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「呼んだ?」
女は錫杖にまたがり、わざとらしくしなを作ってケイを見つめる。ケイは視線をそらし、明後日の方に目をやった。
「お前はまたそんな格好で」
「似合う?」
ルージェが潤んだ藍紫色の瞳を瞬かせ、顔を寄せる。
「性別なんてないくせに」
ケイはそっぽを向いたまま半眼でぽつりと呟いた。とたんに、錫杖の先端をつま先にぐりりと押し当てられる。
「痛ってぇなあ! ホントのことだろ!」
「この世には言っていいことと悪いことがあるのよ」
錫杖を鳴らして怒るルージェに、ケイは顔を顰めながら話を戻した。
「悪かったよ。でも今は一刻を争うんだ。『ロア』が出た」
「そのようね」
ルージェは興味がないと言わんばかりにあくびをし、肩をすくめる。
「今どこにいるのか教えてくれないか?」
「イヤ」
「おい」
ケイは眉間に皺を寄せ、即答したルージェを見つめた。
「あたしはあんたたちの言う『全ての事象の記憶(マインド・オブ・マインド)』なのよ? 他の奴らと違ってあんたに使役されてるわけじゃないんだから」
ルージェは、物憂げな表情で長い黒髪を掻きあげる。
「だいたいそれくらいあんたなら訳ないはずでしょ、ねぇ? 『月の民レイラリア』の末裔にして『王に印を刻みし者』都基山螢。海に囲まれていたこの地が陸続きとなりし時、それを治めた誇り高き者たちの末裔よ」
瞳を細め、ケイの肩にしなだれかかるルージェ。そのままケイの淡い焦げ茶色の髪を一房取って弄ぶ。ケイは顔をそむけ、鋭く吐き捨てた。