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「ユミは如何しているのか。最早猶予はない。余は早急に妹と会わねばならぬ」
「は、しかしながら陛下。ユミ様は養父母である私どもにも姿は愚か声すらも聞かせてはくださらぬ状況。如何すればよろしいのか、もはや私どもの力では如何ともしがたく……」
言いにくそうに言葉を濁すフルニエ侯に、ユカリィが短く命をくだす。
「ならばディアをこれに」
「直ちに。イアン」
フルニエ侯が深々と礼をして、傍らに控えていた侍従の名を呼んだ。
「は」
「ディアをここへ」
「かしこまりました」
一礼し踵を返すイアンを見送り、ケイはユカリィとともに目の前の食事に集中する。二人の視線が痛い。特にタカは、よくこの状態で食事なんてしていられるよね、という目つきでこちらを見つめてくる。ケイは、俺だけ手を止めるわけにはいかないだろうが、という意図をこめて見つめ返したが、通じたかどうかは怪しかった。自分だってこんな味も分からなくなるような状況でせっかくの料理を口にしたいわけではない。だが止めるタイミングも掴めぬままに、食器の音だけが部屋へと響き渡る。気まずい雰囲気の中、やっとのことで戻ってきたイアンが、いつもより数段硬い表情をしてフルニエ侯の横に立った。
「いかがした? ディアは?」
尋ねるフルニエ侯に、イアンが耳打ちをする。
「何? 姿がないだと?」
予想外のことだったのか、フルニエ侯がイアンに目を剥く。
「いかがした、アランド?」
「使いの者によりますれば、ディアが消えた、と」
絞り出すようにして言葉を発するフルニエ侯の青い顔を見ながら、ケイが呟く。
「やっぱりな」
ケイの言葉を聞きとがめ、ユカリィがこちらに向き直る。
「どういうことだ? ケイ。すべての元凶はディアだということか?」
ケイは無言で頭を振って、憔悴した様子のフルニエ侯に目をやった。
「とにかく、行ってみればわかる。フルニエ侯」
「うむ?」
「ユミ王女のお部屋へ行きたいのですが。タカと、できればフルニエ侯にも、御同行頂きたいのです」
静かだが有無を言わせぬケイの言葉に、フルニエ侯が目を瞬かせしばし沈黙した後、小さく頷く。
「行こう」
「わかったよ」
ケイは色々と釈然としない様子のタカが頷くのを待って、ユカリィに視線を移した。ユカリィが決意をこめた瞳でこちらを見つめ返してくる。ケイはユカリィの視線を受けて席を立つと、早足で部屋を出て一同の先頭に立ち、ユミの部屋へと向かった。




