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「少し、私たち三人だけになりたい」
ケイはしばらく眉根を寄せたそのままで、だんまりを決めこむユーリを見つめ続ける。だが、ユーリが折れる気配はまったくなかった。やむを得ない。これでは埒が明かないし、姿だけとはいえ四歳児姿のユカリィに対して、あまり強く言うのも何となく気が引ける。ケイは入れていた肩の力を抜き、わかりました、と答えユーリへ近づいた。
「では、これを持っていてください」
ケイは握っていた小さな横笛を、ユーリに手渡す。
「何かあったら俺を思い浮かべながら吹いてください。少しは時間稼ぎになるでしょう」
「わかった」
ユーリは頷くと、サーキュラーケープの影につけられた胸元のポケットに横笛をしまい、アーナに視線を向けた。ユーリの視線を受けたアーナもまた、小さく微笑んでケイに向かって頭をさげる。ぐずるサーマへ近づき諭すと、三体の『伝説のロア』は部屋へと戻っていった。
残ったケイは何となく部屋に戻る気にもなれず、夜風の吹くなか庭園のベンチに座り直した。一人頬杖をつき見るともなしに針葉樹の鋭い先端を眺めていると、そこへ馴染みの深い甘い声が降ってくる。
「なぁに小難しい顔してんのよ」
「うるさいな。勝手に出てくんなよ」
声のした方へ振り返ると、生意気ね、と鼻を鳴らすルージェの姿が目に入る。
「何度言えばわかるの? あたしはあんたに使役されてるわけじゃないのよ」
「とかなんとか言って、祖父さんの前ではやたらお堅そうな賢者姿で出てくるんじゃないか」
半眼で答えるケイに、ルージェが肩をすくめた。
「彼にはこの手のジョークは通用しないのよ」
「そうかな? あっちの方がずっとふざけた奴だと思うけどな」
心底首をひねるケイに、ルージェがくすりと微笑む。
「分かってないのね、ボウヤ」
「どうせボウヤだよ、俺は。で、そのボウヤに何の用なんだ?」
顔を背け問うケイに、ルージェが珍しく真面目な声音で答えてきた。
「動けない譲治の代わりに報告に来たのよ」
「何かあったのか?」
姿勢を改めルージェに視線を向けると、ルージェはいつものように意地の悪い笑みを浮かべる。
「ちょっとね。それより、聞くの? 聞かないの?」
「早く言えよ」
「かわいくないわねえ。本気で言うのやめちゃおうかしら?」
黙りこむケイ。ルージェ相手に口で勝てた試しはないので、とりあえずだんまりを決めこむと、こちらの態度に興をそがれたのか、ルージェがふと息をついた。
《お礼》
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