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「これはこれは。面目もございません」
ケイは慇懃に礼をする。夫人たちはくすくすと笑いながら、
「まあ、あまり苛めても可哀想ですわよね」
と頷き合った。二人は笑いをおさめると、
「さて、冗談はさておき、テルモアの方が何故わたくしたちを御存知なのかしら?」
抜け目のない瞳でユカリィを舐めるように見つめる。ケイはユカリィが何事か言う前に、極力平静を装って答えた。
「リチャードは大変記憶力に優れているのでございます。とても私の及ぶところでは御座いません」
「まあ、素敵。釦師様方は皆頭がよろしくていらっしゃるのね」
嫌みとも褒め言葉ともつかない感嘆の声に、ユカリィが淡々とした表情のまま、淀みない動作で一礼する。
「恐れ入ります」
ブラウン伯爵夫人が小さく目を見開いた。瞳を瞬き、もう一度ユカリィを見つめる。やがて小さく頷くと、感じ入ったような溜め息を落とした。
「素敵ですわねえ」
うっとりとした表情でユカリィを見つめるブラウン伯爵夫人。その様子を何となく面白くない気分で見つめていると、フォード子爵夫人が顔を寄せ、それにしても、と話題を転じてきた。
「ユミ様はご心配ですわね」
慎重に頷くと、フォード子爵夫人が声を顰めて話を続けてくる。
「聞くところによりますと、養父君のフルニエ侯との仲があまり芳しくないとか」
すると、今度はブラウン伯爵夫人がその話題に乗ってきた。
「以前も似たようなことがありましたけど、今回はお食事もなさってらっしゃらないとか」
え、とケイは眉根を寄せる。
「ディアから聞いた話では食事はきちんと摂っていらっしゃるとのことでしたが」
ケイの言葉に、ブラウン伯爵夫人が頭を振った。冷たい予感が背中を走り抜ける。息を詰めて答えを待った。
「いいえ、違うそうですわ。先程、おねだりしてシェフに厨房という所を見せていただいた時に、直接お聞きしたんですもの。ねえ、アルナ?」
同意を求めるブラウン伯爵夫人に、ええ、とフォード子爵夫人が頷く。
「確かですわ。わたくし、シェフの一人がユミ様のためのお料理を捨てていらっしゃるのを、この目でしっかりと見ましたもの」
「そうですか」
ケイは曖昧に頷きながら、そっとユカリィを窺った。さぞかし妹が心配なことだろう。今の話を聞くかぎり、ユミ王女の生存の確率はまた低くなったのだから。だが、そんなこちらの心配をよそに、ユカリィの表情は淡々としていた。少し重くなってきた瞼を堪えるほかは、何の表情も読みとれない。ケイはゆるゆると首を左右に振って、窓の外の澄み切った茜色の空を暗澹たる気持ちで眺めやった。




