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「これがリチャード流の会話術ってやつなのさ。それよりお前、店の方はいいのか?」
こちらの問いかけに、タカが肩をすくめる。
「こんなご時世だからね。開店休業ってやつだよ。おじいちゃんとこの本店もそうだろ?」
「まあ、確かにそうだが。でも、叔父さんたちは? もしかしてお前が城に上がったのか?」
尋ねるケイに、そういうこと、とタカが自慢げな表情を浮かべた。
「まあ、僕は城付きになったばかりだから。今は父さんと兄さんが外回りを担当してるってわけ」
「よく継ぐ気になったな」
ケイは心からの感嘆を込めタカを見つめる。するとタカは、フルニエ侯がお優しい方だからさ、と照れたように頭を掻いた。
「だから、できるだけお側でお仕えしたいと思ったんだ。それに、ユミ様も心配だったしさ」
紡いだ言葉がとりわけ優しく感じるのは気のせいだろうか。ケイは頬が赤く染まるのをごまかそうとそっぽを向く従弟の姿に、口元を緩める。このまま何もかも忘れて、この宴を心ゆくまで楽しんでしまおうか。脳裏をそんな思いが一瞬霞め、ケイはゆるゆるとかぶりを振った。
「ケイ?」
「どうした?」
ユカリィとタカが問う。二人同時に心配されて、ケイは思考の迷路から舞い戻った。今は情報だ。ケイはでき得る限りに陽気な笑みを浮かべると、タカへさり気ない口調で尋ねた。
「お前、ユミ王女と親しいのか?」
タカは造作もなく頷き、だが少し戸惑ったような表情を浮かべる。
「小さい頃から、一緒に遊ぶ機会が多かったから」
「今のユミ様のご様子をどう思う? お前とは、お会いすることがあるのか?」
ケイの畳みかけるような口調に、タカが首を横に振った。
「ううん、まったく。いつも御部屋の前で門前払いさ。御声でさえまったく聞かせてはくださらない状態だよ」
タカが沈んだ声で足元を見つめる。やがて顔をあげると、打って変った明るい笑みで、けど、と言葉を続けた。
「あんまりその事に関しては心配してないんだ。ユミ様が御籠もりになるのって、実は二度目だし」
「どういうことだ?」
眉根を寄せケイは訊く。タカは記憶を辿るように斜め上を見あげつつ答える。
「確か、三年前だったかな? ちょうど今回みたいに何ヶ月も御部屋に籠もって、誰ともお会いにならなかったんだよ。それを案じたカレン様の意を汲んで、侍女の一人が一計を案じ、見事ユミ様のお心を溶かしてみせたって話だよ」
誰だったっけ、と腕を組んで考えこむタカに、ケイが助け舟をだす。
「ディアか」
「あ、そうそう。その子」
「ディアも小さい頃からこの城にいるのか?」
重ねて尋ねるていると、斜め後ろから声がかかった。
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