表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セーラとニコラス  作者: 岸野果絵
デート
6/8

心待つ

ニコラスが出張にでてから、三週間ほどたっていた。

もともとニコラスは依頼や魔術師協会の仕事ではもちろん、ふっと気まぐれに出かけて戻ってこないことがよくあった。

依頼で数ヶ月留守にしたこともあった。

だから、今回の出張が特別長いというわけではない。


いつもと変わりないはずなのに……。

掃除の手を休めたセーラは、大きなため息ついた。

顔を上げたセーラの目に、ニコラスの上着が映った。

セーラはその上着を手に取った。

くたびれてヨレヨレになっているが、手触りは思いの外よい。

おそらく、元々はかなり良い品物なのだろう。

服に限らず、ニコラスの普段使いの持ち物は、ヨレヨレボロボロのものだらけだったが、素材は悪くない。

元々が良いものだからこそ、ボロボロになるまで使うことができるのだ。

ヨレヨレボロボロになった上着には、手に入れたものを大切に大切に使い続けるニコラスの優しさが詰まっている。


ニコラスに逢いたい。


セーラはニコラスの上着をぎゅっと抱きしめた。



「セーラ」

背後から声をかけられ、セーラはビクッと飛び上がった。

おそるおそる振り向くと、ニコラスが立っていた。


「ただいま。こんなところで何してたの?」

首をかしげるニコラスに、セーラは慌てて手にした上着を後ろに隠す。


「それ、オイラの上着……」

セーラは真っ赤になりながら首をフルフルと振り、後退あとずさりする。

ニコラスはわざとしくきょとんとした顔をしながら、にじり寄る。

とうとう壁際に追い詰められたセーラは、恥ずかしさに瞳を潤ませながら下を向いた。


「オイラのこと思い出してくれてたの?」

耳元で囁かれ、セーラは身体から力が抜けていくのを感じた。


もうダメ。

そう思った瞬間、ニコラスにきつく抱き締められた。


「あぁ、セーラ。逢いたかったよ」

完全に脚の力が抜けたセーラは、ニコラスの胸に身体を預けた。


「オイラ、君に逢いたくて、逢いたくて。君のことばっかり考えていたんだ」

熱い吐息にセーラは酔ってしまいそうだった。


「君はどう?」

ニコラスは腕の力を緩めると、セーラの顔を覗きこんだ。


「オイラに逢いたかった?」

セーラは恥ずかしさに少しうつむきながら、コクりと頷いた。

ニコラスは再びぎゅっと抱き締めると、セーラの頭を優しく撫でた。

ふたりはしばらくの間、なにも言わずにそうしていた。


「セーラ。お帰りなさいのキッス」

ニコラスはセーラの顔をじっとみつめながら無邪気にニコッと笑った。

セーラは恥ずかしさで目を伏せた。


「ダメ?」

困ったように小首をかしげるニコラスの顔をまともにみることができない。


「オイラとキスするの、イヤ?」

悲しそうな声に、セーラは首をフルフルと横に振った。


「なら、お帰りなさいのキスしてよ」

ニコラスに耳元で囁かれ、セーラは頚まで真っ赤に染まった。


「早くぅ」

甘えるように急かされ、セーラはさらに恥ずかしくなって俯いてしまった。


「セーラ。オイラとキスしたくないの?」

ニコラスは少し拗ねたような声をだす。

セーラは首をフルフルした。


「じゃあ、お帰りなさいのキスして」

セーラが顔をあげると、ねだるように唇をとがらせたニコラスと目があった。

セーラはニコラスの胸に顔を埋めるようにして首をふった。


「やっぱりオイラとキスしたくないんだね」

ニコラス悲しそうな声にセーラはまた首をふった。


「ねぇセーラ。オイラとキスしたい?」

ニコラスの胸に顔を埋めたまま、セーラはコクりと頷く。


「ホントに?」

セーラは答えるように再び頷く。

「ホントに、ホント?」

セーラは下を向いたまま何度も頷く。


「セーラ……」

ニコラスの吐息まじりの囁きが、セーラの耳にかかる。


「ああ、そうか」

ニコラスは突然明るい声をだした。


「セーラ。オイラにキスしてほしいんだね」

セーラは恥ずかしくて身を固くする。


「あぁ。なんて可愛いんだ」

ニコラスはセーラをぎゅっと抱きしめると、耳元で囁いた。


「セーラ。オイラからキスするよ? いいね」

セーラが顔を上げると、ニコラスのとろけるような瞳があった。

ニコラスの顔が近づいてくる。

セーラはうっとりと目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