3-27
「そうだなあ。例えば、ひたすら昔話を聞いてる夢、かなあ」
「どんな話だ?」
ユカリィが、淡々とした声に少しだけうらやましそうな声音を滲ませ、ケイへと尋ねてくる。彼女にはあまり父親との思い出がないのかもしれない。ケイはユカリィの声音を聞いてふと浮かんだ答えをごまかすように、少し大仰な溜め息をついて頭へと手をやる。
「あんまり覚えてないんだけどさ。この国の成り立ちとか、もっと昔の、この国がまだ海に囲まれていて、日本って呼ばれてた頃の昔話とかだな」
絶世の美青年があちらこちらの女性に手を出す話とかもあったっけ、と苦笑するケイに、ユカリィが困惑しきったような何とも形容しがたい表情を浮かべた。
「それは多分、『源氏物語』だろう。私もよく母から聞かされた」
あまりいい思い出ではないのか、小さく吐息を吐くユカリィ。
「その話に六条御息所という女性が出てくるだろう?」
「ああ、あの嫉妬に狂って生き霊になった女性か。確か蝶になって憎い女性の元へ飛んでいき、呪い殺していくんだったっけか?」
首をかしげながら話を思い出しつつ言葉を紡ぐケイに頷き、ユカリィがぽつりぽつりと話を続ける。
「母が言うんだ。お前の辿る運命と六条御息所の運命は似ていると。『ロア』を出現させる王は、嫉妬に狂い生き霊を生み出した六条御息所と同じだと。だからくれぐれもそうならないように、と繰り返し言い聞かせられてきたんだ」
それなのに私は、と眉根を寄せるユカリィの横顔を見ながら、ふとケイは奇妙な感覚に襲われた。なんだか分からないが、どことなくくすぐったいのである。もっと彼女の色んな顔が見てみたい。できるなら、笑った顔が。そんな思いが一瞬頭をかすめるが、そうそう遊んでばかりもいられない。ケイは気を引きしめると真面目な口調で問いかけた。
「なあ」
「なんだ?」
こちらの表情に、ユカリィもまた真剣な面持ちで尋ね返してくる。ケイは膝に肘を当て、頬杖をつきながら、ユカリィへ問う。
「君はどう思う? フルニエ侯のことだが」
「正直、まだ何とも言えないが。ケイ」
「ん?」
呼ばれて視線を向けるケイに、ユカリィが真剣な眼差しでケイを見据えてきた。




