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突然沸き起こった怒りとも悲しみともつかない感情に突き動かされるままに、ケイはチサへ向かい言葉を紡ぐ。
「お前は俺の親類縁者をこれまで散々殺し、ユカリィや他国の王を窮地に貶しめるだけでなく、何にも関係ない人々まで巻き込み、自分だけが楽な方に逃げようとしている。そんなことは、俺が絶対に許さない」
「ケイ……」
瞳をこれ以上ないほど大きく見開き自分を見つめてくるチサに、ケイは断固とした声音で言い放った。
「お前は罪を償わなくちゃならない。それは死ぬことで贖えるような安いものじゃないはずだ。少しでも後悔しているというのなら、絶対に生きて償えよ」
「でも、今さらどうしようもないじゃない。メリルは復活する。いえ、もうほとんど復活したも同然よ! どう足掻いたって、世界は崩壊するしかないじゃない!」
涙を流すチサに、ケイは首を横に振る。
「そんなことはさせない」
「え?」
チサが虚を突かれたようにこちらを見つめてきた。その視線を受け止め、ケイは決意を込めてチサに頷く。
「俺がメリルを止めてみせる。いや、正確にはユカリィが、だけど」
こちらの言葉に、エリオット公が吠えた。
「小僧が! 世迷い言を!」
「世迷い言かどうかは試して見なければわからないだろ?」
エリオット公を睨みつけながら答えると、チサが言い募ってくる。
「でも、ユカリィ様はもう……」
ケイはいや、と首を左右に振り、チサへ小さく微笑んでみせた。
「彼女は生きてる。俺には分かる」
メリル・マルソーニのサーマと会話した時、マルソーニはケイへ答えた。『いずれ彼の意識は完全に消滅する』と。『いずれ』ということは、少なくとも今はまだユカリィの意識がメリルと共存していることになる。こちらの言わんとしていることがわかったのか、エリオット公が表情を硬くした。
「ならば、行かせるわけにはいかん。チサ、奴を葬れ」
「カイト様」
縋るような瞳でエリオット公を見つめるチサに、エリオット公が決断を促す。
「チサ! さあ、早く!」
エリオット公の言葉に促され、チサが唇を噛みしめこちらへ向かって金糸を引き抜く。そんな彼女の前へ、ジョージが立ちはだかった。
「そうはさせんよ」
片頬を上げてみせるジョージをエリオット公が嘲笑する。
「ほう? その傷だらけの身体で我ら二人を相手にしようというのか。愚かな……」
「なあに。わしとて死ぬ気は毛頭ないでの。ただ珍しくやる気になっとる孫のために足留めを買って出ただけじゃよ」
エリオット公の挑発にジョージが小さく肩をすくめた。ケイは走りだしながらジョージへ声をかける。
「祖父さん、頼んだ!」
「わかったから早何とかせい!」
怒鳴りながら長針を構えるジョージに頷き、ケイは再び菱形に宙へ浮かんでいるユカリィたちの前へと立った。




