旅立ちの日
朝霧が薄らいできた頃に彼は、早めの朝食をとっていた。黒いオーク麦を荒く挽いて水で練って焼いたものと、ラダの葉にマル芋が入った塩のスープだ。いつもはボソボソで美味しくないオークパンも、今朝は違って感じた。昨日15歳になり、今日、適正試験を受けることができるからなのか、心なしか美味しく思えた。実家で過ごす最後の朝は、少し新鮮な気分になれた。半年前、両親には冒険者になると伝えている。最後の朝食を終えて、洗い場に食器を片付けると、こちらを見る心配気な両親の顔がうかがえる。
「父さん、母さんそんなに心配なの?僕だって一応はムジカの末裔だよ?」
一族の英雄ムジカは、彼の祖先であり、彼の誇りでもある。不満そうに彼の眉間に皺が寄る。
「なんだ、その、な?外は危ないからやはり、心配でな。ムジク、お前が冒険者になりたい気持ちは納得した。だが、それでも私たちは心配なんだ。お前が夢破れても、生きて戻ってくるならそれで良いんだ。だから、どうか生き抜いて欲しい。」
不満気な息子の顔を、苦い顔で見返し、父は胸の内を伝えた。苦笑しながら、言うつもりは無かったんだがなと呟く。
「父さん、僕はムジカ様を誇りに思っているんだ。だから、戻らないよ。夢の大地を見つけるまでね。」
彼もまた、父の気持ちを知り、苦笑しながら返すと、父の隣でこちらを見ていた母から、
「お父さんの気持ちと、お母さんも同じです。でもね、男の子なのだから早く安寧の地を見つけて、私たちを連れて行って下さいね。」
静かに微笑み、父と息子のやり取りを眺めていた母は、15歳になった息子の成長を垣間見て寂しさを感じていた。