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好きだって言ってやる。

作者: たけやぶやけた

初投稿です。



【1】



誰もいない教室。

俺は掃除をしていた。


誰に頼まれたわけでもない。

ただ落ち着かなかったから。


俺がこれからすることを思うと、じっとしていられなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【告白(前編)】



「何、これ…?」


その声は、いつ聞いても可愛いくて。驚いた顔は、どこかに閉じこめてしまいたいほど。


「待ってる間、暇だったから」

何かしていなければ、緊張で爆発していただろうから。


「いや、暇だったからって…。これは…」

彼女は、何故だか慎重に、教室に足を踏み入れた。



床を見て、机を触って。

「君ってプロだったの?」

不思議なことを聞いてくる。


「ただの学生だよ」

今日は卒業式で、そのうち大学生。


「そうじ君。って名前だったっけ?」


違う。


「じゃあ、クリリンだ」


クリリン…クリーン…?


「違うよ。

そんなことより…」

あなたが好きです。


言おうとした時。


‘ピリリリ…ピリリリ…ピリリリ…’


という電子音。


「あ、ごめん」

彼女の着メロらしい。


焦った顔も素敵だ。


‘ピリリリ…ピリリリ…ピリリリ…’


「話、聞かせて?」

彼女は電話に出ない。


‘ピリリリ…’

まだ鳴っている。



あなたが好きです。

ただの一言なのに心臓が爆発しそうだった。


「あなたが好きです!」



でも言った。



でも、言えた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【告白(後編)】



返事は、はっきりとした彼女らしく、きっぱりと、簡潔なものだと思っていた。


だけど、彼女の返事はしばらく無かった。


「嬉しいよ。…でもね」

不安そうで、言いにくそうな顔。



‘ピリリリ…ピリリリ…ピリリリ…’


まだ鳴っていたのか、それとも二度目の着信か。

ともかく、携帯が鳴っていた。


彼女は携帯を取り出して通話を開始する。


「もしもし、タナバタ君?」


『そうだ、俺だ。

今日、買い物に付き合ってくれないか?』


「良いよ。

あ、私今日卒業式だったから。何か奢ってよ」


『任せろ。…そうだな。モスバーガーを奢ってやろう』


「やりー」


『じゃあ、いつものところで待ってる。

愛してるぞ』


「おーけー。

私もだぞ」


彼女は電話を終えた。


ハンズフリーにしたのだろう。相手の声もよく聞こえた。

だから、聞き間違えはない。


彼女は、息を吐く。

意を決したように。


「そんな訳で、私ってば二股も三股もするけど、本当に良いの?」


不安そうな顔で。

だから、元気づけたくて。


だけど。



「良いよ!」



即答できた自分にビックリした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【2】



『私ってば、二股も三股もするけど…良いの?』



いや、良くない。



良い訳ないけど。

俺は、玉砕覚悟だったわけで。

関係がどうあれ、気持ちを受け入れてくれたことが嬉しいわけで。

彼女は、最高に可愛いわけで。



つまりは、そういうこと。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【デート(前編)】



宿題もなければバイトしてない俺は、しかし暇していなかった。


今、俺の隣には。


「やっぱり、クリリンは掃除のプロだよ…」


腕を組んで、目を閉じて。何度もうなずいている美少女がいた。



付き合って、分かったこと。


やっぱり彼女は可愛い。

素直で明るくて頑張り屋で、お茶が好きで花が好きで。

綺麗な声で綺麗な顔で。


「何度も言うけど、プロじゃないよ」

「プロだもん。なんなら私がお金あげるわ」


勉強は出来るのに感覚派で、意地っ張りで。


「そんなに言うなら掃除しましょう。

クリリンには自信が足りないの」


決断と行動の早さがピカイチ。



「聞いてる?」


「聞いてるよ。どこを掃除するの?」


「うーん…と。

公園とか!」



まるで、何かに焦ってるように思える程。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【デート(後編)】



