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「たか……らは……不死を称えし……や……ま……」
頬にかけられていた手がだらりと降下して、ケイはカレン侯爵夫人が息を引きとったことを悟る。
「カレンよ」
フルニエ侯は事切れたカレン侯爵夫人の亡骸に歩みより嘆いた。
(どうして!)
ケイは唇を噛みしめる。なぜこんなにも簡単に死を選ぶ。一族の大願より死の方が軽いというのだろうか。ケイは拳を握りしめながら、掠れる声で問いかける。
「なあ、ユカリィ」
「なんだ?」
しばし間があった後、ユカリィが返答する。
「世界で一番高い山はどの国にある?」
ケイはカレン侯爵夫人の亡骸を見つめたままで、ユカリィへ尋ねた。ユカリィが怪訝そうな声音でケイの問いに答える。
「山か? 山ならコストラのコリデンス山だろう」
「それは不死を象徴しているか?」
畳みかけるようなケイの問いに、戸惑った口調のままユカリィが返事をする。
「いや、山は並べて死を意味しているはずだ」
「なら、不死を意味する山は?」
「高い山ではないが、不死の象徴ということならば王のいる八つの城のある場所がそれだが?」
ユカリィの言葉にケイは考えを巡らせる。
『宝は不死を称えし山』
死の間際、カレン侯爵夫人は確かにそう言った。あの言葉はいったい何を意味しているのか。
ケイは小さく息を呑み、弾かれたように視線をユカリィへと向けた。
「ユカリィ、その八つの城の中で、一番中心にあると言えるのはどの城だ?」
「どの城もすべての要ではあるが、人工オゾン層の結び目がある、という点で言えば我が城がそうだ。……ケイ、まさか」
ユカリィの瞳がゆるゆると見開かれる。ケイは大きく頷き、臍を噛んだ。
「ああ。正直なところ、いまいち決め手にはかけるが。今のところそれしか考えようがない」
ケイは立ち上がり、ユカリィとタカを交互に見やる。
「急ぐぞ。タカ、祖父さんに知らせてくれ。それから他の皆にも。お前と皆は人工オゾン層の制御室から絶対に離れるな」
早口で宣言するケイに、タカが目を瞬かせる。
「え? え? どういうことさ?」
「一刻も早く動く必要があるってことだよ」
ケイは部屋のドアへ向かい歩きだしながら、タカに答えた。
「つまり、儀式の場所がどこだかわかったってこと?」
顔を顰めて尋ねるタカに、ケイは頷く。
「『血の蕾』は、エトランディス城にあるんだ」




