エピローグ
「ちーちゃんが退院したらするんでしょ?」
「読まれてますね。」
俺は笑って返した。歌は忘れるかもしれないけど、この思い出は心にずっと残ってるかもしれないからだ。
「麗華ちゃんには・・・そうだな・・・『ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝は物をこそ思へ』・・・
あの人の気持ちはいつまでも続くのかしら。この幸せは永く続くのかしら。乱れたこの黒髪のように、思い悩む私の心。・・・今は亮君と幸せかもしれないけど・・・それがずっと続くかもしれない、終わるかもしれない・・・といった麗華ちゃんの気持ちになったつもりかな・・・」
「・・・ありがとうございます!私はこの歌絶対に忘れませんから・・・」
俺たちはそういった思い出やこれからの事全てを語り合った。そして、全てを語り終わったら
「凛ちゃん、麗華ちゃん、一ついかな?」
「ん?何?」
「そろそろ、あの二人を止めないと・・・」
目線の先には、亮と先輩が、カルビ一枚で熱戦が繰り広げられていた。
「そうだね」
「うん!」
凛ちゃんと麗華ちゃんは自分の現彼氏の首を押さえつけ、関節技を決めていた。何処で覚えたかはわからなかったけどきれいに決まったらしく、二人はぐったりと倒れこんだ。
「さてと・・・そろそろお開きにするか!」
「うん。」
「そうだね。」
「楽しかったよ!」
夜の八時も過ぎ、辺りはすっかり暗くなっていた。俺も、今日は疲れたから早く床で休みたいそんな気分だった。
「神崎!」
先輩から呼び出された。
「お前・・・男ならビシッと決めろよ!」
主語が解らなかったが俺は理解した。千景のことだって・・・それだけ理解できれば十分だった。
そして・・・クリスマスの日・・・
「千景!退院おめでとう!」
「かずくん・・」
俺は千景に言ってた通り、朝に顔をだし退院の手伝いをした。学校は休みじゃなったが、先生は許可しれくれた。予想外だったがただそれだけが嬉しかった。そして、千景は予定通り、クリスマスの日に退院した。後で病院のリハビリ担当の先生から聞いたが、千景は予想以上に回復が早く、ものすごく頑張ったらしい!
「ありがとうね~神崎君!私、これから、仕事があるから、男手が必要だったんだけど・・・」
「それなら、心配ありませんよ!同じことを考えてた人が俺以外にもいるみたいですしね!」
「えっ?」
千景の母さんは驚いてた。そっか、まだ気づいてないのか・・・
「おい、亮、それから先輩、麗華、凛ちゃん・・・入って来いよ!」
「ありゃ?ばれてた?」
「お前ら探偵には向いてないことが理解した。」
「みんな、ありがとうね!私のために・・・」
「いいってことよ!それよりもお母さん、時間大丈夫ですか?」
「あっ!そうだね!それじゃ、悪いんだけど・・・後はお願いできるかしら?荷物は千景の分だけだから・・・」
「了解です!」
千景の母さんは部屋を後にした。片付けが終わったら千景が直接連絡するらしい。
「さてと・・・千景、お母さんが持ってきたみたいだが・・・俺と亮と先輩はちょっと部屋を出るから、終わったら言ってくれよ!」
「ちょっと、サボり?さっきの話聞いてた?男手が必要だって・・・」
麗華が真面目に質問してきた・・・あのな・・・少しは察しろよ!」
「麗華・・・お前は千景をその格好のまま、退院させるつもりか?」
「あ!」
千景は病人のため、病院パジャマだった。そう、着替えをしなければならない・・・
「それと、荷造りってことは千景の下着類もあるんだぞ!俺らはそれを手伝うのか?」
「あ・・・ごめん・・・」
「分かってもらえたらいい・・・終わったら呼びに来てくれ!」
麗華は申し訳なさそうな顔だった。ちょっときつく言いすぎたかな?部屋を出たら亮に謝ろう!
