剤が切れてたよ。あとで買いに行くよ!」
「はーい」
コウは手を擦りながら唇を前に突きだしている。
やはり手を取るのはまだ少し怖い。
これは絶望の淵にいた私が未来からやって来たというワタシ、コウとの私がワタシを好きになっていくお話です。
前々から書きたいと思ってた内容を書きました。