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「それは無理だよ。わかるだろ? チサ」
「わからないわ! カイト様の苦しみがわかっていて、なぜ彼の邪魔をするの!」
「守りたいからだよ」
ケイは叫ぶチサの顔を、正面から見据える。
「祖父さんは、そして俺もこの世界が好きだ。生きてると辛いことばかりで逃げ出したくなる時もある。俺なんかがいい例だ。けどこの世界には父さんとの思い出がたくさん詰まっている。俺たちを産んですぐに亡くなった母さんの記憶も、薄っすらだけどきちんと刻まれている。幸いなことに、死んだと聞かされていたお前とも、こうして生きて再会できた。そんな世界を、女王は命がけで守っているんだ。守りたいと思わない方が嘘だろう?」
「ならばそのみんなを守ってくれるはずの王とその世界は、なぜカイト様を守ってはくれないの? そんなの不公平じゃない!」
拳を硬く握りしめ声を震わせる。その光景を見ていたユーリが、おもむろに口を開いた。
「ならば守ろう」
「はっ! なにを」
吐き捨てるような言葉を放つチサへ、ユーリが静かな瞳を向ける。
「お前が育ての親であるカイトを慕っているのはよくわかった。私たちがユカリィに代わって約束しよう。私たちはカイトを必ず止める。そして、カイトを、闇に囚われたその心を、必ず救ってみせる」
「いいかげんなことを……」
俄かに後退り言い淀むチサを見つめ、ユーリは頷いた。
「本当だ」
「ユーリ様たちがおっしゃるなら、俺も約束するよ。必ずエリオット公の心を守ってみせるってね」
ユーリの言葉に賛同し微笑みかけると、チサが黙りこむ。こちらとジョージを交互に見つめ、やがて無言で転送装置へ乗りこんだ。
「さて、わしらも始めようかの。ロス殿」
「もとより」
言うが早いかロスから無数のナイフが投げかけられる。それを金糸で難なく凌ぎながら、ジョージが叫んだ。
「早く行け! 馬鹿孫!」
「けど、どうやったら動くんだか」
もう一度円盤を手で探り動力源らしきものを探していると、ジョージの指示が飛ぶ。
「中央で行きたい場所を念じるんじゃ! 早くせい!」
ケイは、わかった、と頷き、ジョージの背中に呼びかける。
「祖父さん」
「何じゃ!」
煩わしげにこちらを振り返るジョージの瞳を、ケイは真剣に見つめた。
「死ぬなよな。葬式代だって馬鹿にならないんだから」
「心配するな。わしの老後はこれからじゃ。孫にたかって生きていく余生を送ると運命が告げとるわさ」
にやりとするジョージへ微笑み、ケイは意識を集中する。
「行くぞ」
声とともに景色が急速に展開した。一瞬にして辺りの光景が変化する。灰褐色の刺々しい岩肌と吹き荒ぶ風。鳴り響くロンドラルの鐘の大きさに驚き振り返ると、鐘の下に備えつけられた台座が目に入る。台座には白いドレスを身に纏ったユミ王女が横たえられており、その手前には穏やか過ぎる瞳を湛えこちらを見つめるエリオット公の姿があった。