公園のありさまは、意外にひどかった。


広告や、スナック菓子の空き袋。

空き缶空きペットボトル、たばこの吸い殻。そして地面に張り付いて黒くなっているガム。



今日中には無理だと思ったけど。


「終わっちゃったよ!!すっごいね!」


彼女も驚いていた。


まだ夕暮れ前なのだ。


「二日使うつもりだったのに!圧倒的だね!すごいよ!ぱないよ!」


ちなみに、彼女の可愛さの方がよっぽど圧倒的だ。


「ハイターッチ!!」


ハイタッチする。


「楽しかったね」

言うと。


「うん!」

満面の笑顔。


もう死んでもいい。


そんなことを思えるほど、楽しかった。

彼女のてきぱきとした動きは見ていて清々しかったし、なにより掃除中の連帯感は心地よかった。



「ほとんど喋らなかったのにねー」


彼女も同じように感じてくれたのなら、それはとても嬉しいことだった。


「集めたゴミ、どうするの?」

ゴミ袋は14個ある。


「トラックで運ぶよ。もう呼んであるんだ」




タナバタ君。




いや、根拠はない。ふと思っただけだ。

体温が上がった気がする。

情けない。


「ジュース買ってくるけど、何飲みたい?」


「ポカリ」


120円が投げられる。

何とかキャッチできた。



「「ナイスキャッチ」」



ハモった。


「あはは、クリリン、自分で言うの?」


「動体視力には自信がないからね」


「良し、これで1つ自信になったね」


「あぁ、俺に自信をつけさせるために掃除したんだっけ」


「おおよ。これからクリリンの自信を有頂天にさせるから、覚悟しといてね」


「なんか怖いなぁ…」



まぁ。そんな感じで、掃除は終わった。

うん、楽しかった。



ちなみに、トラックはタナバタ君ではなく業者の人だった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




【3】



二股、三股を平気ですると言う彼女。


しかし、いや、うん。


だけど、そういう行為はしていない。



ふと思う。


何が本当で。何が嘘なのか。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【彼女の彼氏(前編)】



ある日のこと。彼女の携帯が鳴った。



'ピリリリリ…ピリリリリ…ピリリリリ'


