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「それは……本当か……?」
「ユカリィ!」
ケイは苦しげに眉根を寄せつつゆっくりと瞳を開く小さな身体へ、歓喜の声を発する。投げかけられた声音はメリルのものとも寸部たりとも違わなかったが、ケイはその声がユカリィのものであることを確信していた。
「あの約束、今度こそ守ってくれるのか?」
声は今度こそ、という言葉に力をこめて尋ねてくる。やはりユカリィだ。ケイは微笑む。幼い頃、十二年前のあの日に交わした約束を、今度こそ果たす。
「ああ、必ず。だから力を貸してくれ!」
力強く頷くと、ユカリィがゆっくりと見おろしてきた。
「私は、どうすればいい?」
「メリルを封じる。君は中から彼女の意識に働きかけてくれ!」
こちらの言葉に、ユカリィが難しい顔をして問いかけてくる。
「説得しろということか?」
ユカリィの問いにケイは頷いた。
「そうだ。メリルに身体を乗っとられながらもこうして俺と会話できる君だ。メリルを外に出すのは君の身体に負担がかかり過ぎるが、彼女の意を汲み説得することなら可能かもしれない」
「それは、この孤独な意識をも救いだす、ということか?」
重ねて尋ねてくるユカリィへケイは少しだけ沈黙し、ああ、と答える。
「そういうことになるな」
真面目に答えると、ユカリィがふと吐息を漏らした。
「なんだ?」
怪訝に思い眉を顰めるこちらへ、ユカリィがかすかに目元を和ませてきた。
「いや、実にケイらしいと思って。それでこそ我が『匠』だ」
いつも通りなユカリィの言葉に、ケイは怒るべきなのか安堵するべきなのか、複雑な気持ちで彼女を見あげる。
「ごちゃごちゃ言ってないで急いでくれよ。君と違って俺たちは立ってるのもやっとなんだ」
「わかった。やってみよう」
頷いたユカリィが瞳を閉ざす。外側にいた三体の小さなユカリィたちも、一様にその瞳を閉ざした。
「メリル、聞いていただろう? メリル?」
ケイは奥深くへと潜ってしまったメリルの意識へと交信を試みるユカリィを、固唾を呑んで見守った。長い沈黙が流れ、おもむろにユカリィが口を開く。
「いや、お前はもう孤独じゃない。少なくとも一生、私と一緒だ」
答えた瞬間顔を顰めるユカリィ。どうやらひどい抵抗にあっているようだが、ケイが自分でできることはもうないに等しい。
(今は見守るしかない)
唯一できることはただそれのみである。祈るような気持ちで見あげたケイの耳へ、ユカリィの優しげな声が届いた。
「お前の孤独も怒りも悲しみも、すべて私が引き受けよう。だからメリル、お前も私とともに生きてくれ」
またしても沈黙が続き、ユカリィが唇をきつく噛みしめるのが見える。だが次第にその表情が穏やかなものへと変わっていくのがわかった。
「ああ、約束する」
ユカリィが宣言すると、三度の沈黙が訪れる。やがてユカリィの頬に一筋の涙がつたい落ちると、黒い光が四体のユカリィたちそれぞれにまとわりついた。
「何っ!」