「亮・・・さっきはごめんな、麗華にきつく言って・・・」
「ったく・・・今日は特別だぞ!今度あの口を利いたらお前をブッ飛ばす!」
「ハハッ!肝に銘じておきます!」
それから、二十分後、凛ちゃんが呼びに来てくれた。千景も、私服に戻っていよいよって感じだ。
先輩は気を利かせてジュースを買ってきてくれた。そして、九時前には全ての荷造りが完了した。
「なんだ?千景?もう退院の準備ができたのか?」
「あ!先生!はい、今までありがとうございました!」
「元気があって結構だ!次は来年の五日来てくれよ!」
「はい!」
そんな、いい加減?な回診も終わり、そして・・・
「いままでありがとうございました。」
最後まで、千景らしく、ナースステーションにお礼を言ってその場を後にした。千景は何日ぶりだろうか?病院外の外に出たような気がする!
「そんじゃ・・・俺たちはこれで失礼するよ!」
「えっ?なんで?」
「俺たちはこれから学校だよ!」
先輩が言った事には説得力があるような気がした。先輩たちは三年生でセンター試験が控えているからだ。なので、止める理由はなかった。
「そうだ・・・神崎!お前は最後まで千景の所にいてやれよ!」
「・・・何で?」
「誰が荷物を片づけて誰が運ぶんだよ!」
「それは・・・いや、分かった。そうするよ!ありがとうございます!」
俺と千景はタクシーを拾い、千景の家に帰り、亮、麗華、先輩、凛ちゃんは学校に戻った。俺は、今日は通院と嘘をついて学校を休むことにしていたから問題はない思った。でも、罪悪感を感じた。
そして、一〇分後千景の家に帰宅した。何か月ぶりだろうか・・・俺がこいつの家に来るのは・・・
「かずくん・・・ごめんね。私の退院の付き合いをさせてしまって・・・」
「いや・・・別にいいが、お前、身体の方は大丈夫なのか?」
「平気だよ!まだ、ちょっと疲れがあるかな?リハビリをちょっと頑張りすぎたみたい!」
「そうか・・・なら、これもさっさと終わらせるぞ!千景の部屋は二階だったな!」
「うん!」
「それなら、まず、この荷物をとりあえず玄関に運ぶぞ!そして、お前は先に二階に上がってろ!」
「えっ?どうして?」
「あまり、階段の往復はさせたくないからな!俺が往復して、二階まで運ぶから。」
「えっ!悪いよ!」
「いいんだよ!それよりさっさと終わらせるぞ!」
俺の少々強引な交渉だったが、俺はそれを突っ張ることにした。
そして、三〇分後・・・
「ふぅ~。これで最後だな!」
「うん!」
予定よりもずっと早く、片付けが終わった。さすがに、衣服類は自分で片づけさせたが、それ以外は俺も手伝い全てを終わらせることが出来た。
「さてと・・・十一時か・・・ちょっと早いけど飯にするか?」
「うん、そうだね!」
「冷蔵庫に中身はあるか・・・っていっても分からないな!」
「うん・・・だってさっき退院したばかりだもん!」
「なら、お前の母さんに連絡取れないか?」
「うん・・・ちょっと待ってね。」
五分後、千景が戻ってきて、なんでも仕事が早く片付いたらしく、正午には戻るらしい。それまで、俺たちは少し待つことにした。
でも、この時間が正直気まずかった。何を話せばいいかわからない。話題がない。千景の方を見ると、同じような表情をしているのが理解できた。
「今日・・・クリスマスだね。」
千景が振ってきた。そうか・・・すっかり忘れてたな。
「そうだな・・・でも、俺にとってみれば、ただの平日だな!」
「どうして?」
「俺には彼女がいないからな!」
「何それ!」
終始和やかな雰囲気になった。
「お前はいないのか?」
「女の子にそんなこと聞く?」
「お前だから聞けるんだよ!」
「ハハッ!何それ!残念!私にもいないんだ・・・彼氏が・・・」