「もしもし、どうしたの?」


「…うん。行く」


「行く。絶対行く」



通話が終わって、彼女は携帯をしまう。


「タナバタ君?」



「外れ」


「じゃあ、本命の人だ」


「よく分かったね」



そのくらい分かる。見れば分かる。

好きな人と話している時の顔くらい。



「俺も行く」


「…」



「好きだよ。君が好き」


まっすぐ見た。

問い詰めるために。


「私もだよ。クリリンは、好感が持てる」



彼女は目をそらさない。俺に問い詰められる。


「俺は愛してるよ。君に欲情してる」


押し倒してしまいたい。


「そうしたら、不倫だよ?」


「不倫は嫌だ」


「私も」


やっぱり嘘だった。


もはや何が嘘かわからなくなりつつあるけど。

たぶん彼女、二股や三股はしてない。



「これ」


ボイスレコーダーだった。


「準備良いでしょ?」


再生ボタンを押してみる。


『そうだ、俺だ。

今日、買い物に付き合ってくれないか?』


『任せろ。…そうだな。モスバーガーを奢ってやろう』


『じゃあ、いつものところで待ってる。

愛してるぞ』



聞き覚えがあった。


「…ん?タナバタ君?」


「そ」



「どういうこと?」



「タナバタ君は架空の存在なのさ」


「…。どういうこと?」



「私のこと好き?」


上目遣い。甘える声。

だけど、これは演技で。本命は他にいる。


関係ない。


「好きだよ」



言うと、彼女はため息をついた。



「普通はさ。嫌いになるんだよ」



好きな人がいるのに、他の男もキープする。


普通は嫌なのかもしれない。だけど、やっぱり関係ない。

好きは好きだ。

そんな簡単には変わらない。



「君が好きな人に会いたい」



彼女が頬を赤らめた。


「なんか、私が好かれてるみたい」


頬を染めた彼女が可愛くて、ついニヤけてしまう。


「真面目な話だよ。俺は行きたい。会いたいんだ」



「嫌だって言ったら?」


「言わないよ」


「なんで?」


「君は焦ってる。とにかく行動したくて堪らない」


「はぁー」

ため息をつかれた。


「はぁー」

俺もついてやる。



「しょうがないな」


「いつ会える?」


「ついてきてよ、栗林くん」



栗林。くりばやし。

俺の名字。


あ、もしかしてクリリンって栗林から来てるのか?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




【彼女の彼氏(後編)】



「魂がね、好きって言ってるんだ」



彼女が語る。ポツリポツリと。


「一目惚れって言葉があるけど、私ってば零目惚れ。


会う前から分かったの。私の1番が傍にいること。


見たときには雷だよね。ヅガーンって感じ。好きになるしかないんだ。


傍にいるとね、しっくりくるの。


離れていると、穴が開いちゃうの。


前世はラブラブカップルだったと思うよ?ううん。絶対そうなの。



だけどさー。おかしいの。辻褄が会わないんだよ?」



今度は、あっけらかん。どうでも良いみたいに。



「私の1番は彼なのに。彼の1番は私じゃないのー。


おかしいよ。私の運命は彼の運命じゃないのー。


私の赤い糸は、何でか彼の小指じゃないのー。


好きな人がいるんだって。私じゃない。別の人ー。




私が栗林くんのことを好きな理由。教えてあげようか」



俺を見る。俺を見透かすような、綺麗な瞳。



「私のことが好きだからさ。


私は君が1番じゃないのに、それでも私を好きだと言ってくれたからさ。


君が私を好きだと言う程、私は勇気付けられるの。


君は絶対報われない。私が君に傾くなら、それはつまり私の希望なのさ。


君はピエロ。私は愚か者。


君を振るなら私の敗北。君を受け入れるのは論外。私を押し倒すなら、いっそ私も押し倒してしまおうか。


嫌いになった?


なるわけ無いよね。それなら話は簡単なんだ。こんな告白で嫌いになるなら、私はこんなに困ってない。


君のことなんてどうでも良い。彼だけが好きなの」



彼女が立ち止まった。


あぁそうだった。歩いていたんだった。

転ばなくてよかった。


着いたここは、以前掃除した公園だ。



彼女は泣きそうな顔をしていた。

可愛い。


「クリリンの由来ってさ、栗林から来てるの?」


キョトンとした顔も可愛い。

「他に何だと思ってたの?」


「クリーン」


笑った顔も可愛い。

「ふ、…くく。そっか掃除してたね。いっそ、そっちを由来にしちゃおうか」


どんな顔だって素敵だ。


「君が彼を思う程、俺は君を好きじゃないよ。


俺は君が好きなだけだ。嫌われたくないだけだ。


卒業式の告白で、俺は断られると思ってたよ。


それで諦めるつもりだった。


今だってずっと怖いのに。


嫌いになんてなるわけがないんだ。俺は、君の気持ちが聞けて嬉しい。


報われないわけ無い。俺は今、幸せだよ。君の本当を聞かせてもらえた」



俺の好きが君の勇気になる。


上等だ。いつだって言ってやる。

君が大好きだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【4】



俺がいて。俺の好きな人がいて。


それで世界が完成すれば良かったのに、どうやらそうはいかないみたいだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【数年後】



彼女。結婚するらしい。



「おい、栗林。その椅子は私のだ」


「良いでしょう、今日くらい」


「何だ、携帯持って項垂れて。誰か死んだか?」


「縁起でもない」


「縁起ではないのか」


「縁起じゃないです」


「じゃあ何だ」


「赤い糸ですよ」


「運命か」


「何だよ。しっかり結ばれてんじゃん」


「ともかく退け、それは平のぺーぺーが座って良い椅子じゃない」


「良いじゃないですか。失恋した日くらい」


「何だお前、ニヤついて。気持ち悪いぞ?」


「好きな女の子の恋が成就したんです。好きな女の子の、最高に嬉しそうな声が聞けたんです」


「…泣くかニヤけるかどっちかにしろ」


「泣きます」


「おう。泣け。そして退け」


「鬼。何でそんな嬉しそうなんですか」


「鬼で結構。今日は付きあってやるから、飲み明かそう。

ずっと待ってたんだからな」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



読んで頂いてありがとうございました。


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