表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の匠  作者: 朝川 椛
終わる世界の中で
89/101

5-18

 刹那、ケイの斜め後ろから影が走った。影は瞬時にエリオット公とルーの間をすり抜ける。遥か前方には、描かれた金糸のステッチによって動きを封じられたアーナとユーリの姿があった。そのさらに奥では、ルビー色に光る『血の蕾』が今にもチサの手でユミの胸元へと縫いつけられようとしている。


「だめ!」


 声を発したのはサーマだった。ケイはいつの間にか傍らから消えていたサーマの行動に息を呑む。その間にも、初めて言葉を発したサーマがユーリたちの横を抜け、台座から宙に浮き始めていたユミとチサの間に割って入った。


「イリュー!」


 ケイはサーマを援護するため長針をさらに回転させ、チサへ向かって投げつける。長針は大きなアーチを作って方向を転換し、チサへと向かっていった。だが時はすでに遅く、突然入ってきた侵入者に対し、チサが一瞬躊躇ったような様子で手を止めた瞬間、眠っていたはずのユミがおもむろに起きあがった。目を瞠るチサの目前で、ユミが胸元へ向かってきていた血色のボタンと金糸をサーマに向かって打ち払う。『血の蕾』がサーマの胸元にぴたりと留まった。


「サーマ様!」


 ケイが叫んだ刹那、黒い風が吹き荒れサーマの身体が浮きあがった。ユーリ、アーナ、ルーの身体もそれぞれに浮きあがり、四体が菱形になって虚空へと舞いあがる。やがて、四人の『伝説のロア』たちが暗い輝きとともに一つとなり、十六歳のユカリィが姿を現した。


「ユカリィ!」


 ケイは絶叫する。すると、声へ呼応するかのように、ユカリィの身体が再度黒光りする影にとりこまれた。同時に、『伝説のロア』である四人の小さなユカリィたちが出現する。ユカリィたちは一様に虚ろな目をして三体が三角形を形作り、残る一体がその中央に位置して虚空へと留まった。その瞬間、ケイは己の身体が一気に重くなるのを感じた。


「ユカリィ……!」


 十二年前に一度見た、いや、それよりも最悪な事態が目の前で繰り広げられようとしている。

 すなわち、メリル・マルソーニの復活。そして、暴走。

 みるみる薄くなっていく酸素に息をあげながら茫然と呟くと、エリオット公が狂ったように笑いだした。


「これだこれだこれだっ! この瞬間をこそ待って待って待ち望んでいたのだっ!」

「なんだって!」


 ケイは目を剥いてエリオット公を見やる。


「それはどういうことだ!」


 エリオット公を睨みつけたまま問い詰めるケイの耳へ、後方から馴染み深い声が飛んできた。


「つまりな、こやつが望んでおるのは世界の覇権ではなく、滅亡だということじゃ」

「祖父さん!」


 歓喜して振り返ったケイは、目にした光景に言葉を失う。その瞳には、左手を負傷しあちこちに深傷を負った祖父が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=904022106&s yado-bana1.jpg

相方さんと二人で運営している自サイトです。




― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