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冒險3 精霊使いのピンチ(リウ)

 どうしてこうなってしまったのでしょうか!?



 ヴゥンヴゥンヴゥンヴヴヴヴゥゥーン



 見ての通り魔物モンスターに囲まれてしまいました……

 しかも数百匹以上はいますよね!?


 おびただしい程の羽音を震わせる全長1メートルを超えた蜂の大群。

 鮮やかな赤色と黒色の縞模様があきらかに危ない感満載なのですが……

 それよりも危険なのはお尻から伸びた鋭い針ですね。

 毒々しいまでに黒光りさせながら、今にも私達を打ち抜こうとしているようにみえます。

 間違いなくこの魔物モンスター達は【キラーチェスビー】です。

 確か文献には……一度見つかれば集団でどこまでも追ってくる攻撃的好戦的粘着的性質。

 獲物に神経毒を打ち込んで体をじわじわと麻痺させ、動けなくなった所を巣に持ち帰り餌とする……って書いてたような気がします。

 つまり……


 逃げてもおそらくは無駄!

 長期戦は圧倒的不利!

 絶望的状況100%間違いなし!?


 【エルフ】の私がついていながらどうしてこんな事になったのでしょうか?

 ちまたではエルフは耳がとがっていて、色白で、金髪で、青い瞳で、綺麗だの器用だの凄いだのなんでもできる万能キャラだなんて思われがちですが……

 所詮私のような超一般的軟弱エルフには世間のイメージに応えうる力があるわけないんです!

 確かに見た目だけはイメージ通りかもしれませんが……

 でも中身は、こんなピンチな状況を生み出してしまうような役立たずのクソヤローにしかすぎないんです!

 私みたいな愚か者がエルフに生まれてきた事こそが間違いでした!

 次に生まれ変わる時はぜひ人間でお願いします神様っ!

 ……なんて自虐的時間はもうありませんね。


 迫りくる魔物モンスターを睨み付け、薄汚れた灰色のローブから顔と手を出して覚悟を決める。

 私自身でやるしかないのだから!



「優しき風の精霊達よ、我が元に集え!」



 ヒュゥヒュゥゥウッ……



 私の言葉に呼応して風が動く。

 それはいくつかの塊になり、手のひらにのせれるような15センチ程の小さな乙女へと姿を変貌する。

 ショートヘアーに尖った耳、優しそうな瞳に見えそうで見えない半透明な体、背中から生えたトンボのような羽、彼女達の名は風の中級精霊【シルフ】。


「敵を阻みし壁となって我を守りたまえ!ヴェントスキルクルスパリエース!」



 ヴゥオォゴォゴォオオッ……



 シルフ達が風をまといながら、私の周りを回りながらの風の壁をつくりあげる。

 【ヴェントスキルクルスパリエース】があればよっぽどの事がない限りは魔物モンスターを近づけないはず……

 私みたいな超一般的軟弱愚か者エルフでも身を守る事位できるんですからね!


 これは【精霊儀式スピーリトゥス】と呼ばれるエルフ特有の能力なんです。

 まず目に見えない精霊達の声を聞き、語りかけ、心を通い合わせる事が第一条件。

 次に、応えてくれた精霊達に魔力をそそぎこみ、目に見える程までに具現化させたうつわをつくりあげるわけです。

 後は、器をもった精霊達が自然現象を操り、己の意思をもって力をかしてくれるのですが……

 ぶっちゃけて簡単に使える能力といわけでもありません。


 気まぐれである精霊と心を通い合わせるのはかなり難しいといえます。

 やっとの思いで心を通い合わせたとしても、同時に精霊を複数体具現化させるには相応の魔力が必要になる……

 つまり現れた精霊の数を見れば、そのエルフがどれだけの力量を持っているかがバレちゃうわけですね。


 私が呼び出せたシルフの数は八体。

 もう少しゆっくり時間をかければもっと呼べる自信はあるのですが……

 ちなみに、並のエルフであれば今の状況で瞬時に呼び出せるのは一体か二体がやっとなレベルでして、五体以上呼び出せる事ができたならエルフの世界でも勇者として崇められておかしくないレベルだなんて言われています。

 ってことは、シルフを八体も呼び出せた私はかなり凄い部類……

 なんて考えたりするから私はダメダメエルフなんです!