「そうか・・・んじゃお互い、似た者同士だな!」
会話が終わった。更に気まずくなった。
「ただいま~」
千景のお母さんが帰ってきた。
「下に降りるか・・・」
「そうだね。」
俺と千景は特に会話が弾むことなく、トボトボと下に降りた。
「神崎君、今日はありがとね。」
「いえいえ。お安いご用ですよ!」
「・・・ところで、どうして、千景と神崎君はどこかに出かけなかったの?」
「どうしてですか?」
「だって今日は、クリスマスだし・・・」
「お母さん!」
「千景?何むきになってるの?」
「お母さんが変な事いうからでしょ!」
「そう?年頃の娘を育ててるからには、別にいいと思うんだけどね・・・」
「・・・あのお母さん、俺・・・席外した方がいいっすかね?」
「あら、ごめんなさい!神崎君もいたわね。ちょっと待って!今、カレーを作ってあげるから!」
俺と千景はカレーを食べ、俺は一旦、自分の家に帰ることにした。
「神崎君、今日は本当にありがとね!」
「いえ、千景さんの退院もおめでとうございます!」
「ところで神崎君、今日はクリスマスよね?」
「それがどうしました?」
「私、これから忘年会で千景が家で人になるのね?」
「それで?」
「もう、神崎君たら、察してるでしょ?」
「はい。だいたいは見当がつきます。」
「お願いできるかしら・・・」
「千景に聞かないとわからないですね!」
「そう?じゃ、お願いね。」
「お母さん!かずくんに何言ってるの?」
「何でもないわ!ただのお礼よ。」
俺の気持ちはあの手術を成功させて元気に戻ってきた千景に気持ちを伝えることだ。千景のお母さんはそれの後押しをしたのかもしれない。この日が俺が千景に気持ちを伝える最後のチャンスかもしれない。そう思うと、自然と足が前に出た・・・
「千景!いるか?」
俺は、午後五時に千景の家に来た。千景のお母さんが出るのは知っていたから、それを見計らって家に行ったから・・・
「かずくん?何?」
「悪いんだけど・・・ちょっと付き合ってくれない?」
「何処に?」
「デパートにさ。俺の母さんに迷惑をかけたから、そのお礼にと思って・・・でも、俺、女の人がどんなものが好きなのかがわからなくて・・・」
「ふ~ん、ちょっと待って!準備するから。」
もちろん、これは千景を誘うための嘘である。バレバレの演技だったがなんとか家の外に誘い込むことに成功した。
「お待たせ!かずくん!」
「おう!そんじゃ行くぞ!」
俺と千景は歩いて十分の所にあるデパートへ歩き出した。その間はさっきの事を思い出したりして、あまり話せなかった。そうこうしているうちに・・・
「かずくん?着いたよ!」
「おう。」
どうやら、着いたらしい。頭がボーっとして時間を忘れていた。
「それで、かずくん!どういうのをあげたいの?」
「えっ?なんか気持ちがこもってるものであれば・・・」
「つまり、ノープランってこと?」
「ごめん。」
「もう・・・んじゃあの店から行ってみよ!」
「千景!」
「何?」
「買いたいの・・・あったんだわ!」
「ちょっとこっちに来てくれ!」
「ん?」
・・・・
「かずくん?ここデパートの外だよ!」
「知ってるよ!」
「えっ?買いたいものって・・・」
「もう、買ってるよ!でも、それはお袋に対してじゃないんだ!」
「んじゃ誰?」
「・・・前だよ!」
「えっ?」
「お前だよ!千景。ロマンチックにはする自信がないから、俺らしくいきたい!」
「かずくん・・・それって・・・」
「千景!俺は千景の事が好きだよ!世界中の誰よりも!」
「えっ?」
「俺は、あの日以来、いや、お前を助けたいと思い、お前が助かったあの日から、俺はお前の事が好きだったよ!」
「かずくん?」
「もう一度言う!俺はお前の事が好きだ!俺と付き合ってほしい!」
