3-29
ユーリ、アーナ、サーマ。相も変わらず小さなユカリィ女王の姿で登場した『ロア』たちを見て、ケイは半眼で問いかける。
「どうしていつもその姿なんですか」
「ユカリィが望んでいるからですわ」
アーナが柔らかく微笑み答えてきた。
「正確に言うと、ユカリィにとって良くも悪くも印象的な年だったからだ」
アーナの言葉をユーリが補足する。さらに、溜め息をつくケイの腕をサーマが両腕で掴み、ケイは軽い眩暈を覚えた。このまま倒れてしまった方が楽な気がする、とケイは強く首を横に振る。
「お気に召しません?」
小首をかしげるアーナに、ケイは頭を掻き毟りたい衝動を必死で抑えながら答えた。
「そりゃまあ、ってああ、もういいですけど。それより、サーマ様をどうにかしてくれませんか?」
ケイにぶらさがるサーマを見て、アーナがまあ、と嬉しげに微笑んだ。
「サーマが余人に執着するのは初めてみましたわ」
「よほど気に入ったのだろう。あちこち歩き回られるよりずっと安全だ。しばらくよろしく頼む」
ユーリも淡々とした表情ながらどこか満足そうにこちらを見つめ、深く頷く。
「はあ」
ケイは苦虫を噛み潰したような気分のまま曖昧に頷いた。このままでいるのもどうかと思い座り直そうとして、その動きを止める。足元からぱりんと小さな音が聞こえた。音に気づいたアーナが、微苦笑を浮かべる。
「割れてしまいましたわね」
「え」
ケイは足元を見た。おもむろに足をあげると、足の裏についたガラスの破片がぱらりと落ちた。ユカリィがグラスを持ってきていたことを思いだす。もったいないことをした、と密かに落ち込んでいると、前方でアーナとユーリが不毛な言い合いを繰り広げ始めた。
「割れたのではない、割ったのだ」
「不可抗力ですわ」
「それでも割ったことには変わりない。外に持ちだすからこういうことになるんだ」
「それは無意味な言い分ですわ。グラスは使われてこそ、その価値があるのですもの。鍵の掛かった食器棚で守られているだけでは、それは安全でしょうけれど。物にも寿命と言うものがあるんじゃありません?」
ねえ、とこちらに向かって微笑みかけるアーナに、ケイは曖昧な笑みで答える。
「もっとも、その守ってくれていたはずの人間によって壊されるのですから、グラスの一生もなかなかに世知辛いものですけれど」
アーナの言葉に、ケイは瞠目し突如立ちあがった。
「それだ」
茫然と呟くケイに、ユーリが怪訝な声音で尋ねる。
「どうした?」
ユーリの問いに答える余裕はなかった。
「それだ、それなんだよ!」
ケイは沸き起こる興奮の波に飲み込まれ、感情の赴くままに叫ぶ。アーナが小さく首をかしげ、目前へ立ってきた。
《お礼》
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。
評価くださった方、感想をくださった方、お気に入り登録をしてくださった方々、初めて来てくださった方々、そしていつも読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。
最後まで頑張りますので、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。




