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7:45【校門前】

『チッ』

僕は舌打ちを鳴らす。

何奴も此奴も朝から呑気な顔でヘラヘラと…。

胸の内で悪態をつくものの、言葉には出さない。

声を発した処で気付く者も居ないだろうが、僕はそんな攻撃的な人間ではない…筈だ。

しかし、とも思う。

それは、今日がまさに、これからの3年間に期待で胸が膨らむであろう、青春真っ只中に放り込まれる高校生活への第1歩である入学式だからだ。

視界に映る男女達の顔には、ワクワクだとかドキドキなんかの擬音がピッタリな表情が伺える。

そこに1つだけ異質な、違和感しかない僕のゲンナリとした表情…いや、周囲の空気すらどんよりとさせている雰囲気に皆一様として目も合わせない。

同じ中学校の同級生でさえだ。

まぁ…友人と断言出来る人物が居たかと言われれば…それは謎だ。

雪男は居るのか…UFOは実在するのか…。

その位、僕には自分には友人が居るの居ないのかは謎だ。

友人なんて何を以てして友人なのか。

自分の印象なんて分からないが僕はクラスで浮いた存在という訳では無かった。

喋り掛けられると応えるし、素行の悪い不良というレッテルも貼られた訳でもない。

だけど、1つだけ、強いて言うならばと云うか…僕にはそんなに問題視する程でも無いと思うけど。

放課後や学校が休みの日、僕は誰かと遊びに出掛けた事が無い。

詰まりは学校の中だけの関係性という事だ。

何でだ、と聞かれれば、まぁバイトをしていた。

親戚の家が小さな古本屋を営んでいて、主には漫画だけど、不況で店を畳もうかとしていたのを僕が大まかな管理をする代わりに奥の事務所に住んでも構わないと許可を貰ったのだ。

僕の境遇に疑問を感じたかも知れないがそれは追々語るとして。

その店を維持する為に、僕に放課後や休日出掛けるといった選択肢は無かったのだ。

しかもそれは現在進行形であり、僕を悩ませ負のオーラを漂わせるに至っている。

と、いう理由なのである。


あれ?僕に友人なんて居るのか?


『ワタルくんっ!』


僕が自問自答に首を傾げていると、可愛げな、儚げな、そんな印象を与える声が耳に入ってきた。

あぁやっぱりコイツもこの学校か。

僕の住処である処の、古本屋の裏手に位置するブロック塀を挟んだ先の住宅には2人の少女とその両親が住んで居る。

こんな事を言うと、人間性を疑われたり、性根が腐っているなんて思われるかも知れないが。

絵に描いた様な幸せな家庭であり、とても不快である。

毎晩事務所の窓ガラス越しに聴こえてくるキャッキャッウフフの楽しげな会話の応酬に、僕は辟易としていた。

刀祢玲子(とね れいこ)

その家庭の長女であり、そしてご近所さんであり、また、僕の店の常連でもある彼女を僕は蔑ろには出来ない。

いや、心からの言葉では無い。

あくまで体裁上であり経営上の為に…だ。


『もぉ!折角お店まで迎えに行ったのに!何で先に行くの!?』


あれ?何でコイツは僕がこの学校に進学したんだと知っているんだ。

僕の首はそれまでと反対方向に傾く。


『えっ?』


僕のその言葉に彼女は思う処があったらしい。

というかなんか怒ってるな。

頬を思いっきり膨らませている。

大人しくしてればそのポニーテールに結んでる薄茶色の綺麗な髪に、まだあどけなさが残るが長い睫毛に澄んだ瞳ほんのり朱が彩る頬に小さな瑞々しい唇の整った顔、僕と変わらない身長に少し前迄は中学生だったとは思えないメリハリに富んだプロポーションで高校生活は薔薇色の筈なんだけど。

何が不満なんだコイツは。


『もういいよ!ワタルはそうだよね…はぁ。』

『刀祢さん、とりあえず行こうか。もう皆校内に入ってるよ。』

『ええっ?ヤバイよっ!行こっ!?』


慌てふためく彼女に内心クスリと笑いながらも2人で走り始めた処だった。


校門に足を踏み入れた瞬間、視界が急に暗転した。

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