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王の匠  作者: 朝川 椛
それぞれの決断
99/101

6-2

 継承式は謁見の間で華々しく執り行われた。

 左丞相こそ不在ではあるものの、深紫色をした雲立涌くもたてわくのサーキュラーケープを身に纏ったジョージを筆頭に、他の側近とその親族たちが一同に介している。その中には、薄青い藻勝見そうかつみのアビ・ア・ラ・フランセーズを身に纏ったフルニエ侯の顔が見える。斜め前には紅梅色をした雲鶴うんかくのマントを羽織り、桃色のドレスを身につけたユミと、薄い紫色をした古代浮線綾こだいふせんりょうのマントを身につけた、碧いドレス姿の前王妃エリィの姿もあった。


(ユミ王女はこれからどうするんだろうな)


 ユカリィとチサの話によると、ユミ王女はカレン侯爵夫人から長いことユカリィたちの悪評を拭きこまれていたらしい。お前は捨てられたのだ、と言われ続けたユミ王女は嘆き悲しみ、部屋へと籠って面影さえ残っていない姉のユカリィを長いこと恨んでいたのだ、と。チサに心を開いたのは彼女が自分と同じ境遇であると明かしたからだったらしいが。ユカリィと再会して長年の誤解が解けた今、ユミ王女は身の振り方を考えなくてはならないのではないだろうか。義父と実の姉。はたしてどちらの傍らにいることが彼女の幸せなのだろう。フルニエ侯も好人物だが、ユカリィだって負けてはいない。とはいえ、ユカリィの側にはエリィ前王妃もいる。彼女は今回の変事にとってある種の元凶と言っても過言ではない。そんな人物の傍にいることはユミ王女の精神衛生にどう影響を及ぼすのだろうか。それは当人以外にわかるはずもない。


(ま、少しずつ決めていけばいいことか)


 今は焦ってもしかたがない。いずれ必ずいい方法が見つかるだろう。ケイは小さく溜め息をつき、視線を前方へと戻した。

 壇上には銀色に輝くティアラを頭に戴き、黄櫨染こうろぜん色をした桐竹鳳凰きりたけほうおうのマントに、黄色いエンパイア・ドレスを身に纏ったユカリィが泰然と坐している。ケイが息を整えていると、ジョージに名を呼ばれた。ケイは壇上に立ちながら、着なれない深紫色をした蛮絵獅子ばんえのししのサーキュラーケープを小さく払う。視線を前方へと戻すと、目前にいたジョージがケイの前に指輪を差しだして、厳かな口調で言葉を紡いだ。


「レイラリアの民にして都基山家の直系であるケイ・都基山よ。汝今ここに『王の匠』となり、女王とこの国の要となることを命じる。異存がなければこの指輪を手にとり右の中指にはめよ」

「は」


 ケイは指輪を受けとり、右の中指にはめる。きんと耳鳴りのような音がして、一筋の光がユカリィの『陽蕾』に留まった。やがて、かちり、という音とともに光が消えると、周囲から大歓声があがる。戸惑っていると、壇上に座っていたユカリィが立ちあがり近づいてきて、そのままこちらの手をとり高々と挙げた。


「お、おい!」

「しっ! 黙って! お前も手を振るんだ!」


 小声で耳打ちするユカリィに倣い、もう片方の手を小さく振る。途端に、さらなる歓声が沸き起こった。


「これって、いつまでやってればいいんだ?」


 困り果てて尋ねるとユカリィが答える。


「さあ? みんなの気が済むまでではないかな」


 これから式典が催される度こんな状況に堪えなければならないのだろうか。そんな考えが頭をよぎり、ケイは小さな眩暈を覚える。正直堪えがたいことではあるが、堪えるしか方法はない。


「は、はははは……」


 諦めろ、と笑顔を絶やさぬまま小さく告げてくるあるじを尻目に、ケイは引きつった笑いを浮かべるほかなかった。

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