5-16
「カイト!」
前方に佇んだエリオット公にユーリが叫ぶ。エリオット公は目を瞬かせユーリたち四人の『伝説のロア』を見渡した。
「おや。これはこれはお懐かしいお姿ですな、ユカリィ様方。お待ちしておりましたぞ」
「それは、どういう意味だ?」
尋ねるユーリに、エリオット公が目を細める。
「お待ちしてはおりましたが。しかし難を言えば、もう少しばかりごゆっくりなさっていただきたかった気も致しますな」
「あら、これでも十分に時間を差し上げたつもりですけれど」
エリオット公の言葉に、アーナが肩をすくめた。
「お戯れを」
エリオット公が小さく肩を揺らす。
「ユミは返していただきますわ」
アーナが表情を改めエリオット公を見据えると、エリオット公は小さな笑みとともに首を左右に振った。
「残念ながらそれはできかねますな」
「ならば力づくでとり返させてもらう」
宣言してユーリが弓を構える。アーナもバトルアックスを構えてエリオット公に突進していった。だが、エリオット公は表情を変えぬままその攻撃をあっさりとかわし、ユーリの矢を素手で払いのける。
「何っ!」
驚きの表情を見せるユーリとアーナを前に、エリオット公の笑い声がこだました。
「黙ってそこで見ていた方が貴女方のためですぞ。世界は生まれ変わるのですから」
「なぜそんな愚かなことを望む!」
愉快げに語るエリオット公をユーリが睨みつける。
「それが私の願いだからですよ、ユカリィ様方。今の世界は間違いだらけだ。だからより良い世界に創り変える必要があるのです。それが世界の在るべき姿であることを、貴女方ならご存知のはずだ」
「どうであろうと、俺はそれを許すわけにはいかない」
ケイは金糸を引きだし、長針を構える。エリオット公がこちらの言葉に小さく頷いて、チサを見やった。
「来なさい、チサ」
「はい」
頷きエリオット公のもとへ行こうとするチサを、ケイは引きとめる。
「チサ、行くな」
制止の言葉にチサは歩みを止め、こちらを振り返った。
「……私の帰る場所は、やっぱりカイト様の元にしかないの」
小さくかぶりを振り答えたチサは、ゆっくりと歩みを進めエリオット公の隣につく。
「良い子だ、チサ。この者たちは私が相手をするから、お前はユミにメリル様のボタンをつけておくれ」
「やめるんだ、チサ! そんなことをしても誰も救われない」
ケイが叫ぶとチサは一瞬だけこちらへと視線を送った後、エリオット公へ向かって頷いた。
「はい、カイト様」
エリオット公がチサの言葉に鷹揚へ頷き返すのを見ていたケイは、再度チサへ呼びかける。
「チサ!」
だがチサがケイを見ることはなく、ユミの横たえられた祭壇に向かって歩きだした。
「くそっ!」
ケイは長針を投げてチサを阻止しようと試みる。けれども、ケイの放った長針は、チサへと届く寸前でエリオット公に阻まれた。
「そうはさせんよ」
不敵な笑みを浮かべ、エリオット公がロングソードを構える。
「くっ!」
長針を構え直すケイの耳に、九六三四回目の鐘の音が響き渡った。




