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気づかれてしまっただろうか。だが、一瞬で確認したイアンとディアの表情からは、何の変化も読み取れない。内心でほっと胸を撫でおろしつつ、ケイは扉の向こうからの返事を待つ。だが、いくら待ってもユミから言葉が返ってくることはなかった。やがて、辛抱強く扉の前で片膝をつき待っていたユカリィが、落胆の色を見せることなく淡々とした口調で頭を垂れる。
「以上にてございます。私どもはしばしこの城に滞在いたす所存にてございますので、御体調のよろしい時にでもお声かけ頂ければ幸いにございます」
しかしながら、扉の向こうからの返答は、やはりなかった。
「また明日、参ります」
その一言に決意をこめるように、ユカリィが低い声で言葉を区切る。ゆっくりとした動作で立ちあがり、ディアとイアンに向かって一礼した。
「ありがとうございました」
「いえ」
「お役に立てず申し訳ございません」
ディアとイアンがそれぞれに視線を落とし、苦しげな表情を浮かべ重々しい口調でユカリィに詫びる。それに対し緩くかぶりを振り、
「いえ、それより一つお頼みしたいことがあるのですが」
言いながら、ユカリィがディアに近づいた。
「ユミ様の一日のご様子、領主様方だけでなく私にもお伝え願いたいのです。少しでも女王陛下に妹君のご様子を詳しくお伝え致したい」
視線を足元に向けていたディアが、ユカリィの言葉を聞きちらりとイアンの表情を確認した後、小さく首を縦に振る。
「かしこまりました。必ずお伝えいたします」
強い言葉とは裏腹に、不安げな色を覗かせるディアの瞳を見て、ケイはやはり扉を開けるべきか悩んだ。
(ユミ王女は、本当に生きているのか?)
とっさに浮かんだ答えに、ケイは小さく息を呑む。いや、それは早計だ。否定してはみるものの、心に一度浮かんだ疑惑はそう簡単には拭い去れない。扉を破るべきか。……いや、多分、今は時ではない。そんな気がする。第一、ここで自分が先走りでもしたら、ユカリィの身が危険に晒される。もしこの予想が当たっているとするならば、おそらくそれはユカリィにとって最悪の結末であるに違いない。そうなった時、果たして彼女は正気を保っていられるだろうか。
(無理だろうな……)
感情が一部欠けてはいるものの、ユカリィがやっとのことで平静を保っているのは明らかだ。ここで無茶をしていたずらに彼女を刺激し、力を暴走されでもしたら、元も子もない。今はユカリィの身の安全を考える方が先決だろう。
(とにかく、もう少し情報が必要だ)
ケイは硬く閉ざされた扉をじっと見つめながら、嫌な予感にざわつく胸を必死でやり過ごす。
『すべては順序が大事なんだ』
ふと蘇ってきた亡き父の言葉を、ケイは深く噛みしめた。




