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王の匠  作者: 朝川 椛
破滅への序曲
66/101

4-3

「ユミ、私だ」


 硬く閉ざされた扉の前で、フルニエ侯が声をあげる。だがやはり、中からの返答はなかった。


「入るぞ、ユミ」


 フルニエ侯が宣言してこちらに向き直り、頷く。ケイは後ろへ下がるフルニエ侯に頷き返し、気合いとともにドアを蹴破った。


「な……!」

「なんと!」


 目にした光景に、フルニエ侯とタカが瞠目し叫ぶ。そこには生活感どころか、ベッドや鏡台など、ありとあらゆる調度品の消えた殺風景な空間が広がっていた。


「やっぱりか」


 呟くケイに、掌を強く握りしめながらユカリィが尋ねる。


「ユミは死んでいるということか?」


 ケイは何も言わず首を横に振り、タカの名を呼ぶ。


「横笛を吹いてみてくれ。ユミ王女を思い浮かべて」

「けど、今は昼間だよ?」

「大丈夫だ。『陽蕾』を盗まれてしまったんだ。今は昼も夜もない」


 視線を向けず確信をこめて言うケイに、タカはわかった、と頷き横笛を取りだした。しばらくして、澄んだ音色がその場に響き渡る。けれど、タカが発した音のほかには、何の変化も起こらない。


「やっぱりダメなんじゃない?」


 笛から唇を離して肩をすくめるタカに、ケイはかぶりを振る。


「そうじゃない」

「ではやはり」


 言葉を途切れさせたユカリィが、苦しげに唇を噛みしめるのが見えた。ケイはユカリィの背に軽く手を置く。


「大丈夫だ。いや、急がなくちゃならないが、ユミ王女は生きておいでだ」

「本当か?」


 縋るような瞳で見つめてくるユカリィに、ケイは確信を持って頷く。


「ああ、記憶の鮮明なタカが呼んでもユミ王女の記憶は現れなかった。……ということは、だ」

「誰かが故意に記憶を消していったってこと?」


 尋ねるタカに頷いて、急ごう、と一同を廊下へ促した。


「ディアの部屋か?」


 問うユカリィに、いや、とケイは短く否定する。


「彼女はもういないだろう」

「彼女が碧仮面だからか?」


 淡々とした口調で確信をついてくるユカリィに、ケイは胸の内で感嘆しながら首を縦に振った。


「そうだ。問題は誰が奴の『主』か、ってことだが」


 ケイは言葉を切って、ユカリィを見つめる。ユカリィもケイを見つめ返し、そうか、と頷いた。


「どういうことなのでしょう?」


 不安げな面持ちで尋ねるフルニエ侯に、ユカリィが短く答える。


「アランド、奥方は今何処いずこに?」

「カレンならば自室かと存じますが。まさか……!」


 目を見開きゆるゆると首を左右に振るフルニエ侯の瞳を、ユカリィが真剣な眼差しで見据える。


「ケイ、本当なの?」


 苦々しげに眉根を寄せ尋ねるタカに無言で肯定の意を投げかけ、ケイは鋭い口調で言い放った。


「案内してください。事は一刻を争う」

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