3-20
翌日、ケイたちのために午後から小さな歓迎の宴が催された。
ケイは来客に一通りの挨拶を終えると、広間の円柱に背中を預け、ほっと息をつく。ワイングラスを片手に厳かな旋律の室内楽へ耳をかたむけながら、周囲を見回した。
用意されたいくつもの丸テーブルに、整然と並べられた豪華な料理たち。季節のサラダ、ジャガイモのポタージュ、白身魚のマリネ、フォアグラのテリーヌ、牛肉のスライス、チーズの盛り合わせ、タイの香草焼き、エビのワイン蒸しなどなど。ケイはそれらを眺めつつ、ワルツのステップを踏んでは回転している人々を横目に、いつの間にかはぐれてしまったユカリィを捜す。やがて、並べられたテーブルの一角で皿を片手に料理を選ぶ、真剣な表情のユカリィを見つけた。
「おい、少しは立場を弁えろって」
近づいて後ろ頭を軽くたたき、周囲に気を配りつつ小さく囁く。
「わかっている」
ユカリィが頷いた。皿に温かくローストされた牛肉を小さく盛り、ゆっくりとこちらを振り返る。心なしかその頬が上気して見えるのは気のせいだろうか。
「そんなに嬉しいのか」
「当たり前だ。私は今までこんなに温かな料理を食べたことがない」
「冷たいのもあるぞ」
半眼で答えると、ユカリィは事もなげに頷く。
「それはもう食べた」
ケイは返す言葉を失い、沈黙した。正直、何を悠長な、と叱りつけたいところではあったが、彼女の表情を見ていると、その苛立ちも霧散する。これだけ幸せそうなユカリィを見るのも再会して初めてのことだ。まあこれも悪くないか、などと思いながら、温製の料理を口へ運ぶユカリィを眺めていると、ふいに背後から声がかかった。
「やっと見つけた!」
声に呼応して振り向くと、そこにはよく見知った人物が立っていた。




