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「覚えてるかな? 俺たち小さい頃、一緒に遊んだことがあるんだが」
尋ねるケイに、ユカリィが小さく頷く。
「記憶している」
その言い回しに苦笑しながら、ケイは話を続けた。
「あの時したかくれんぼで。ほら、俺が鬼で。君は隠れたけどなかなか一人では見つけられなくってさ」
「ああ」
遠い目をして、ユカリィが頷く。
「困って父さんに言いに行ったら、めちゃくちゃ怒られて。その後みんなで大騒ぎして捜したら、君は庭のバラの影に何時間も隠れてた」
「そうだったな」
「陽も暮れて心細かっただろうに、目に溜めた涙を必死でこらえながら俺にしがみついてきて、俺に言ったんだ」
「私が? なんと言った?」
眉根を寄せ、必死に思い出そうとしているらしいユカリィの瞳を、ケイは見つめる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「『すまない』」
瞠目し、黙り込むユカリィ。ふいに顔を背け、足元に目を向ける。
「あの時の君は、今と同じような顔をしてるよ」
沈黙が流れる。ケイは無言のまま足元を見つめ続けるユカリィに、小さく笑いかけた。
「いいことを教えようか?」
こちらの明るい声音に誘われるように、ユカリィがおもむろに顔をあげてくる。ケイはそんなユカリィに向かい、得意げに鼻を鳴らした。
「俺はいつでも親父と会えるんだ」
「今もか?」
「ああ」
「死んでいるのにか?」
「誰に言ってるんだよ」
ユカリィの畳みかけるような質問に、俺は釦師なんだから、とケイは笑う。
「親父は死んでるけど、今もちゃんと記憶として存在してるんだよ。父親のやつ、呼び出すたびに君の心配ばかりする」
「私の?」
ケイは口を引き結び、真面目な心持ちで頷いた。
「親父はあの時、文字通り命をかけて君の中へ太陽力を封じ、そして死んだ。でも君だって同じように戦ってた。それはあの場で見ていた俺が一番良く知ってる。だからそんなに自分のことを責めないほうがいい」
「すまない」
その生真面目な口調に、ケイは苦笑する。
「変わらないな、ほんっとうに」
「そうだろうか?」
「そうだろ」
「そうか……」
眉根を寄せて考えて込むユカリィに、ケイは肩を震わせて笑った。
「実はさ、親父は夢にも時々出てくるんだ」
「嫌な夢、か?」
躊躇いがちに問いかけてくるユカリィに、ケイは小さく手を左右に振る。
「そういう時もないわけじゃないが、大抵は小さい頃の何でもない平和なのが多いな」
「どんなことをしているんだ?」
興味深げに訊いてくるユカリィを横目に、ケイは薄藍の空を見上げた。




