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王の匠  作者: 朝川 椛
フルニエス
56/101

3-28

「あまりカイトのことを信用しない方がいい」

「何でだ?」


 小首を傾げるケイに、少し躊躇った後ユカリィが苦々しげな口調で話を切りだす。


「彼は私とユミ、それから父上にとって、裏切り者以外の何者でもないからだ」


 『裏切り者』とは穏やかではない。ケイはついていた頬杖を解き、ユカリィの双眸を見つめた。


「どういうことだ?」 


 問いかけるケイの瞳をしっかりと受けとめ、ユカリィがきっぱりと言い放つ。

「カイトは私の母と通じている」

「それって、つまり……」


 エリィ前王妃とエリオット公の仲がただならぬものである、ということだ。ケイは聞きなれない大人の事情に内心うろたえながら、極力平静を装って話を促した。


「いつからなんだ?」

「わからない。だか気づいたのは、四歳の時だ」


 ワイングラスを片手に足を伸ばし、その爪先を見つめながらユカリィが答える。ケイはユカリィの言葉から出てきた『四歳』というキーワードに、息を呑んだ。


「もしかして」


 ケイの言葉に、ユカリィが頷く。


「そうだ。ケイと遊んだ次の日、つまりあの儀式の直前、抱き合う二人を見てしまった」

「そうだったのか」


 ゆるゆると頭を振るケイに、ユカリィの淡々とした声音が振ってくる。


「母上はカイトの言うことに盲信的だ。だからと言ってカイトが我が国にとって不利になるようなことをしたわけではないが。私には母上お一人の考えで妹をフルニエ侯のもとへ送ったとはどうしても思えないんだ」


 遠い目をして語るユカリィの言葉が胸に突き刺さる。あの時彼女の身に起こったことを考えると、握りつぶされんばかりに胸が痛んだ。けれど、感情に流されてばかりでも話が前に進まないだろう。ケイは空を見あげるユカリィの横顔に向かい、冷静な口調で尋ねる。


「だがエリオット公が言うには、ユミ王女をフルニエスへ送るよう進言したのはフルニエ侯御自らだと言うことだったが?」


 ケイの言葉に、ユカリィが暮れなずむ空を見つめたまま頷いた。


「そうだ。だが私には、どうしてもそうとは思えないんだ。ユミをフルニエスにやる必要はどこにもなかったはずだから。彼女の方がよほど世継ぎに相応しい精神力を持っていた。それに何より」


 言葉を詰まらせるユカリィに、ケイは問う。


「なんだ?」

「ユミは私の可愛い妹だ」


 空から視線を移し、ユカリィが真剣な面持ちでケイを見つめる。そんなユカリィに、ケイもまた声を低くして尋ねた。


「幼い頃から離れて暮らしていても、か?」

「そんなことは取るに足らないことだ」


 首を左右に振って否定するユカリィに、ケイはふと息をつく。


「そうか。俺とは違うな」

「ケイ?」


 不思議そうに尋ねてくるユカリィに、ケイは自嘲気味に微笑んでみせる。


「俺にも妹がいたんだ。二卵生の双子ってやつで、赤ん坊の頃に死んじまったんだけど」

「そうか」

「俺は父親似、妹は母親似だったそうだ。けど」


 ケイはそこで言葉を切り、深々と溜め息をついた。


「正直俺には兄弟や姉妹の気持ちはよく分からないんだ。母親の記憶もおぼろで、呼び出しても顔がないくらいだしな」

「お母上は、なんと?」


 静かな口調で尋ねてくるユカリィに、ケイはおどけて笑う。


「それがさ。声も覚えてないから、他人の記憶と同じで声は聞こえないのさ。俺たちにしか聞こえない独特の旋律があるから、感情は理解できるんだが……」


 ふいに右肩の重みが増して、ケイは右隣を見やった。そこにはずり落ちるようにして自らに寄りかかってくるユカリィの姿があり、ケイは不安になって名を呼んだ。


「ユカリィ?」

「すま……ない……。もう……ねむ……」


 言葉もそこそこに、眠りに落ちるユカリィ。持っていたグラスが地面に落ち、小さく割れる音がする。同時に辺りはすっかり闇に包まれ、まもなくユカリィの体が光に包まれた。眩い光の中、消え去ったユカリィの身体と引き換えに現れたのは、三体の『伝説のロア』たちだった。

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