 どれだけ凄い力があったとしてもいつかは魔力が切れ、魔力が切れれば器をなくしてシルフ達も消えてしまう……

 所詮はただの時間稼ぎにしかすぎません。

 本当ならすぐにでもこの場から離れるべきなのは分かってるのですが――


「――くっ……」

「大丈夫ですか?」

「リウこそ大丈夫か?」

「おかげさまで」

「良かった……」

「それよりヴァン様こそ大丈夫なんですか?」

「……あぁ」


 嘘です。

 左肩から流れる血を右手でおさえながら、息も荒い。

 髪が赤みがかっているからこそ、顔の蒼白ぶりがよくわかります。

 私と同じ灰色のローブを羽織ったこの男性は私が守らねばならない人間。

 誰よりも大事な方なのに、私が超一般的軟弱ダメダメ愚か者エルフなせいで怪我をさせてしまいました……


「……リウ! お前だけでも……逃げるんだ……」

「バカ言わないでください! すぐにでもなんとかしてみせますから!」

「……なんとかできるわけねぇだろ……」

「なんとかできるわけないってお分かりなら、私だけが逃げる方法もないんだってお分かりですよね?」

「……お前一人ならどうにでもなるくせに……俺のこんな傷のせいで……」

「動かないでください!」

「……くそっ……」


 シルフ達を防御ではなく攻撃に転じれば、撃退とまではいかなくとも逃げ延びる可能性は十分にありえます。

 でもそれは、あくまでも動ける事ができる前提の話しになるわけでして……


「……はぁ、はぁっはっはっはっはっ……」

「ヴァン様? しっかりしてください!」


 呼吸障害!?

 やはり肩から毒がまわりはじめてるに違いありません……

 キラーチェスビーの毒は同時に多数うちこまれない限りは、致死性の毒ではないのですぐに死ぬなんて事はないと思うのですが……

 打ち込まれたのは麻痺性の神経毒なので、毒がまわった部分から徐々に麻痺していき機能低下をおこしていくはず……

 おそらく肩から毒がまわってるせいで、通常よりも肺に毒が届くのが早いのかもしれません!?

 かつぎながら走って逃げれば、振動で毒がより早くまわるかもしれない可能性もありえます……

 かといって、このままここにいて時間を稼いだとしても毒のせいで呼吸停止する可能性もありえるわけで……

 どちらもリスクが高い……


 とすればやるべきことはただ一つ。

 この敵すべてを殲滅するのみ!

 そして、ゆっくりと水辺まで運んでから、水の精霊の力をかりて毒を浄化するしかありません。



「――この地に住まいしすべての風の精霊よ、怒れし心を持ってここに集いたまえ!」

 


 ビュォオオッォォォーッ



 強い風が吹き抜ける。

 その風は何十体もの塊へと乙女へと変貌していく。


「……はぁはぁ、いますぐ……くっ、やめろっ……」

「いいえやめません!」



 ビュゴォオビュォオォーッツ


 森の悲鳴が聞こえる……

 次々と現れるシルフ達の顔にやさしさはなく、怒りに狂い吹き荒れる暴風となって、魔物モンスターどころか草や木や森にまで被害を与えはじめているのを感じます。

 本当ならこんな事はしたくありません……

 自然を傷つける事もわかっていたし、これだけの魔力を使えば私自身が無事ではすまない事も理解しているつもりです……

 でも……

 それでも……

 どんな代償を支払う事になったとしてもこの方だけは救いたい――


「――怒れし精霊達よ、我が願いを聞き届けよ。我が前を阻みし者を蹴散らせ! ヴェントスラーミナアッグレシオー!」



 ズヴァッズヴァッズヴァヴァッズヴァァアァアッ



 【ヴェントスラーミナアッグレシオー】は契約した精霊がいない私が使える、この場所での最大の技になるはず……

 シルフ達から風の刃が何百何千と放たれている。

 キラーチェスビーは羽がもげ、足がもげ、体は裂かれ、次々と地面に落ちていく。

 そして、地面の草花は吹き飛ばされ、木は折れ、葉は無残に散っていく。

 本当に私は最低最悪な極悪非道なエルフです。


 魔力が底をつきて溶けるように消えていくシルフ達。

 残っているのは無残な魔物モンスターの死体と、荒れた森や土煙だけ……

 これは全部私の罪ですね。


「はぁはぁはぁ……」


 肩で息をしながらも、かろうじて残したわずかな魔力に集中する。

 魔力は枯渇寸前で倒れそうですが、せめて毒を浄化してから……



 ブゥーンッ



 今の音は……

 土煙で姿は見えません……

 けれども確かに聞こえる羽音。


「……そんな!?」



 ヴンッヴゥンッヴゥンッ



 キラーチェスビーがいる!?

