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「やっぱりお前が碧仮面だったんだな、ディア」
念を押すようにして尋ねると、碧仮面と呼ばれていた少女、ディアが低い声を発する。
「とどめを刺して」
「エリオット公とユミ王女はどこにいる」
相手の言葉を無視して尋ねるも、ディアが吠える。
「とどめを刺してと言っているでしょ!」
ケイはディアの言葉に肩をすくめ、嫌だね、と鼻を鳴らした。
「俺は身内を殺していった奴を楽にしてやるほどお人好しじゃない」
「そう」
苦々しく微笑んだディアが、俯き、小さな声で呟いた。
「幻影の記憶よ」
「ケイ!」
ユカリィが叫ぶ。途端に、虚空から鋭い剣が無数に落ちてきた。とっさに長針と金糸を使って周囲の剣を払い落す。だが、絶え間なく落ちてくる剣のうち数本が、ディアへと向かいまっすぐに落下してきていた。
「くっ!」
ケイは結界のステッチをかい潜るように落ちてくる剣を払い除けようと、長針を放つ。だが、長針で払い退けた瞬間にも剣は出現し続け、ディアを貫かんがために落ち続けていた。
(くそっ! これじゃきりがない!)
無数の剣。落ちてくるそれらを見あげ、ディアが恍惚とした表情を浮かべる。
(ちくしょう!)
このままではみすみす串刺しにさせてしまう。だが、せっかく張った結界のステッチを解けば、自分とユカリィの身が危ない。ケイは唇を噛みしめディアを睨みつける。
(俺だって今まで散々逃げてきたさ。でも、こんな逃げ方は絶対に許さない!)
思いのたけを込め長針を放とうとしたその時、後方から突風のように飛んできた長針と金糸が、すべての剣を凪ぎ払った。ケイは息を呑み、勢いよく振り返る。
「祖父さん!」
「遅れてすまなんだな」
ケイの叫びに応えて手を挙げるジョージへ、ディアが絶叫した。
「なぜだ! なぜ邪魔をした!」
「孫じゃからじゃよ」
あっさりと答えるジョージの言葉に、ディアが瞠目する。ケイも絶句して、ゆるゆると祖父の顔を見つめた。
「大きくなったのお、チサよ」
息を詰めて見守るこちらをよそに、ジョージは飄々とした口調で言葉を発し、ディアに向かって微笑んだ。




