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セーラとニコラス  作者: 岸野果絵
プロポーズ
1/8

プロポーズ 前編

 ジョンが生まれてから、ニコラスは暇さえあればジョンに会いに来るようになった。

ジョンが起きていれば、さかんに話しかけたり、抱き上げたりしてあやしたり、寝ていれば寝ていたで、しばらく観賞していく。


「ほんとに気持ちよさそうに寝ているねぇ」

ニコラスはベビーベットを覗き込みながら、楽しそうに言った。

セーラはそんな光景をニコニコしながら眺めていた。


ふと、ニコラスがセーラの方を向いた。

「セーラ。オイラのお嫁さんになってくれないかな?」

「え?」

突然のことに、セーラは驚いてききかえした。

「オイラ、君を大切にする。だから……。ダメ?」

ニコラスは首をかしげて尋ねる。

セーラはうつむいた。

「オイラの事、キライ?」

「キライじゃないわ。でも……」

セーラはうつむいたまま言った。


「やっぱり、変人のお嫁さんなんてイヤだよね……」

ニコラスは肩を落とした。

「そうじゃないの」

セーラは顔をあげ、首を左右にフルフルとふった。


セーラはニコラスの事がイヤではない。

確かにニコラスの奇行には驚かされてばかりだ。

でも、ニコラスの奇行は普通の人と価値観が違うから、奇行に見えるだけ。

そのことに気がついてから、ニコラスの奇行が気にならなくなった。


「あなたは自分に正直なだけ。とても優しい人だわ。でも……」

セーラは視線を落とした。


どう言えばいいのか分からなかった。

この、心の奥でくすぶっているしこりを、どう表現したらいいのか分からなかった。


「忘れられないんだね」

ニコラスはセーラの顔を覗きこんだ。

セーラはニコラスの視線に耐えられなくなって、目を逸らす。

「図星」

ニコラスの言葉にセーラはうつむいた。


またバカにされると思った。 

ニコラスは、いつものように声をたてて嗤うに違いない。

しかし、いつまでたっても笑い声は聞こえてこなかった。

セーラは不思議に思って顔を上げた。

目の前にニコラスの優しい瞳があった。


「忘れなくていい。忘れる必要なんかないよ」

首を傾げるセーラに、ニコラスは微笑みながら言った。

「いいんだよ。愛した男をあっさりと忘れてしまうような、そんな情の薄い女は、オイラの好みじゃない。君は素敵な女性だよ。君みたいな情の深い、優しい女性にはなかなかお目にかかれない」

考え込むセーラにむかって、ニコラスはさらに続けた。

「無理しなくていい。無理に忘れる必要はないよ。君は君のままでいいんだ。オイラ、君がそばにいてくれるだけで幸せなんだ。一緒にいてくれれば、それでいい」

セーラはうつむいた。


嬉しかった。

こんな風に全てを受け止めてくれる男性(ひと)がいるなんて、思いもよらなかった。

でも……。


「私、あなたが思ってるような、そんな素敵な女じゃない。過去に捕らわれてる、間違ってばかりのバカ女よ」

セーラは吐き捨てるように言った。

ニコラスは少し困ったように眉間にしわをよせ、肩をすくめる。

「そんなに自分を卑下するもんじゃない。それが君の唯一の欠点だよ。もっと自分に自信を持たなくちゃ」

ニコラスは元気づけるようにセーラの肩をポンと叩いた。

「オイラの審美眼は超一流なんだ。みんなこぞってオイラに鑑定を依頼しにくるんだよ。そのオイラが選んだ女性だ。君は最高の女性なんだよ」

セーラはうつむいたままだった。


「いいよ。君が自分の事を好きになれないのなら、オイラが君の分まで君の事を好きになる。だから、セーラ。オイラのそばにいてほしい。オイラのお嫁さんになっておくれ」

セーラの目から涙があふれる。

ニコラスは困ったように眉をハの字にし、キョロキョロと辺りを見まわした。

「セーラ。ごめん。泣かないで。オイラが悪かった。君を困らせてしまったね」

オロオロしながら、なだめるようにセーラに語りかける。


「違う……。違うの」

セーラはつぶやきながら首をふる。


「うん。今の話は無かったことにしよう。今まで通り家政婦さんとして……」

「イヤよ。無かったことになんかしないで」

セーラは顔をあげてニコラスの顔を見つめた。

二人はお互いに見つめ合う。


「セーラ……」

ニコラスはセーラを抱き寄せる。

セーラは穏やかな優しさに包み込まれた。

セーラは目を(つぶ)り、ニコラスに身体(からだ)を預けた。


知らなかった。

こんなに穏やかで暖かい場所があるなんて……。

こんなにも安心できる場所があるなんて……。


「セーラ。愛してるよ。オイラ、誓う。君を大切にする」

ニコラスはセーラの耳元で優しくささやく。

セーラは心が満たされていくのを感じた。

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