表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の匠  作者: 朝川 椛
フルニエス
57/101

3-29

 ユーリ、アーナ、サーマ。相も変わらず小さなユカリィ女王の姿で登場した『ロア』たちを見て、ケイは半眼で問いかける。


「どうしていつもその姿なんですか」

「ユカリィが望んでいるからですわ」


 アーナが柔らかく微笑み答えてきた。


「正確に言うと、ユカリィにとって良くも悪くも印象的な年だったからだ」


 アーナの言葉をユーリが補足する。さらに、溜め息をつくケイの腕をサーマが両腕で掴み、ケイは軽い眩暈めまいを覚えた。このまま倒れてしまった方が楽な気がする、とケイは強く首を横に振る。


「お気に召しません?」


 小首をかしげるアーナに、ケイは頭を掻き毟りたい衝動を必死で抑えながら答えた。


「そりゃまあ、ってああ、もういいですけど。それより、サーマ様をどうにかしてくれませんか?」


 ケイにぶらさがるサーマを見て、アーナがまあ、と嬉しげに微笑んだ。


「サーマが余人に執着するのは初めてみましたわ」

「よほど気に入ったのだろう。あちこち歩き回られるよりずっと安全だ。しばらくよろしく頼む」


 ユーリも淡々とした表情ながらどこか満足そうにこちらを見つめ、深く頷く。


「はあ」


 ケイは苦虫を噛み潰したような気分のまま曖昧に頷いた。このままでいるのもどうかと思い座り直そうとして、その動きを止める。足元からぱりんと小さな音が聞こえた。音に気づいたアーナが、微苦笑を浮かべる。


「割れてしまいましたわね」

「え」


 ケイは足元を見た。おもむろに足をあげると、足の裏についたガラスの破片がぱらりと落ちた。ユカリィがグラスを持ってきていたことを思いだす。もったいないことをした、と密かに落ち込んでいると、前方でアーナとユーリが不毛な言い合いを繰り広げ始めた。


「割れたのではない、割ったのだ」

「不可抗力ですわ」

「それでも割ったことには変わりない。外に持ちだすからこういうことになるんだ」

「それは無意味な言い分ですわ。グラスは使われてこそ、その価値があるのですもの。鍵の掛かった食器棚で守られているだけでは、それは安全でしょうけれど。物にも寿命と言うものがあるんじゃありません?」


 ねえ、とこちらに向かって微笑みかけるアーナに、ケイは曖昧な笑みで答える。

「もっとも、その守ってくれていたはずの人間によって壊されるのですから、グラスの一生もなかなかに世知辛いものですけれど」


 アーナの言葉に、ケイは瞠目し突如立ちあがった。


「それだ」


 茫然と呟くケイに、ユーリが怪訝な声音で尋ねる。


「どうした?」


 ユーリの問いに答える余裕はなかった。


「それだ、それなんだよ!」


 ケイは沸き起こる興奮の波に飲み込まれ、感情の赴くままに叫ぶ。アーナが小さく首をかしげ、目前へ立ってきた。

《お礼》

ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。

評価くださった方、感想をくださった方、お気に入り登録をしてくださった方々、初めて来てくださった方々、そしていつも読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。

最後まで頑張りますので、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=904022106&s yado-bana1.jpg

相方さんと二人で運営している自サイトです。




― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