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?:??【椅子が2脚あるだけの部屋】

気絶はしていない、(まぶた)は開けていたと記憶している。

何故急にこんな前置きをするのかと言えば、気づいたら見知らぬ部屋で、デザインは豪奢ではあるがとても心地よいとは言えそうにない角張った木製の椅子に座っていて、これまた正面にある同じ椅子にピントの合って居ない瞳で見詰めている。

ふと、そう自覚したのが今だからだ。


『ふぁっ?』


変な言葉が口から漏れたが気を取り直して考えるとしよう…。

いやいやいやいや、え?

全然無理でしたごめんなさい。

なんなのこの状況。

僕は急にパニックに陥り周囲を見渡すが、ある筈のモノが無い。

そして不思議過ぎて逆に落ち着いたのだ。


『ドアが無いって欠陥住宅のレベル超えてませんか?』


もはや、誰に言うでも無い言葉を呟く僕は驚きを通り越して、自分を客観視出来始めていた。

すると、突然向かいの椅子側の壁の中心に穴が空いたと思ったら、それが広がり老人が現れた。

白髪を後ろで束ね、白い、純白と言える小さなシミもロゴも縫い合わされた形跡さえもない不自然なローブを着ている優しそうな表情のおじいさん。

怪しい。どう見ても怪しいですね。私には分かりました。

僕は、どうせお高いんでしょう?と宣う(のたま)テレビショッピングばりの表情をしているのを見越したのか老人はニコリと微笑むと対面の椅子に着いた。


『君は不思議な子じゃ、普通ならこの状況に何かリアクションを取るものじゃが。フフフ…お高いんでしょう?か…プッ…うプププ…ぶひゃひゃひゃひゃ!』


このじじい心を読みやがる!?


『あぁーププッ…すまないすまない。フフフ、暇な年寄りには君の世界のテレビというものはうってつけでのう。処で、自己紹介がまだであった。ワシは創造神じゃ、名前というモノはその肩書きだけじゃな。』


『ほう…。』


僕は察しがいい方だ。

店でも数は少ないがライトノベルも扱っている。

コレはアレだ。

異世界への転生だのナンダののやり取りのまんまじゃないだろうか。


『ん?…僕もしかして死んでない?この状況…。』


そう、大体こんな神だとか女神だとかに遭遇してる場面の人間は死んでいる。

でも覚えてる範囲で考えると僕に何らかの死ぬ要素があったとは考え難い。


『単にワシが呼び出しただけじゃよ。』

『構ってちゃんかよこのじじい。』


おっと、こんな不思議な状況に僕の理性は付いていけず本音が自然と口から零れてしまった…が、全然後悔はしていませんよ。


『君は既にワシの存在を信じ心も読める事も分かっておるのに凄い態度じゃなっぷはは!』


器がデカ過ぎてオツムが小さく感じるじじいを憐れに感じ始めた僕だったが、次にじじいが吐いた言葉には動揺が隠せなかった。


『さて、本題何じゃが、君の生い立ちも将来も知っておる。この度ワタル君の前にワシが現れたのは、君がこの先、大量虐殺という輪廻転生システムに大きな負担をかける選択肢を選ぶ事によって生じる天界の未曾有の危機を止める為に参ったのじゃ。』


話がぶっ飛び過ぎてて正直度肝を抜かれた。

僕は将来なんに成るんだろう。

小学生の様な疑問だが選択肢が闇過ぎて直視出来ねぇよ。

いや、まてよ。

戦争はどうなるんだ?あんな人命を軽んずる大量の人が一瞬で消えていく行為で輪廻転生システムとやらは負担が掛からないのか?


『君が起こした大量虐殺で君は世界の人口半分を殺して世界の半分を支配下としているのう。』

『僕は本気になると竜に変化する(すべ)など持っていませんが?!』


何処の竜王と勘違いしているのか。

痴呆の疑いも出てきたじじいに僕は内心帰りたいと思い始めた。


『じゃからの、まぁ言ってしまうが君にはこれからも禄な人生は待ち受けておらぬのじゃ。本来なら君は死ぬと大罪人として地獄に幽閉され輪廻転生されず永劫の拷問が待っておるじゃろう。じゃが、ワシは今の君ならば輪廻転生すれば間に合うと思うてのう。』


淡々と説明するじじいを横目に、僕は小さな苛立ちを感じていた。

死ぬと地獄?地獄だと…?

そういえばこの神とやらは、さっき僕の生い立ちを知っていると言っていた。

まさに地獄の日々を。


『過去や未来が分かるなら何故今まで見て見ぬ振りをしていた。』


自分が発した声に内心驚いた。

とても冷たく殺気さえ感じさせるであろう声音に

今の自分が自分じゃない様に感じた。

さっきの呑気な考えの自分は何だったんだろうか…でも、これも確かに僕の心の一部なのだろう。湧き上がる怒りが収まらない。


『君の世界で言うお役所仕事でのう、残念ながら創造神という肩書きを以てしても最速がたった今だったのじゃよ。』

『…。』

『君は普通の家庭に産まれ幸せと言える人生を選択出来る。どうじゃ?現在の君は居なかった事になり君の記憶も消えておる。新たな人生を踏み出す気は無いかね?。』

『無いですね。』


僕は即答した。

未来に復讐の機会があるからではない。

支配者として君臨する為でも無い。

寧ろ自分の未来を聞かされた身としては、そんな未来は回避しようと考える位だ。

どんなに過去がゴミの様なモノだったとしても、僕はそれを忘れたくない。

自分から手放したくない。

僕は現在友人が居ないかも知れない、これからの高校生活でイジメに遭うかも知れない、社会に出ても生きがいなんてみつからないかも知れない。

でも、今の僕は今までが在っての僕だ。

何も知らない僕何て僕じゃない。

辛い事も苦しい切ない汚い酷い惨い全ての体験が僕を形作っている。


『そんなに僕を否定したいなら殺せよ。』

『っ!?』


神とやらは僕の瞳に何を見出したのかは分からないが冷や汗を掻き若干驚いている様だった。


『なるほどのう…君の二面性には肝を冷やしたわい。しかしのう、どうしたものか…。君の魂は本来高潔な清い魂なのじゃそれを地獄なんぞに…。』


僕は冷静に受け止めてくれた神のじいさんに対し少し申し訳なく感じた。

この人は見て見ぬ振りをしていた理由じゃなく本当に自分の事を真摯に考えてくれているのかもと、そう思えた。


『あー…あの、異世界転移はダメですか?』


まさか自己申告になるとは思ってもみなかった。

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