この言葉の直後、千景は泣いた。どうして、泣いたのかは俺にもわからなかった。でも、返事はすぐに来た。
「かずくん!あのね・・・私もかずくんに伝えたいことがあるの!」
「伝えたい事?」
「私も、かずくん・・・いや、神崎君が大好きです!こんな私ですがよろしくお願いします。」
「千景・・・」
「あれ?かずくん・・・泣いてるの?」
「泣いてないよ!これは汗だよ!それよりお前こそ何泣いてんだ!」
「私も、汗だよ!」
俺は、うれしかった。正直に気持ちを伝えられ、正直な返事が返ってきた。それは、友達としてではなく、一人の男として見てくれた千景に感謝しなければならない。そんな気持ちだった。
「千景。ちょっと、付き合え!」
「何?私、病み上がりだから・・・知ってるよ!すぐ着くから。」
着いたのはデパートの屋上だった。いつもなら、子供たちであふれているのに、今日はクリスマスだけあって、ちらほらとカップルがいた。
「そろそろか・・・」
「何?」
ヒューーーーーン ドーーーーーン
この町はクリスマスの子に時間、花火があがる。俺はそれを見計らって千景を誘ったから・・・
「千景・・・メリークリスマス!」
「かずくん・・・」
その日、俺は始めて、女の事キスをした。正直、頭は真っ白になったのであまり覚えていない。でも、いつまでも、そんな幸せが続く、そんな予感がした。
そして・・・月日は流れ・・・五年後六月十日
「お~~~い!亮、麗華。」
「先輩、凛先輩!お久しぶりです!」
「高校の時以来か・・・お前らよりあいつらが先にゴールしちまったな!」
「まぁ~遅かれ、早かれこうなることは予測していましたから・・・それより、先輩たちは今何してるんです?」
「私は、銘苅高校で古典の先生をしているよ!毎日、毎日、大変だよ!高校生の相手って・・・」
「俺は、北海道中学校で体育の教師をしている。毎日が楽しいよ!・・・お前らは、どうだ?高校の時から変わってないのか?麗華は知ってるのが、お前は何してんだ?」
「俺は、銀行員の営業マンとして日々働いています。毎日、お金の事で疲れますよ!」
「・・・そうか・・・変わってないのはあいつらだけか・・・」
「変わりましたよ!あいつらは・・・」
「そうだね。千景は再発の危険性もなくなったし、今は普通に働いてるみたいだし、神崎君も、光陵自動車株式会社で働いてるって言ってたもんね!」
「アッと・・・そろそろ時間だ!あいつらが出てくるぞ!」
カーンカーンカーン
「神崎~千景を幸せにしろよ!」
「神崎君!浮気したら、覚悟してね!」
「神崎君!千景の事よろしく頼むよ!」
「神崎。千景を頼むぞ!」
「お前ら・・・わかってるよ!俺が千景を幸せにしてみせっから!」
「ちーちゃん、ブーケ、ブーケ!こっちに投げて!」
「もう、凛ちゃんたら・・・いくよ!」
俺たちは、五年という月日を掛けた。千景の病気が治ったこの年、俺たちは結婚した。まだ、やることはたくさんあるが、今はこの瞬間を楽しんだ。そして、千景のお腹には俺の子供がいる。この子のために頑張らないといけない。それは、とても大変なような気がするが千景と一緒なら俺は何があっても乗り越えられる・・・そう思った。
「千景!サービスしてやるか・・・」
「もう、神崎君ったら・・・」
チュッ!
「「ヒュー~~~~~」」
「お前ら、絶対幸せになれよ!」
「分かってるよ!俺に千景を任せておけ!」
一つの出来事でここまで来れるとは思えなかった、あの日、俺が決心してなかったらどうなっていたか・・・俺にもわからない。でも、その決断が俺の人生を大きく変えた。そして、最高の幸せを手にすることが出来た。
支えてくれた、みんなに感謝して、俺は生きていく、そう決心した。




