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┗【アニエスの報告書 その2】

【〈殴り猿〉の調査について・中間報告】

 危惧していたことが起きた。奴は〈喚び出しの杖〉を使い、魔物をこの地に召喚してしまっていたのである。

 私がそれを知ったのは、商店の調査をしていた時だった。昼を終え、“らいらいけん”という店を調べ終え、扉をくぐると悲鳴と共に〈バイコーン〉が突っ込んでくるではないか! その先には赤子を連れた若い母がいた。私は咄嗟に剣を抜き、奴を仕留めた。

 魔物を斬る――それが身に染みついているのだろう。思わず苦笑してしまう。


 魔物はユウゴが通う学び舎からであると判明する。


 魔物は学び舎から街中へ。今は適応しつつあるものの、住民たちは混乱を極めた。けが人こそ出れど、死者が出なかったのは幸いか。ユウゴの学び舎にも赴いたが、私は街の調査をしつつ、住民が魔物に手を出さないようにせねばならない。無知は怪我の元である。しかしそのお陰で、クソザルの調査がまるで進んでいない。

 ……まさか、それが目的か?


※追記

 周知されてゆくにつれ、住民たちは私に任せるようになってきた。どうやらこの国の者は、『誰かがやってくれる』と言う構えの者が多いらしい。そして報酬も与えてくれるようになった。(“すうぱあ”の連中は何もくれないケチばかりであったが、先日、一人の使用人がアメをくれた。考えを少し改めねばならない)


※追記2

 “じゅうとうほういはん”と、剣などを持って歩いてはならぬ法があるらしい。

 しかし何のお咎めもないため、状況を踏まえ、黙認されているのだろう。


【保存食について】

 食材や料理が多彩であるが、その保存食もまた多い。発酵や乾物、塩漬けなどの保存方法は我々の世界のものと類似している。

 しかしこの他には、“かんづめ”や“れとると”なるものがある。

 “かんづめ”は〈キャンド〉なる保存容器に入れたものに近い。……が、こちらのものは何と年単位で保存が可能なのだと言うのだ。にわかに信じがたいが、二年前の“かんづめ”を(中は肌色をした魚の水煮?)食したが、味も風味もまったく腐ったものではなかった。

 “れとると”は、鈍色の包みに“かれー”(辛みのあるどろっとしたスープ)などの料理を詰めたものなのだが、これも長期保存が可能で、湯に入れると出来たてが食えるもの。

 これらは遠征隊や駐屯地などの備蓄に最適だろう。


※また、乾燥果物と小麦ふすまを固めた携行食糧なども充実している。味も腹持ちもよく最高だ。だが口の水気を奪われるため、この季節は少々厳しいかもしれぬ……。


【食器について】

 “はし”と言う、細長い二本の棒を使って食う。中指を間に挟み、下の棒は固定、上の棒は親指と人差し指で摘むように持ってそれだけを動かす。この国の者は指先が器用なのだが、普段からこれで鍛えているのか?

 料理によってナイフとフォーク、スプーンも使う。私は初めフォークを使っていたが、その土地の食い方に従った方が美味くなると思い、“はし”の使い方を覚えた。凄いだろ。

 ちなみに味は変わらなかった。


【ニホンの気候・涼の取り方について】

 我々の世界と同様、季節の移り変わりがあるようだ。

 今は夏のようだ。暑い……我々の世界と違い、頭が朦朧としそうな暑さだ……。

 原因は湿度だろう。水が豊富で降水量も多い、この国は島国であり周りは海に囲われている。その上、この街は海がすぐ近くにある。……ああくそ、書いていたら暑くなってきた。

 革のスロップなんか穿いていられない。小便を漏らしたのかと思えるくらい蒸れるからだ。代わりに綿のパンツを常用しているが、これも割と蒸れる。スカートはあまり穿かないのだが、それを穿いてもまだ蒸れる。まだマシって程度だ。

 彼らはこの暑さをじっと耐えているわけではない。“せんぷうき”なる四枚の羽が自ら動き、風を送る画期的なものがある。限界近くまで蒸れさせたスカートの中に、この風を送り込むと最高の気分になれる。

 それ以上に最高の気分になれるのが、“くうらあ”だ。

 これは凄い。何と〈ブリーズ〉や〈アイスドラゴン〉の氷のブレスのような冷風が流れるのだ! 真っ裸になって汗を冷やすと、堕落しそうなほどの爽快感がある。(流石に一人の時にしかできないが)

 また食い物もそうだ。氷を薄く削った“かきごおり”と言う菓子がある。上に赤・青・黄・緑・透明の色とりどりな甘い蜜をかけて食う。“うじまっちゃきんとき”は最初はイマイチな感じであったが、他の蜜をすべて食した後、口が欲したのはこれである。豆も甘く煮た“あんこ”と、ほのかな苦みが調和している。

 ニホン人は季節に上手く付き合っている。


※“かきごおり”は一気に食ってはならない。


【学び舎について】

 神よ、感謝する。

 学び舎の調査に赴いた時、私は長く追いかけていた女を発見した。

 それは何と、サンドラ・フォンテーナ――私の持参金を欺し取り、逃げた女だ。私の他にも被害者も多くいるので、記憶に新しいだろう。ぬけぬけと飯処に現れおった。

 私はサンドラを捕らえ、締め上げたところ、フォンテーナ家の当主・オーレリアンは欺し取った金を使い、この街の統治者になったと吐く。その権力を振りかざし、学び舎を建造したとのことである。

※備考

 ザンや〈チップ〉に使用されている金であるが、ここでは貴重な鉱物であるらしい。


 サンドラを捕らえると同時に魔物が溢れた謎も判明する。

 本来、ニホンでは“エン”という通貨が使用されているのだが、どうしてこの街では〈チップ〉が使用されている。

 それはどうしてか。フォンテーナ家はどこからか奪ってきた〈チップ〉を、こちらの通貨として使うよう制定したのだ。(ご丁寧に〈ゴールデン・ゴーレム〉にそれを守らせている)

 クソザルはそれを知ってか知らずか、私から奪った〈喚び出しの杖〉を学び舎の屋上で使い、〈チップ〉に封じていた魔物を解き放ってしまったのだ。


【サンドラについて】

 殺したいほど憎い女であるが、同じ世界の住人だ。

 私は彼女に深い慈悲を与えることにした。赦すと同時に協力関係を結び、ユウゴとマサカと彼女の配下につけ、学び舎に蔓延る魔物の討伐を任せることにした。

 これによって街の調査も捗ると期待する。


 しかし……奴はどこにいる。

 せめて奴だけでも戻さねば、本当にヤバい……。

 奴のことなので、劇場にいると思うのだが……。


※久々に会ったサンドラは、印象ががらりと変わっていた。元から気が強く粗野ではあったが、それが前面に押し出され、清純さが見受けられなくなっている。

 そして、相変わらず私への当たりがキツい。武闘会の時、素手の彼女に対して槍を使ったのがそれほど気にくわなかったのか?


【ファントムについて】

 こき使うとは何だ!

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