5-6
水の流れる音が聞こえる。
徐々に大きくなっていくそれを頼りに階段をくだり、最後の段を慎重に踏みしめた。背後から、暗くて重苦しい気配がする。
(やっとのお出ましか)
内心で軽口をたたきながらゆっくりと振り返ると、滔々と水を湛えた噴水と石碑の前に、碧い影がわだかまっていた。その横には、クリーム色のナイトドレス姿の女性がぐったりと横たわっている。
「待っていたぞ」
碧仮面がいつもより一段とくぐもった声を出して、仮面の奥の瞳からケイたちを見据えた。
「お母様!」
駆け寄ろうとするユカリィを留め、ケイは冷静に碧仮面の視線を受け止める。
「エリィ様をどうするつもりだ?」
「見ればわかるだろう。人質というやつだ」
碧仮面が小さく何事かを呟くと、空中に一本の剣が出現する。
「少しでも動いてみろ、彼女の命はない」
「ユミ王女はどうした? エリオット公はどこにいる?」
「お前たちが知る必要はない」
こちらの言葉を冷淡な声音で切って捨て、碧仮面は碧いロスタルムを取りだした。
「ルーよ」
碧仮面が呼ぶと無邪気な声が聞こえてくる。
「はあい」
楽しそうな笑い声とともに現れたルーと呼応してか、ユカリィが光に包まれ三人になった。サーマを後ろ手にルーへ向かい弓矢を構えるユーリ。アーナもまた、バトルアックスを片手にルーと対峙する。
「ファスナよ」
ケイは即座に炎の記憶を呼びだし、金糸を引きだした。
「動くなと言ったのが聞こえなかったのか?」
言葉とともに碧仮面の長針がケイを目掛けて飛んでくる。ケイは目を見開き向かってくる長針に金糸を投げつけた。そのまま金糸を絡みつけ両腕に力を込めて長針の威力を殺ぐと、叫ぶ。
「頼みます!」
瞬時に反応したのはアーナだった。こちらの行動を察知してか向かってくるルーの攻撃を首の皮一枚でかわすと、真っ先に前王妃のもとへ走る。ケイは碧仮面が長針を引き抜こうとするのを阻止し続けた。早く、早く……。祈るように見つめるケイの目前で、アーナへ追い縋ろうとするルーに向かい、ユーリが後方から矢を射かけ牽制する。その隙にアーナが前王妃のもとへ滑りこみ、彼女を軽々と持ちあげた。
「ケイ!」
横へ跳び退りながら、アーナがこちらに向かって叫んでくる。ケイは両腕から力を抜いた。と、枷を失った長針が、引き抜こうとしていた反動で碧仮面へと勢いよく戻っていった。
「何をしている! ルー!」
「だあってえ!」
碧仮面が怒鳴ると、雨のように降りそそぐ矢をことごとくかわしながらルーが頬を膨らませる。ケイは、階段の脇へと前王妃を横たえさせこちらへと戻ってくるアーナを見て、ほっと息を撫でおろす。早くも態勢を立て直した碧仮面へ視線を戻した。
なんとかして碧仮面の隙をつかなければならない。そうでなければ前王妃はおろか自分たちの命も危ないのだ。ケイは周囲を見回して、ルーを見た。彼女の攻撃力は碧仮面を軽く上回る。
ケイは引き抜いた金糸に力を入れ直し長針へ炎を絡めると、縦横無尽に複雑なステッチを描いた。
【お礼】
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