 土煙を吹き飛ばしながら現した姿は、他の個体と比べてフォルムがあきらかに違います。

 しかも五匹も!?


 とっさにローブの中から短剣を取り出し身構える。

 立っているのもやっとな状態で、無謀すぎるのは百も承知です。

 それでも、水の精霊を呼び出すのに残された魔力を使うわけにはいきません!



 ヴヴヴヴヴゥゥーンッ



 キラーチェスビーが動いた!

 短剣を投げて迎撃するしか……


 っ!?

 ……動かない?

 手に力が入らない……

 これだから私はエルフを名乗る資格がないんです。

 こんな大事な時に動けないなんて……

 動いてっ!

 動いてください!!

 お願いだからっ!!!


「動けぇえぇーっ!」



 ズドオォオォオォォォオオン



 恐ろしいまでの爆風。

 体を突き抜ける衝撃。

 そして吹き飛ばされる体。


 ダメでした……

 これは死です……

 結局私なんかの力では何もできませんでした……

 あ《・》の《・》もそうでした……

 なんて無力で愚かで罪深きエルフなんでしょうか……

 救いたい人も救えないなんて……

 きっと今から地面に叩き付けられる……

 この死が、エルフとして歩んだ私の受け入れるべき現実なんですね……


 ヴァン様……


 守れなくてすいませんでした……


 さようなら……



 ボヨーンッ



「へ?」


 人生で一度も聞いた事がない音。

 そして一度も体験した事のない感覚。

 体のどこにも痛みはなくて、背中から伝わる妙に柔らかい違和感に包まれている。


「……何これ?」


 私は半透明な水色の物体に包まれています。

 すぐ傍では同じようにヴァン様も包まれていて……

 プヨプヨして柔らかい?

 かといって弾力もあるコレは一体なんなんでしょうか?


 ですが、それよりも驚くべき光景が目の前に……

 土煙が舞う中で少女が見えているんです。


「着地成功! ほらほら、上手くいったでしょ?」


 見たこともない服装をした少女が天使のような笑顔を向けていて……

 長い黒髪をなびかせ、宝石のような黒い瞳をのぞかせながら……


「大丈夫でしたか?」


 話しかけられているのは私にでしょうか?

 こんな美少女が?

 ……はっ!?

 まさか……

 本物の……


「もしかして……天使様でしょうか?」

「あはははははっ、何それ。私ただの人間だよ」


 ただの人間は空からはふってこないと思うのですが……

 なんてツッコんでみてもいいものなのでしょうか?


「私はティア=フレアハート。それでその子はスライムのラムネ」


 ブルルンッ


 私を包んでいる水色の物体が揺れるて反応している。

 これがスライム?


魔物モンスターはやっつけちゃったから安心してね」


 やっつけた……?

 今になって冷静に考えてみれば、ヴェントスラーミナアッグレシオーをうけても無傷だった五体のキラーチェスビーは、おそらく変異種か進化した特別な個体だったはずです……

 間違いなく尋常ではない強さをもっていたのに……


 そんな魔物モンスター達は見るかげもない程に潰されてバラバラに散らばっている。

 ティアと名乗った少女の足元に……

 いや、正確にいえば大きく膨れ上がったスライムの下にでしょうか……

 このスライムがやった……?

 そんなわけあるはずありません。

 スライムといえば最弱な魔物モンスターなんですから……

 でもそれなら、今目の前でおこっている事はどう説明すれば?

 これは……

 夢?


「大丈夫ですか? えっと……お名前は?」


 もしこれが夢であっても……

 私はエルフとして生まれて、こんなにも幸せだった事はありません。

 本物の天使に出会えたのだから……



「私の名前はトリフォリウムです。」

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