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エトランディス城の地下には秘密の礼拝堂がある。
そんな噂話は幼い頃親戚たちからもよく聞かされてはいたが、まさか本当にあるとは思わなかった。確かに、王家には長い歴史がある。中には表沙汰にはできないような黒い歴史も多分にあることだろう。
(メリル・マルソーニも、その一人ってわけか)
階段をおりながらひとりごち、前方のユカリィを見る。なんとはなしに石造りの壁に手をかけたところで、それが動くのに気がついた。
「お?」
「どうした? ケイ」
振り返ってくるユカリィに目配せして、壁を押す。すると、音をたてて壁がブロック崩しののようにかちりと動き、木製の扉が現れた。怪訝そうに近づいてくるユカリィへ手招きをして扉を開ける。扉の中は一つの部屋になっていた。
窓がないほかはフルニエス城で寝起きした部屋と変わらない。いや、それ以上に豪奢な雰囲気の調度品が並んでいる。
「女性の部屋か」
近づいてクローゼットを開けながら誰にともなく呟くと、ユカリィが律儀に、ああ、と答えてきた。
「これは、ユミの部屋だ」
「なぜ分かる?」
クローゼットの衣服から部屋の主が高貴な身分の物だとは思えたし、寸法やステッチなどからも比較的若い人物だとは思うが、そこまで断定していいものだろうか。クローゼットの中のドレスを確かめながら考えこんでいると、ユカリィが硬い声音で断言してくる。
「この鏡台はユミのものだ。間違いない」
「見たことあるのか?」
「ああ。これはユミが生まれた時、父上が私とユミへ一つずつ与えてくださった物だ。装飾が対になって作られているから間違いない」
「そうか」
頷くケイへ、ユカリィが身体を震わせながら尋ねてきた。
「どういうことなんだ、これは?」
「ユミ王女がこの城にずっといたってことだな」
冷静に事実を述べるケイの言葉に、ユカリィがゆるゆると首を横に振った。
「そんな。こんな近くにいたなんて……」
それにずっと気づかずにいたなんて、と臍を噛むユカリィに、ケイは小さく息をついて答える。
「悔やんでる暇はないと思うぞ。この部屋で暮らしていたユミ王女の姿が見えないってことは、だ」
「ユミが、危ない。母上も……」
瞠目し勢いよくケイの顔を凝視するユカリィに、ケイは深く頷いてみせた。
「急ごう。どちらにせよ、下に行ってみれば何か分かるはずだ」




